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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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60.とつぜん、居候青年

「セイレン、サリュウ。突然だが、今日からしばらくの間家に居候が来ることになった」


 朝食の場で父さんにこんなことを言われたのは、9月の終わりがただった。カレンダーで言うと、あと数日もすれば秋の宴の週が来る時期で、まああっちでいう秋分ってこともあるのか秋の祭で賑やかになる頃。


「居候ですか?」

「うむ、実はな。昨日、わしの遠縁の親戚が泊まりに来るのでよろしく、という文をよこしてな」

「遠縁?」


 シキノさんちは確か遠縁だって聞いたことあるけど、それならそうって言うよなあ。

 というか、居候に来るような人はいないよな。タイガさん、領主になって忙しくてあれから会えてないし。手紙は週1ペースで往復してるけど。毎回即日サービス使うんじゃねえって怒ったから、さすがにそこら辺は自重してくれてる。

 ちょっとさびしいけど……って、それはまあ横においておく。まずは、目の前の話からだ。

 父さんも俺がうちの遠縁はシキノさんちくらいしか知らない、っていうのは分かってるから、ちゃんとその辺は教えてくれた。


「シキノとはまた別の家からだ。そこの嫡男で、レオという。年は23だから、セイレンとは割と近いか」

「レオさん、ですか」

「まあ、悪い人物ではないのだが……ちょっと押しが強いのと、キャラが強烈でな。セイレンの事情は一応伝えたのだが、それならそれで会ってみたいと言い出されてな……」


 そこまで言ったところで、父さんは何やら困ったように銀の髪をかりかりと掻いた。

 というか、押しが強いのはいきなりやってくるところからも分かるけど、キャラて。

 父さん妙に口ごもってたけど、よっぽどすごい人なのかな。

 サリュウも同じことを思ったのか、父さんに尋ねてみる。そうか、お前も会ったことないんだな。


「強烈って、どんなですか?」

「……まあ、会えば分かる。ただ、くれぐれも失礼のないようにな」

「はい」


 ああうん。まあ嫡男、なんて呼ばれるからには家とかシキノさんちとかと同じような領主の家の人なんだろうけれど。

 と言うか、会うまでそのレオさんがどういう人なのか教えない気か、父さん。母さんは……というと。


「セイレンもサリュウも、お会いしたら驚くわね、きっと。世の中にはいろんな人がいるのよ」


 こっちも教えない気だー。何その楽しそうな笑顔。

 マジでどんな人が来るんだ? ほんと、かんべんしてくれよなあ。


「……だってさ。サリュウ」

「……困りましたね、姉さま」


 俺たちが顔を見合わせて溜息つくの、当然だろうが。まったく、この親どもは。



 ともかく、溜息ついてるだけじゃあ埒が明かないので、まずはメイドさんたちに聞いてみよう。少しくらいは知ってるかもしれないし。


「レオ様、ですか」

「うん。アリカさん、ミノウさん、知ってる?」

「一応、お噂だけは。都の方にお住まいだそうで、お会いしたことは一度もないのですが」

「旦那様は御用があって都に行かれたことも何度かありますから、その時にお会いしたのでしょうね」

「ふうん……」


 2人とも直接会ったことはない、か。良い家の嫡男だから、ずっと家にいるんだろうな。あ、タイガさんは領地見て回ったりするのが趣味だったらしいから、ちょっと違うみたいだけど。

 都の人、かあ。都って行ったことないんだけど、俺の知ってる都会とはやっぱ違うんだろうな、とは思う。いやだって、こういう世界に高層ビルとかないだろうしさ。

 にしても、俺らは田舎者だってことだから馬鹿にされないといいなあ、とはちょっと思った。


「旦那様がおっしゃるには、なかなか気の良い方で話をするのが楽しい、とのことでした」

「そうなんだ。アリカさんが知ってるの、そのくらい?」

「はい。ミノウは?」

「一応、明日から来られるという話だけは朝伺ったのですが、その時にユズルハさんに、くれぐれも籠を投げないようにと言われました」

「……突っ込みを入れたくなるような人ってわけね」


 いい人だけど、どこか変な人なのかな。タイガさんも大概だったけど。

 ……あれ。夏にタイガさんに籠投げようとしたこと、俺ユズルハさんに言ったっけ?

