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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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69.ちゅうい、婚約者邸

 ひと通り説明をしてもらった後、フブキさんは「セイレン様に、お願いがございます」と改まったように言ってきた。


「秋の収穫祭初日は、当主様が表に出られてごあいさつをなさることになっております。急で申し訳ないのですが、よろしければセイレン様もお出でいただけないでしょうか」

「え?」


 初日って、明日だろ。ほんといきなりだな……でも、何でだ。


「タイガ様が、婚姻の儀の前に是非ともセイレン様を領民に紹介したいのだそうで」

「要するにタイガ様、セイレン様を自慢したいんですねー」

「言い方はあれですが、まあその通りですね」


 オリザさん、言い方軽いなあ。それから否定しないのか、フブキさん。表情は真剣なままなんで、さすがに突っ込めなかった。

 あーえーとつまり、俺タイガさんの婚約者としてこっちの領民さんたちの前に出ろってことか。

 そう気がついて、顔が熱くなった。うわー、向こうで交際報道されてマスコミ会見することになったアイドルって感じ? いや、俺アイドルでもなんでもないけど。


「それと、セイレン様の御身を案じられてのことだと思います。できる限りおそばに置いて、お守りしたいのだと」

「私の?」

「はい。あまり大きな声では言えないのですが」


 おっと。妙にフブキさんが真剣すぎるというか何かにらむような顔をしてるので、慌てて俺も顔を直す。というか、直ったかな。

 うちのメイドさんたちが周りを囲むように集まってるのを確認して、フブキさんは小さな声で教えてくれた。


「先代様が隠居なされた時に、腹心の部下などが多く解雇されております。仕事に比して高給でしたので、財政を引き締めるためだとタイガ様はおっしゃっておられましたが」


 ってことは、トーカさんの腹心の部下ってことか。給料ボッタクリ過ぎ、の他にもあるんだろうな、理由。

 ……俺のことか。あと、院長先生のこと。そしてもしかしたら、院長先生のお母さんとトーカさんのお母さん。いや、さすがに最後はまさか、とは思うけど。


「ですが、その解雇された部下の周辺が少々怪しい動きをしているようです。くれぐれも、御身お気をつけくださいませ。この事案に関しましては、セイレン様への情報提供を怠ってはならぬとタイガ様より厳命されております」

「……はい。ありがとう、分かりました。重々、気をつけます」


 ともかく、フブキさんの忠告を素直に受け入れることにする。

 タイガさんは、自分ちの事情をちゃんと教えてくれて、だから気をつけてくれって俺に言ってるんだ。だったら、俺もしっかりしないとな。夏の時みたいに、また変な魔術に引っかかってしまったら偉いことになりそうだし。


「では、私はこれで失礼致します。シキノの使用人に用事を申し付けたい時は、前室に呼び鈴がございますので」

「分かりました。お世話になります」


 俺がそう答えると、フブキさんはもう一度深く礼をして客間を出て行った。呼び鈴かあ、どんなふうになってるんだろ。


「ああ、前室に房のついた紐が下がっているんですよ。それを引くと、こちらの使用人室で呼び鈴が鳴るということだそうです」

「なるほど」


 アリカさんに聞いてみると、そうだってことらしい。俺は気づかなかったんだけど、天井の壁際のところに紐通すパイプみたいのがついていて、ずっと向こうまでつながってるんだとか。

 扉も壁もしっかりしてて、こっちの世界って電話みたいなのないもんな。物理的に紐で結んで、呼び鈴鳴らして人を呼ぶわけか。


 小さい疑問が解決したところで、目の前にどんと置かれた問題について考えることにする。どうせ、晩飯まであんまりやることないし。時間分かってるから、その前に身体を拭いて準備すればいいんだもんな。


「えーと。要するに、トーカさんと一緒に悪さした使用人さんたちをタイガさんが首切って、それの逆恨みを食らってる、ということかな?」

「そうでしょうね。といいますかセイレン様、その悪さの被害者ですよ」

「まあ、そうなんだけど」


 うーん、いまいち自覚ないんだよなあ。男にされてよその世界に飛ばされてたってのも、こっちに来て女に戻るまで知らなかったわけで。いや、院長先生は気がついてたけど。

 直接被害っぽいものは夏のあれだけど、結局未遂に終わってるし。いや俺、危機感薄すぎるんだと自分でも思う。もうちょっとしっかりしないと、シーヤの娘としてもタイガさんの婚約者としても危なっかしくてしょうがない。うん。


「なあ。怪しい動きって、何すると思う?」

「えーと、先代のご当主の正体バラシとか?」

「そっか、知ってる人は当然知ってるな」


 オリザさんの案、なさそうでありそう。

 先代が実はトーヤさんじゃなくって、トーヤさんに成り代わったトーカさんだってのをばらす、か。で、ついでにやったこと全部ぶっちゃけて、シキノのお取り潰しを狙うって感じかな。

 後がない連中なら、何やってきてもおかしくないんだよな。自爆っていうか、死なばもろとも、でいいんだっけ?


