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58.はてさて、朝食会話

 ふっと目が覚めた。

 起き上がると、ちゃんと自分のベッドの中。寝着に着替えてるので、何の問題もなさそうだ。

 正直に言う。どうやって自分の部屋まで辿り着いて寝たのか、あんまり良く覚えてないんだ。ただ、途中までタイガさんが送ってくれて、玄関先でおやすみなさいって言ったのは何となく覚えてるんだけど。

 ぼんやりした頭でしばらく考えて、ふと、思い出した。


『セイレン様。私の妻に、なっていただけませんか』


 途端、顔が熱くなった。ええい朝から何考えてんだ、俺。

 というか、昨夜はパーティがあって、その後俺拉致られかけて、それでえーとトーヤさんじゃなくてトーカさんで、院長先生が出てきて。何そのイベントてんこ盛り。


「……あー、えーと、夢……じゃねえなあ、うん」

「百面相もいいんですが、いい加減お気づきになってくださいませんか。セイレン様」

「おうわっ!?」


 いきなり名前呼ばれてびっくりした、もうちょっとでベッドから落ちかけたよ。うん。

 慌てて振り返ると、呆れた顔してアリカさんがこっち見てた。昨日のドレス姿から、今日はいつものおさげでメイドさんスタイルに戻ってる。

 って、部屋の中見れるってことはもう鎧戸は開いてるのか。うん、そんなことも気づかなかった俺、しっかりしろ。


「お、おはよう、アリカさん」

「おはようございます、セイレン様。お湯をお持ちしましたので、どうぞ」

「あー、はあい」


 挨拶したら、アリカさんは苦笑をひとつだけ浮かべてたらいを差し出してきた。

 お湯に浸したタオルで顔を拭って、頭を切り替える。

 いやでもうん、あれは夢じゃなかった、らしい。俺、どうやらタイガさんの婚約者、ってことになったらしい。へへ、嬉しいなあ。

 嬉しい、か。

 てか俺、いつの間に女寄りになってきてるんだろ。やっぱ、身体が女だと変わってくるものなのかねえ。

 考えつつベッドから降りたところで、オリザさんが服持ってやってきた。俺に気がつくと、にぱーと笑ってみせる。


「セイレン様あ、おはようございますー。ちゃんと起きられましたかー?」

「あ、オリザさん。おはよう」

「うふふ、今いいもの見れますよー」

「いいもの?」


 何だろ、と首を傾げる俺を手招きして、オリザさんは窓の下をちょいちょいと指さした。ああ、いつもならサリュウが朝練やってるんだよな。どれ。


「おはようございます、セイレン様!」


 ……。

 な、なんでタイガさんがそこにいるんだ。ああいや、サリュウのお兄さんだから朝練付き合えとか言われたかもしれないけど、えええええ。


「隙ありっ!」


 そのサリュウは、俺に笑いかけてきたタイガさんに大上段から木剣を振りかぶる。だけど次の瞬間、タイガさんは軽く一撃をいなすとサリュウの横腹にぱん、と反撃を入れた。軽い一撃だったと思うけど、サリュウ痛そう。顔しかめてる。


「ははは、まだまだ甘いな、サリュウ」

「あたた……姉さま、おはようございます」


 涼しい顔のタイガさんと、顔を歪めつつも俺に挨拶してくれるサリュウ。こうやって見るとさ、仲の良い兄弟なんだなあって思う。


「……ああうん、おはようございます。ところで何してるんだ?」

「いや、サリュウがぜひとも修行をつけてくれと言うので、つい本気になってしまいましてな。はっはっは」

「サリュウが?」


 タイガさんがいる理由は想像通りだった。ま、確かにうちの連中よりは剣の練習相手になりそうだもんなあ。しかし、何でまた。


「はい! 僕にもやることができましたから!」

「やること?」

「はい。姉さまが兄さまのもとに嫁ぐ日まで、僕が姉さまをお守りします!」


 頭を抱えた俺を見て、アリカさんもオリザさんもあーあって顔してる気がする。

 いやうん、昨夜のプロポーズマジでマジなんだな。いや俺も受けたけど。とりあえずお付き合いからだけど。

 ……姉さまと、兄さまか。サリュウにとっては、俺とタイガさんがくっつくのって嬉しいのかな。だったら、俺も嬉しいけど。

 って、時間時間。


「えっと、あー、うん。期待してる……ところで、もう少ししたら朝食だけど」

「おお、そんな時間でしたか。ではサリュウ、この続きはまた今度、な」

「はい。ありがとうございました!」


 するりと木剣を腰に収めたタイガさんに、サリュウはびしっと姿勢を正して一礼。ああいうの、かっこいいよなあ。さすがタイガさんの弟、って思う。いや、俺の弟でもあるんだけど。