 まあいいや、どこから漏れてもおかしくない話だもんな。うん。



 しかし、メイドさんたちからはあんまり聞けなかったな。

 お昼を食べたあと、クオン先生にアタックを掛けてみた。そうしたら。


「一応存じ上げておりますが、せっかくなので直接会ったほうがいいと奥様から申し渡されておりまして。午前中にもサリュウ様から尋ねられたんですが」

「うがあ、口止めかー」


 ひでえ。母さん、変なところ徹底しないでくれよ。

 つかクオン先生、母さんと同じように楽しそうな笑顔見せないでくれよ。あんたも俺たちの反応楽しみにしてるのか。くそう。

 っていうか、そこまでして教えたくない人ってどんな人なんだよ、まったくもう。


「てことは当然、ユズルハさんとかに聞いても無駄なんだよなあ」

「ですねえ。さて、お勉強ですよー」


 からからと笑って、クオン先生は教科書を開いた。最近はちょっとずつ本も読めるようになって、それは割と楽しいんだけどさ。



 秋は、こっちでも紅葉が見られる。使用人さんたちには正直いって不評なんだけど、それは落ち葉の片付けが面倒だからなんでしょうがない。ちなみに、焚き火にはちょっとは使うけど焼き芋の習慣はなかったりする。うむ、残念。

 クオン先生の授業が終わった後、夕食までちょっと間があったので敷地内をのんびりと散歩している。アリカさんが一緒についてきてくれて、そういったことを色々教えてくれるのが楽しい。


「つっても、結構綺麗に赤くなるよな。こういうの、見物とかするの?」

「ええ。こちらでは秋の花葉(ハナハ)、って言うんですよ」

「おー、そうなんだ」


 なるほど、赤や黄色に染まった葉っぱを花に見立てるわけか。そうすると、向こうで言うところの紅葉狩りみたいなのもあるんだろうなあ。そうでなくてももうすぐ秋祭りで、街の方は賑やかみたいだし。

 春祭りの時にあれだったから、多分秋祭りは見に行けないだろうなあ。ちょっと残念だけど、しょうがないや。


 ばさばさばさ、という音が上からした。割と遠い、と思ったけどあっという間に近づいてくる、のは……馬だー。まっすぐ俺に突っ込んでくる!


「わあああっ!?」

「セイレン様っ!」


 アリカさんが俺の腕掴んで引き戻すのとほぼ同時に、馬は俺たちの目の前でどうにか停止した。てか、ゲンジロウと違って真っ黒だからぱっと見巨大カラスじゃねえかよ。背中に載ってる人、ちゃんと操縦しろよ。アリカさんにぶん投げられたみたいな形になって俺、放り出されて腰抜けただろこんちくしょう。


「お気をつけ下さい! 危ないです!」

「あらあら、ごめんなさいねえ。ちょっとおハナコ、初めて来たからって暴れちゃだめよお」

「あ、は……い?」


 アリカさんの叱責にへらり、と返された言葉を聞いて、おやと首を傾げた。

 口調は女、だけど声はちょい高めだけど間違いなく男。

 これは、もしかしてもしかするのか。

 なんてこと思ってる間に、ハナコって呼ばれたらしい馬の背中から乗ってた人がひょい、と降りてきた。


「あらメイドさん、ごめんねえ。これ、あたしのハナコちゃん。しばらく預かってちょうだい」

「え、あ、はい」

「ハナコもおとなしくなさい。次やったらただじゃ置かないわよ」


 アリカさん、勢いに飲まれて手綱持っちゃったよ。ハナコもおとなしくなったのは、一体何なんだ。今の脅し怖かったのか、そうなんだな。

 てか、うちに入れたってことはジゲンさんの認証クリアかよ、なんて考えてる間にその人は、俺の目の前までとことこ歩いてきた。


「立てる? 大丈夫?」

「あ、大丈夫……ありがとうございます」


 大丈夫、って尋ねながらひょいと手を差し出してくれる辺り、悪い人ではなさそうなんだけどなあ。ともかくその手を借りて立ち上がると、目の前には俺よりだいぶ背の高い……うっかりするとタイガさんよりも高い、人がいた。