「あと、やっぱあれですねー。タイガ様お強そうですから、客として招かれてるセイレン様を狙ってこういろいろとやらかしそうですー」


 だよねー。俺自身は戦闘能力、まるでないもんな。

 それでメイドさんたちとかタイガさんに守ってもらってる情けない状態なわけだけど。男だった頃から、あんまり運動とか得意じゃなかったしなあ。


「ああ、セイレン様のお読みになってる本でもありますよね。お姫様を人質にして、言うことを聞かなければどうのこうの、という目の前にいたら壁にめり込ませたくなるような連中が」


 ミノウさん、俺の読んでる本はフィクションだからね。つくり話読んで本気で怒って建造物破壊はなしだから、な。いや、リアルでそんなことになったら相手が悪いのでしょうがない、んだけどさ。


「王子様役のタイガ様が、タイミングよく来てくださるとは限りませんからねえ。もっとも、セイレン様には私たちがついてるわけですが」


 アリカさんは力強く笑って、力こぶ作ってみせた。いや、見えるほどできていないけど。

 この世界でも、王子様に助けられるお姫様とか、そういうのに憧れるのは共通らしい。いや、あの時はほんとタイミングばっちりで来てくれたのが嬉しかったんだけどな。

 ……要するに俺は、誰かに助けてもらうのが前提なんだよなあ。あー、凹む。


「……ほんと勘弁してくれ。狙われる側としては面倒だし、そもそも俺自身反撃できる力がないってのは凹むんだよ」

「セイレン様が拳を振り上げる必要はございません。そのために、我々3人がついているのですから」

「そうですよう。悪党殴っちゃったりしたら、セイレン様の手が汚れますー」


 だから素直に言ってみると、ミノウさんとオリザさんは当然のように返してくる。彼女たちは俺を守るための専属メイドさんなので、お仕事を考えても当たり前の返答、らしい。

 反撃って言えば、1回だけやったっけ。


「……あ。トーカさんの急所、蹴ったな」

「緊急避難措置ですね。何の問題もありませんよ」


 さらりと言ってのけるアリカさんの涼しい顔が、逆に怖い。いやだって俺蹴ったの、股間だったし。

 自分でやっといて何だけど俺も一応、あの痛みは分かるっていうかね? うん。

 にしても、だ。俺が狙われるかもしれないってこの状況、ひょっとしてタイガさんに余計に迷惑掛けることになってないか?


「俺、こっち来ないほうが良かったかなあ……」


 その気持ちが、ついつい口に出たらしい。一斉に、3人が俺に視線を向けてくるのが分かった。

 その中で、まず答えてくれたのはミノウさんだった。


「いえ、そうでもないようですよ」

「え?」

「確かに魔術防御ではシキノの屋敷はシーヤに及びませんが、魔術の壁は一般的なレベルで作られています。それに、物理的な防御はかなりしっかりしていますね」


 そう言ってミノウさんは、手近な壁を軽く小突いてみせた。どん、と鈍い音がする。結構頑丈な壁らしいな、これ。つまり、普通レベルの防御はできるわけか。

 その後に、アリカさんが続く。


「それと、フブキさんです。あの人、只者じゃないですね」

「え、そうなの?」

「はいー。多分ですけどー、ミノウでも五分五分くらいだと思いますー」

「力であれば勝つ自信はありますが。おそらくは何らかの武器を扱えます」


 オリザさんとミノウさんの冷静な分析。それで俺は、何か納得がいったような気がする。

 あの、やたら鋭い目。


「あー、妙に目が鋭いって思ったの、それか」


 なるほど。レオさんとこのアヤトさんとマイトさんみたいに、護衛とかその辺の技術を持ってる人なんだ。

 だから、タイガさんは彼女を俺の担当にした。少なくとも、家の中では守れるようにって。


「それとですねー、セイレン様」


 妙に張り詰めた空気の中にあって、いきなりオリザさんが明るい声を上げた。おう、と驚いたところで皆の空気が一気に切り替わる。はー、えらく緊張した。


「これ、覚えてらっしゃいますかー」

「ん?」


 彼女からぽんと手渡されたのは、紫色の小さな巾着袋。中身は多分石で……あ、思い出した。


「春祭りで、ジゲンさんが売ってたお守りだよね。確か350イエノの」

「おお、お値段までばっちりですー」


 あの時のジゲンさん、結構可愛かったんだよな。毎年あんな感じでお守り売ってるって聞いてちょっと驚いたけど……でも、何で今ごろ?


「それを、肌身離さずお持ちくださいってジゲン先生がおっしゃってましたー」

「解雇されていない使用人の中に、トーカ様の腹心がいないとも限りません。ですから、万が一のためのお守りということだそうです」

「そうなんだ? ……うん、分かった。厳しいなあ」


 オリザさんとアリカさんの言葉を受けて、俺は何となくその小さな袋を握りしめた。そっか、お守りか。ジゲンさんが持ってろっていうことは、何か仕込んだな。

 にしても、使用人さんまで疑わないといけない状況なんだ。実はトーカさんの部下だった人がまだ残ってて、トーカさんの敵討っていうかそういうことやらかす、ってことかな。

 てーか、タイガさんが当主になるまでほとんどそういう人ばっかりだったんだよな。タイガさん、ほんとよく頑張ってると思う。


「確かに危ないかもしれないですけど、私たちがついていますから。もし悪い奴らが出てきたら、嫁入り前のお掃除ということで」

「オリザさん、相変わらずな言い方するなあ」

「……これがオリザのいいところであり、悪いところですから」


 ミノウさん、小さくため息ついたの、聞こえたよ。でも、確かにそう思う。

 空気読めないとか読まないとか、時と場合によってはいいこともあるもんな。うん。

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