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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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62.こまった、食後会話

「お疲れ様です。セイレン様」


 夕食が終わって部屋に戻って、ぐったりした俺にアリカさんがお茶を淹れてくれた。

 いや、夕食でもあの調子だったんだよ、レオさん。いい加減疲れるっての、ほんとかんべんしてくれ。

 猫かぶるのも大変なんだぞ。自分のこと私っていうのもだいぶ慣れてきたけどさ、家の中でくらいはまだ俺、でいたいな。うん。


「いやもー、あれじゃ事前に説明されても信じられないよなあ……」

「そうですね。早めにお休みになりますか?」

「あーいや、タイガさんに文書いておきたい。明日の朝には出したいんだ」

「承知しました。あまりご無理なさらないでくださいね?」


 あーもう、こうなったらタイガさんにもこの苦労ちょっとだけ分けてやる。仕事忙しいだろうからこっちには来れないだろうし、多分俺も家離れられないだろうし。


「悪いな、タイガさん。でも、ちょっとだけ聞いて欲しいな」


 ペン先にインクつけてタイガさんお元気ですか、と書き出したところで部屋のドアがノックされた。ミノウさんがそそくさと様子をうかがいに行って……困った顔で、こっちを向いた。む、嫌な予感。


「セイレン様、お客様が」

「セーイレンちゃあん。あっそびっましょっ」


 ミノウさんの後ろからひょっこりと顔を覗かせたのは、まあやっぱりと言うかレオさんだった。化粧はまだしてるみたいだけど、夕食の時よりは薄くなってるな。まさか、あれがすっぴんじゃないだろうな。

 とはいえ、一応男性だし。それが許可も得ずに室内覗き込んでるのは、さすがにどうかと思うぞ。というわけで、ちょっとお灸をすえてみよう。


「ミノウさん、そこにあるものぶつけてもいい」

「はい、では」

「きゃー、やめてやめて悪かったからあ!」

「失礼をなさったレオ様が悪いんです。次やったら本当にぶつけて構いませんよ」


 一応ミノウさんも脅しだっていうのは分かってたみたいで、物持ち上げただけで止めてくれた。大げさに頭を守ろうとするレオさんには、予想通りくっついてきてたアヤトさんが追撃してくれる。あ、マイトさんは一応レオさんを守るように腕を伸ばしてた。やっぱり護衛兼任かあ。

 ちなみにミノウさんがぶつけようとしたのは、すぐそばにあった椅子。軽々と、片手で構えてるのはさすがである。あれ、しっかり作られてるから結構重いんだよな。


「で、何なんですか。私今忙しいんですけど」

「あらまー、寝る前なのに?」

「文を書いていたんです。ちょっと事情で文字覚えるのが遅かったので、どうしても時間がかかるので」


 さすがに入口からは入ってこないままで、俺のやってることうかがってる模様。うんまあ、アヤトさんとマイトさんが一緒ならほんとに遊びに来たんだろうな、とは思う。

 あと、文字書くのに時間がかかるのはマジ。いやだってさ、タイガさんに書くんだからちゃんと読める文字書きたいじゃないか。なあ。


「まあまあ。でも、女の子って文字覚えなくても良くない?」

「そうは行きませんよ。春祭りの時、メニュー読めなくて苦労したんですから」

「ま、それは重要ね。ごめんなさい、ラブレターを書くのも読むのも必要よねえ」


 さすがにその重要性を認めてくれたのか、レオさんは素直に謝ってくれた。

 いやほんと、メニュー読めるか読めないかって重要だぞ。祭りの時はイラストついてて助かったけどさ。

 あと文字覚える云々だけど、他所では使用人さんに読ませたり書かせたりする人も多いらしい。俺は育った世界が文字書けて読めて当たり前だったこともあって、こうなんだけど。

 さて、いくら何でもさすがにあれだな。レオさん、ほっといたら朝までそこにいそうだ。


「あーもう、いいですから入ってください。遊びに来たんでしょ? アリカさん、お茶淹れてあげて」

「承知しました。少しお待ちください」

「うわあ、ありがとー。お邪魔しまあす」

「遅くに失礼致します」

「……こんばんは。失礼します」


 レオさんが跳ねるように入ってくるのにくっついて、アヤトさんとマイトさんも入ってくる。

 くっついてきた2人は最初に見たのと同じ服だったけど、レオさんはバスローブみたいな浴衣みたいな、そんな格好。布はさらっとしてて、鮮やかな花柄。うわあ、ド派手。ある意味よく似合ってるのがすげえ。

 で、どうぞ、ってソファ勧めたら、当然のようにレオさんだけが座って2人はその後ろにぴったりとついた。いや、まあこっちだと当然なんだけど。

 で、座るが早いかレオさんは楽しそうに、人の手元の便箋覗き込もうとしてきた。やめろよこら。


「で、これ何? 婚約者さんにラブレター?」

「合ってますけど、見ないでください。ペン投げていいですか、顔面に」

「どうぞ。何でしたらこちらで固定しておきますが」


 とりあえず手で覆う。隠す暇なかったんだよ、人の手紙覗くんじゃねえよ。あとラブレターなのはもう、否定しないけどな。

 思わず顔から表情消して答えたら、アヤトさんが眉間にしわ寄せて頷いてくれた。んでマイトさんが、無言でレオさんの頬を後ろからがっしと固めている。これなら上手くぶつけられそうだ、って違う違う。


