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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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64.なにもの、居候青年

 その日の朝食は、意外と普通に終わった。レオさんもおとなしく、というか昨夜もそうだったんだけど、彼の食事マナー完璧なんだよね。


「あ、モンドおじさま。あとでお話したいことあるんですけど、お部屋に行ってもよろしくて?」

「ふむ。構いませんぞ、お待ちしております」


 気になったのは、レオさんと父さんのこの会話くらいだった。俺らの前じゃ話せないことなんだってのは分かるから、口は挟まなかったけどな。母さんも内心はどうか分からないけど、少なくとも平気な顔してたし。

 戻り際にアヤトさんが済まなそうにこっちに頭下げてくれたの、多分昨夜の事まだ後引いてるんだろうな。俺もちょっと大人気なかったかも、と思って頭を下げた。

 午前中は本を読むことにしてたから、部屋に戻ってその本を取り出す。子供向けの物語で、クオン先生が文字覚えたてならこれからって勧めてくれたんだ。確かに分かりやすい文章だし挿絵が綺麗なんで、読んでて結構楽しい。

 いわゆる冒険ものなんだけど、主人公が使うのが魔術なくても使える道具、名前は違うんだけど例えばパソコンとか銃とか。魔術が使える世界だと、逆にこういうのがファンタジーというか夢物語なんだよなあ、とある意味感心した。


「へー。セイレン様のおられた世界って、そんなとこだったんですかあ」

「うん。院長先生、今も頑張ってるんだろうなあ」

「トーヤ様、またお会いできるといいですねえ」


 オリザさんもアリカさんも本の内容を知ってるってことで、俺が育った世界のことをちょっとだけ話してみた。本の中の世界とよく似たところだと知って、オリザさんの丸い目がそれこそまんまるになる。俺の認識と逆だから、そこら辺面白いかも。

 アリカさんは頬に手を当てて、なにか考えてたみたいだ。すぐに、その考えっていうか疑問を口にする。


「魔術が使えない世界ってちょっと想像できないんですけど、そうすると夜の灯りとかはどうなさってるんですか?」

「昔はろうそくとか、油使って火を灯してたみたいだな。今は電気……えーとまあ、雷みたいなエネルギーがあってさ、それで大概まかなってる」

「なるほどなるほど。世界世界でいろんなところ、違うんですねえ」

「違うなー。でも、食事のマナーとかはあんまり違わないんだよな。おかげでほんと、助かってる」


 いやもう、そこがこっち来て一番助かったこと。あと、トイレの使い方とかな。ちょっとした仕草なんかも共通点が多くて、そこだけ見るとほんとに別の世界なのかって思えてしまう。

 別の世界だって分かりやすいのは、魔術のあるなしと科学の発展レベル、あと武器とかか。


「向こうの世界だと、剣とかって使わないんですかあ?」

「あんまり聞かないな。使う時は競技としてだったりするし」


 戦争で接近戦とかなっても、大概銃とかだろうしな。その辺、テレビの向こうの話だったからあんまり良く知らないんだけどさ。


「はー……でもそのかわり、おっきな魔術みたいな攻撃とかするんですよね?」

「そうそう。だからさ、正直こっちの方が平和っちゃ平和かもな。向こうはそういうでっかい兵器持った国同士がにらみ合いとかしてたりするから」

「物騒なんですね……」


 いやもう、オリザさんのため息混じりの台詞には返す言葉もない。ほんと物騒だよ。

 ま、物騒なのはこっちも似たようなもんだと思う。規模が大きいか小さいか、くらいで。何しろこっちには魔術とかあるし、剣も使える人はすごいし……それで、今朝のレオさんを思い出した。


「剣って言えば。レオさん、すごかったな」

「はいー。あの腕は、がっつりマスターした本物ですねえ」

「オリザさんもそう思う?」

「もちろんですー。ちっちゃい頃からきっちり教え込まれてますですね。ちょっとした相手数人なら、1人でぶっ飛ばせるんじゃないでしょうかー」


 うわ、そんなにか。ま、確かにサリュウの攻撃を見もせずに弾き返したりしてたもんなあ。ああいうの、時代劇とかアニメとかの話だと思ってたんだけどな。

 それまで黙ってお茶淹れてくれてたアリカさんが、不意に口を挟んできた。


「アヤトさんとマイトさんも、それなりの腕前だと私は見てるんですよ」

「ああ、だろうなあ。あの2人、レオさん直属の護衛だろ」

「そうですね。彼らも幼い頃から、そういった訓練を受けておられるようですから。セイレン様は気づかれてないようですが、あのお2人、足音ほとんどしないんですよ」


 え、マジか。うちの中ってじゅうたん敷いてあるからあんまり足音しないけど、そういえば今朝窓の下歩いてる時に足音、聞いてない気がする。あそこ、サリュウが踏み鳴らしちゃってるから土の地面が出てるんだよなあ。結構ざり、ざりって音するはずなのにな。

