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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
ニ:夏の出会い

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52.いよいよ、御披露目

「ご心配なさりますな、セイレン様。微力ながら、このカサイ・ジゲンがおります故」


 凛とした声が、小さな家の中に響き渡った。

 俺にそう言ってくれた魔術師は、目を細めてゆったりと頷いてくれる。あ、何だろ。それだけで安心できたかも。


「わしがここに来た時にはそういった背景などは分かりませなんだが、屋敷の中からセイレン様が消えられたのは事実でございました」


 そうだ、ジゲンさんは俺を探して連れ戻すためにこの家に呼ばれたんだっけ。それで、専属魔術師として色々頑張っててさ。


「よってこの事件は外部からの侵入者によるものとわしは断定し、この屋敷全体に防御の魔術を掛けさせて頂いたのでございます。故に、少なくとも魔術に関しては案ずるところはございませぬ」


 そうして調べてくれた結果が、どうやらそれらしい。

 防御の魔術って、別荘にかかっていた、バリアーみたいなもんか。でも、普通に出入りする分には平気だったよなあ。伝書蛇みたいに、認証されれば大丈夫なのかな。


「どういう術が掛かってるんですか?」

「詳しいことは申せませんが、屋敷の中では些細な術しか掛けられぬようになっております。例外は、セイレン様を異なる世界から呼び戻した儀式の間、のみですのう」


 なるほど。専用の部屋って、屋敷の中ではそこでなきゃがっつりした魔術が使えないからか。

 けど、こういうのって多いのかな。


「そういう、全体的に魔術掛けるのって珍しいんですか?」

「術の仕込みに少々時間が掛かりますのと、大概は屋敷を囲んでおります塀の方に術を掛けますでな。この屋敷のように二重に掛けておるのは、王族のお住まいでも珍しいのではないでしょうか」

「……そうですか」


 何かジゲンさん、さらっとえらいこと言わなかったか。王族の人が住んでるところでも珍しいって、つまりそれだけ厳重な警戒ってことじゃねえか。

 大体、少々っていうけどさ。ほんとに少々しか時間がかからないんなら、二重に掛けるのは珍しくないだろ。

 つまり、目の前にいるこの人は実は、とんでもない魔術師なわけだ。孫娘のクオン先生からしたら、爺馬鹿なお祖父さんなんだけど。

 その、孫娘ラブな魔術師さんは俺の目を見て、やさしく笑ってくれた。


「この屋敷でセイレン様のお披露目を行うのは、そういった防御対策が取られておるからでございます。ですが、どのような警備や対策にも必ず穴は存在するもの。くれぐれも、お気をつけ下され」

「……そっか。ありがとうございます」


 ……逆に言うと、そういう防御してないところでうちの娘のお披露目はやらんぞ、と言ってるわけか、両親。特に、多分父さん。いや何か、そんな感じがしただけだけど。


「ま、タイガ様が張り切ってらっしゃるようですから、お任せするって手もありますけれどー」

「……正直、それが一番早い気がしますね」

「ノーコメント、とさせていただきます。ですが、我々の出番がないに越したことはないですね」


 ……いやほんと。タイガさんが頑張る、以外の意味ならそのとおりだよ、ミノウさん。

 というか、何でそこで当然のようにタイガさんの名前が出てくるんだよ。


「それはもちろん、タイガ様がセイレン様の御為に頑張りますという決意の文をくださったからですが」

「クオン先生、ものすごく意訳しないでくれますか……」



 それから半月くらいかな、いろいろ準備した。その間に巡りの物が来てまた1日寝込んでみたり、新しいドレスを作るっていうんでがっつり採寸されてみたり何度か試着して細かいところ直してみたり、何故か足型とか取られてみたり。あと、ダンスの練習もみっちりとやりました。

 あ、寝込むのが1日で済んだのは慣れたのか、だいぶ楽になってきたから。一安心。

 タイガさんとの文のやりとりはちょこちょこ、というかほぼ文通状態になってしまっていた。タイガさんってば、毎回即日お届けサービスみたいなの利用してくれるから、早く読めるのはいいんだけど飛脚屋さんがもう大変そうで。こっちもお茶準備したりチップ弾んだりしたよ。お疲れ様。