「見てない見てない読んでないって! アヤト、お前も協力するんじゃないわよ!」

「レオ様には一度と言わず、何度でも痛い目を見ていただかないと分かってもらえないようですので。マイト、もういいぞ」


 アヤトさんの言葉で、マイトさんがやっぱり無言のまま手を外した。ありゃ、押さえられてたところちょっと赤くなってるぞ。

 細身っぽいけど、結構腕力あるのかな。ま、そうでなきゃおつきとかできないか……って、護衛兼ねてる前提で考えてるな、俺。同じ部屋で寝泊まりするんだし、多分間違ってない気がするけど。


「……アヤトさんもマイトさんも、大変みたいですね……」

「これが務めでございますので」

「もう、慣れました」


 慌てて手紙をしまいつつ、ちょっとねぎらってみる。ぼそっと呟いたマイトさんの言葉に、何だか泣きたくなった。そうか、これに慣れたのか。一体どれだけの年月積み重ねたんだろうなあ、2人とも。



 アリカさんが持ってきてくれたお茶を一緒に飲みながら、話をする。言葉遣いとかのせいで、男と会話してるというより女友達とお話、って感じになるのはまあ、しょうがないか。いや、女友達ってメイドさんたちくらいしかいないんだけど。この場合、クオン先生を含めていいのか分からん。

 でまあ、女性同士の会話となるとどうしても、こういう話になる。いや相手オカマさんだけど。俺も中身まだだいぶ男だけど。


「ねえねえセイレンちゃん、婚約者さんってどんな人?」

「え、タイガさんですか?」

「そうそう。シキノの新当主だったっけね」

「はい」


 都の方にも、シキノ家が当主交代したことは……まあ伝わってるか。届け出して手続きしないといけないんだもんな。

 で、こういう場合ってタイガさんについてどういうことが知りたいんだろう。ま、少なくともシキノの当主としてどうたら、ってことじゃないのは分かるけど。

 つーことは、俺から見てどう、か。


「えーと、ちょっと腹立つくらい優しくてかっこいいですね。それなのに、何か目的があると脇目もふらなくなっちゃうっていうか」

「まー、そうなの?」


 というわけで素直な感想を口にすると、レオさんはちょっと驚いたように目を丸くした。

 いやだって、窓の外にゲンジロウでやってきたりとか、手紙は注意するまで即日お届けサービスだとか、回り見ろよとか思いたくなるよなあ。

 さすがに今は落ち着いた、と思いたいんだけどさ。単に領主のお仕事が忙しくて手が回らないだけ、だったらどうしよう。思わず遠い目になりかけたよ。


「というか、優しくてかっこいいのが腹立つって、どうして?」

「いやだって、こっちがわがままでカッコ悪いのが目立っちゃうじゃないですか。私まだあんまり慣れてないし」

「えー、いい男射止めたんでしょ? だったら、自慢していいとあたし思うんだけどお」


 あーうん、まあ確かにいい男だってのは認める。院長先生も認めてたし。

 だって、俺自身に人を見る目があるかどうかなんて分からないんだもんよ。……自分の目、信用していいのかな。


「んで、シキノの当主、あんたとしては何人目?」

「は?」


 ちょっと考えこんでたところに尋ねられて、その意味を一瞬理解できなかった。っていうか、何人目って何が。


「だーかーらー。好きになった人としては何人目?」

「好きに……ですか」


 ああ、そういうことか。好きになった人として、なあ。

 んなこと言われてもなあ、と思いつつどうだっけ、と考えてみる。までもなく、答えは出てくる。

 俺はこっちに来るまで男だったけど、女の子に恋したことは正直いってなかったというか、あんまり興味なかったというか、施設の姉貴分とかに尻に敷かれてたせいでそういう思考は論外だったというか。自分が一番なついてたの、院長先生だって自覚あるし。

 で、こっちに来て女に戻って、それで初めて……えーとそのー、好きになったのがタイガさん。

 つまり。


「……多分、初めて、ですね」

「えー? うそお、セイレンちゃんモテそうなのにー」

「とてもとても。だいたい、そういう環境じゃなかったですよ」

「あ、そっか。田舎で療養してたんだっけ……ここより田舎ってどんなよ、馬とか牛とかしかいないんじゃないの?」


 全く別の世界ですよ、なんてとても言えないよなあ。というか、別荘のある辺なんて十分田舎だと思うんだけど。もしかしてレオさん、あんまり都から離れたことないのかな。いわゆる都会っ子か、こっちの世界でもそういうのあるんだな。


「でも、そっかあ……セイレンちゃん、そっちの経験は浅いのよね」

「浅いというか、ほぼ皆無というか……ですね」


 うーむ、言われてみれば。

 タイガさん結構積極的だったし、守ってもらったから勢いで、って感じもあったしなあ。

 でも、それでもさ。


「よし。セイレンちゃん、あたしでお試ししてみない?」

「は?」


 浮気推奨台詞はないと思うぞ、レオさん。

 俺、そういうの駄目って倫理観のあったところで育てられてるんだから。何しろ育ての親、1人の女性に惚れたがために30年独身だし。……言えないけど、な。

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