 つーか、足音しないってアヤトさんとマイトさん、本当に忍者だったりして。こっちにそういう職業があるとして、だけど。


 ……で、その推定忍者を直属の護衛に持ってて、父さんや母さんが敬語使うレオさんって何者だ。


「アリカさん、オリザさん」

「はい」

「はいー、何ですか?」


 唐突に名前を呼んでみると、2人とも不思議そうに俺を見てきた。だから、にっこり笑いながら尋ねてみる。


「案外2人とも、レオさんの正体とか知ってるんじゃないの?」

「はへ?」


 おう、オリザさん、反応良すぎ。だけど、やっぱりかなりいい家の人なんだな。服もいいものっぽいし、剣術ばっちりマスターしてるし、護衛兼ねてるおつきの2人はあれだし。

 一方、アリカさんの方は平然としてた。ああうん、こっちの方がメイドさんとしては多分当然の態度なんだろう。さすがっていうか。


「存じ上げていても、許可があるまでお知らせしないのが使用人としての務めです」

「ってことは、父さんか母さんから口止めされてんのか」

「ご想像にお任せします。ごめんなさいね? セイレン様」


 てへへ、と照れ笑いをしながらオリザさんが答えてくる。ま、そうだよなあ。俺が聞いてもだめってことは、当然その上……つまり父さんか母さんの命令があってのことなんだろうし。

 それにさ。


「いや、いいよ。きっとレオさんが知られたくないとか、そういう理由だろうし」


 ドラマとか、特に時代劇なんかで見るパターンなんだけど、お殿様とかいいとこのボンボンが自分の身分隠して町中歩き回ったりする。あれは、身分知られると周囲の反応が固くなってしまって普段の姿が見られないし、自分も堅苦しい身分から解き放たれたいってのもあったんだろう、と思う。いやドラマだけどさ、でも。

 何しろ今俺がいる世界は、育った世界から見ればドラマかアニメか小説か、そんな感じにしか思えない世界だから。俺は領主の娘だし、婚約者は若い領主だし。

 そういう世界だってつくづく分かってるから、レオさんが何者でもまあいいかな、とは思ってる。浮気推奨発言は駄目だけどな、うん。


「レオさんが俺に絡んでくるのってさ、俺が何も知らないのが楽しいのかも知れない。だったら、ちょっとくらいはお相手するよ」

「……助かります。おそらくレオ様も、本気であのような発言をされたのではないと、思いたい、ですね」


 アリカさん、何か発言に熱がこもってるな。マジでんなこと言ってたんならぶっ飛ばす、って顔してるよ。

 その顔がふと、不思議そうな表情になった。小さく首を傾げながら、尋ねてくる。


「それにしてもセイレン様。よくそのことにお気づきになりましたね」

「え、だってさあ。俺、レオさんの家名知らないんだぜ。普通は名乗るときにちゃんと家名言うんだろ? おかしいじゃないか」

「……あー」


 俺の指摘に、アリカさんもオリザさんも納得の表情を浮かべた。これ、こっちでの習慣。

 家名。うちのシーヤ、タイガさんのシキノといった、まあ苗字のことな。この世界だと、領主レベルから上の身分だと苗字があって、普通の町の人とかにはない。江戸時代みたいな感じかな。で、家名持ってる人は名乗るときに、ちゃんと苗字を名乗る。それがまあプライドっていうか、あとある意味身分証明にもなるからな。

 だけど、うちに来たレオさんは、父さんの遠縁に当たるどっかの家の嫡男だってことしか知らない。どこの家かも知らないし、教えてもらえない。

 これで、何もないわけがないんだよ。まったく。あのキャラの勢いに飲まれてたけど、よくよく考えてみたら、なあ。


「つっても、どこのお家の方ですかーって今更聞けないしな」

「そうなんですよねえ……たは、参った参ったです」


 ぽりぽりと頬を掻くオリザさんも、正直困ってる感じだ。手に余る問題なのかな、もしかして。


「ま、いっか。父さんが屋敷に住まわせても大丈夫な人、ではあるんだよな?」

「はい、それはもちろん」


 俺の問いにアリカさんは、間髪入れずに頷いてくれた。まあ、それならいいや。よほどちゃんとした身分の人なんだろう、ってことは分かったからさ。

 にしても。領主とかそういう家の嫡男って、ああいう性格とかだと家で何か言われないのかな?

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