 ……俺より化粧、綺麗にしてる。化粧自体はあんまり濃くないけどまつげ長いし、唇は鮮やかだ。うわ、迫力負けしそう。

 染めてるのかな、赤っぽい癖のない髪は俺よりちょっと短めだけど肩まである。生成りのシャツの上にワイン色の長めのベスト、下は紺色のさらっとした生地のスラックス。全体的にスマートな感じだ。


「ほんと、ごめんなさいね。あたしが気をつけるべきだったわ」

「は、はあ……ええと、こちらこそ上、注意してなくてごめんなさい」

「やあねえ、お嬢ちゃんが気にすることないわ……って、あら」


 「ん」と何かに気がついたのか、その人は少し腰をかがめて顔の高さを俺と合わせた。まじまじと見つめて、それから尋ねてくる。


「そういえば、さっきメイドさんが呼んでたけど。あなたがセイレンちゃん?」

「……どなたですか」


 さすがにちゃん付けはかんべんしてくれ、と言う前にびりっと警戒してしまう。いやだってさあ、夏とかあれだったもん。どうしてもなあ。

 俺が警戒したのが分かったのか、彼は小さく肩をすくめた。姿勢をまっすぐに戻して、赤い髪を掻き上げる。


「あらあ、モンドおじさまから話聞いてない? 親戚の美青年がお泊まりに行きます、って」

「美青年は聞いてませんが、遠縁の親戚が来るという話は」


 美青年って自分のことか。自分で言うな、と突っ込むのも面倒くさいので、素直に聞いた話だけを口にする。と、その人はぽんと両手を叩いてぱあっと笑った。あ、笑うと可愛いな、この人。


「そうそう、それそれえ! あたしレオ、よろしくね」


 ばっちん、と音のするようなウインク。うわあ。

 そうか、この人がレオさんか。確かにキャラ濃いよな、父さん。思わず遠い目になってしまいそうだ。

 というか、直接会うまで内緒にしてたって言うよりこれ、どう説明していいか分からなかっただけじゃないのか。


「セイレンちゃん、でいいのよね?」

「あ、はい。セイレンです、よろしくおねがいしますってわっ」


 再確認されたので答えた瞬間、レオさんに抱きつかれた。いや何だこれ、俺はどう反応したらいいんだ。いくら何でもぶっ飛ばすわけにもいかないし、多分力負けするし。


「あらもー、礼儀正しくて可愛い子ー! おにーさん、かまっちゃいたくなるう!」

「え、え、え」

「ちょ、れ、レオ様! セイレン様からお離れくださいっ!」

「レオ様! 来られるのでしたら先触れをおよこしください!」


 ハナコ預かりっぱなしのアリカさんが叫ぶのが聞こえたのか、屋敷からユズルハさんがすっ飛んできた。

 あ、先触れってのはもうすぐ誰それが来るから準備お願いなー、って言いに来る人、らしい。使用人さん、いろんなお仕事あるんだなあ、と今日も現実逃避する。


 ……院長先生。こっちの世界にも、オカマさんっていたんですね。

 ってか女装家か? その辺、俺にはよく分からん。

 というか、この人がうちの居候って、えー。


「あーらもう、そんなに可愛いお嬢様だったら箱に入れてしまっておいてちょうだい。まったくもー」


 俺からひっぺがされてぶー、と頬を膨らませるレオさん。ユズルハさんがはー、と肩を落とした気持ちが何だかよくわかった。

 というか、この人と一つ屋根の下なの? 大丈夫か、俺。

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