 で、そのタイガさんは俺に向き直って、ほんとに輝くような笑顔をしてくれた。


「それでは、セイレン様。私も朝食にはご一緒いたしますので、またあとでお会いしましょう」

「あ、はい」


 あとで、って声が出なかった。

 あーやべ、何でタイガさんあんなにかっこいいんだ。

 というか、マジで落ちつけ俺。多分どこからどう見ても恋する女の子、になってるぞ。


「セイレン様、恋する乙女ですねー」

「しっ! 分かるけど!」


 ……やっぱり見えてるな、うん。



 んでまあ、ともかく朝食なので着替える。ピンクと白のツートンのワンピースに、髪はざっと後ろでまとめてもらってそのまま降りていくと、食堂の前に待ってる人がいた。タイガさんと、もう1人。


「セイレン様!」

「おう、おはよう青蓮。よく眠れたか?」

「あ、院長先生。おはようございます」


 昨日、いきなり出てきた院長先生。パッと見て、びっくりした。院長先生、ちゃんとこっちの服装になってる。ていうか、タイガさんよりちょっと身長低いのな。

 トーカさんと同じ顔なのに、こうやって見るとやっぱり別人だ。

 ……とはいえ、見比べる機会なんて父さんたちもなかっただろうからなあ。気づかないのはしょうがないっていうか。


「昨夜はこちらに泊ったんですね」

「まあな。爺さんやタイガや、お前の親御さんにいろいろ説明してたし」


 ちらりとタイガさんを伺う院長先生の表情は、まるでいたずらっ子みたいな感じ。苦笑を浮かべるタイガさんのほうが大人っぽく見えるのは、どうかと思うぞ。いや、そういうところがいいんだけど。


「にしても、改めて見ると綺麗になったなあ。青蓮」

「は? いや、自覚ないんですけど」


 うおおおい、いきなりそんなこと言わないでほしい。いやだってタイガさんの前だし、って何でタイガさんの名前ばっか出てくるんだ。女の恋心ってもしかしてこんなにめんどくさかったのか。うわー、これから大変だ、俺。


「そらお前は、こっち来て3ヶ月ちょいだったか? その間ずっと見てたからな。俺は3ヶ月ぶりだもんよ」

「そ、そういうもんなんですかねえ……」

「そういうもんなの。長いこと離れてた方が、その間の変化に気づくもんなんだよ」


 院長先生は俺の頭に手を置いて、そのままポンポンと軽く叩いた。いつもならくしゃくしゃかき回すんだけど……ああ、髪まとめてあるから、気を使ってくれたんだ。


「ほれ、めしめし。行こうぜ、青蓮。タイガ、お前がエスコートしなきゃ駄目だろう、未来の嫁なんだから」

「はいっ、ってえー」

「そうですね。参りましょう、セイレン様」


 あの、タイガさん。院長先生の軽口に楽しそうに乗らないでくれますか。あーもう、顔がほてってしょうがないじゃないか。



 父さんと母さん、そしてサリュウも揃っての朝食は、何というかその、微妙な緊張感に包まれていた。いやだって、院長先生は昨日正体バレしたばっかだし、タイガさんはなあ。いや、何がなあだ、俺。

 そんな中にあって、あんまり空気を読む気のない院長先生は、多分全員が言い出しにくいことをずばりと尋ねてきた。


「そういえば、トーカのやつはどうなった? 爺さんが預かってくれてるんだろ」

「精神的にしばき倒しました、とクオンが言っておったな。ま、あれでは二度とろくな考えも起こすまいよ」

「精神的に……ですか?」

「ええ、精神的に」


 小さく溜息をついた父さん。考えてみりゃ、長年の友人だと思ってたのがああだった、だもんなあ。

 それと、サリュウの疑問をオウム返しのような形で返したときの母さんの笑顔が、すっごく怖いものに見えた。何でああいう時の笑顔って、ものすごく迫力あるんだろうな。

 とりあえずは、何があったのか考えるの、やめとこう。見なくてもいいもんまで見そうな気がするし。

 にしても、何で院長先生、トーカさんの話を出して来たんだろ。ここに2人、実の息子がいるのにさ。


「ああ、タイガは気にすんなって言っても無理だろ。サリュウはちっこい頃からシーヤにいるそうだから、ちょっとはショックだったかもしれんが」

「……そうですね。僕は6歳の頃にはもうシーヤの姓になってましたから、実の父と言われてもあんまり……」


 ……そういうもんなのか。ま、物心ついた頃には院長先生の息子になってた俺が、いきなり目の前に現れた2人を両親だって言われて首かしげたのと似たようなものなのかな。いや、違うか。

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