「辞めた使用人さんも、皆連絡が取れないってさ。1人だけ見つけた人も大怪我で寝たきりだって」

「ますます怪しいですね、それ」


 今日の手紙の内容を読んで、アリカさんと一緒に眉間に皺を寄せてみた。ミノウさんはうんざりした顔である。

 タイガさん、もともと領内ふらふらしてるたちらしくて、あちこち行ってもあんまり怪しまれることがないらしい。それを利用して、トーヤさんが領主になった時期にやめちゃった使用人さんについていろいろ調べてくれてるんだ。ゲンジロウ、いっぱい飛び回ってるんだろうなあ。


「あと、……パーティ用の衣装が仕上がりました。早くセイレン様にお見せしたいです……」

「やはり、新しいお召し物を仕立てておいでなのですね」

「こちらはこちらで本気ですね……」

「ミノウさん、アリカさん、さっきの話題と同じレベルで真剣に考えこまないでくれる?」


 何か、毎回毎回この手の話が入ってくるので、そのたびに俺は頭を抱えているのであった。ダンスは久しぶりだとか、髪を整えてみたとか。いや、ここまで好かれて悪い気はしないけどさ。何て言うかな、すっごい不器用な人が必死こいてアプローチしてるって感じだし。

 ……何か、ごめんってどれだけ謝っても謝り足りないよなあ。その必死でアプローチしてる相手は、自分の都合でタイガさんを利用してるようなもんだし。中身男だし。

 だったらせめて、目の前にすっ転がってる問題だけはきっちり片付けて、そんでもって振られてみようか、とは思っている。メイドさんたちや両親は、このまま上手く行ってくれればいいって思ってるみたいだけど、そううまくいくわけないもんな。



 で、どたばたしつつあっという間にパーティ当日がやってきた。お昼くらいから、やたら馬車が屋敷前までやってくるのが窓越しでバッチリ分かる。あ、俺はお披露目タイムまでお客さんとは顔を合わせないようにって、ほぼ軟禁状態。てーか、お客さん呼んでその前に出るのって今回が初めてだから、まあいろいろとやることあったし。

 具体的には、昼風呂。全身洗ってシャンプーして髪乾かして、下着も新しいのにとっかえる。今日のために作ってもらったドレスにはパーティ直前に着替えるから、その前にラフな格好で軽く食事。何でもお客さんと話すのが忙しくて、飯食ってる余裕あんまりないんだってさ。

 で、夕方になってドレスに着替える。試着で何度か着てるけど、こうやってちゃんと着るのは初めてだな。


「なあ、似合うか? この、化粧とかさ」

「もちろんですよ、セイレン様」

「よくお似合いですー」


 ミノウさんが満足気に頷いて、俺の肩をポンと叩いてくれた。オリザさんはいつも楽しそうで何より。

 明るい赤の、裾はギリギリ引きずらない丈のフリル多めのロングドレス。腰のところは長いリボンで、後ろで蝶結び。余ったところがスカートの一部みたいになって、何か可愛いかも。着てる本人はともかく。

 首元はだいぶ開いてて、金メインのアクセサリーで飾られてる。もちろん、俺の大事なお守りたちも一緒だ。

 だいぶ長くなった髪の毛は、うなじんとこでクルッと丸くして黒いメッシュのカバーをかぶせてあるらしい。花飾りがいっぱいついてて、ちょっとくすぐったいかな。

 で、まあ今日ばかりはしっかり化粧されてしまった。と言ってもそんなに派手な色じゃない。というか、素材の問題であんまり派手にはならないらしい。唇だけちょっとはっきりしてるけど。


「それでセイレン様あ、靴はどうですか?」

「うん。これ、素材だいぶ柔らかいよね。大丈夫そうだ」

「良かったですー。あ、くれぐれも転ばないでくださいね?」

「気をつけますっ」


 にこにこ笑いながらのオリザさんのツッコミも、いい加減慣れた。というか、俺ボケ担当か。

 それはともかく、ダンスの本番ということで、深い赤のかかとの高い靴。ただし接地面広めで、大変ありがたい。足首にリボンで止めるタイプで、ってこれ楽だよね。靴はしっかり固定できるし。


「足裏にフィットするように中敷きを作っていただきましたので、ずれることはほとんどないと思います。それでも気になるようでしたら、いつでも使用人をお呼びください」

「うん。でも、他の人と話してる最中とかにごめんなさいって逃げちゃっていいの?」

「そこをとりなすのも、使用人の務めでございますので」


 きっぱりと言ってのけるミノウさん、ほんとすごいと思う。使用人さんって、頭良くないとできないお仕事じゃないんだろうか。


「セイレン様、迎えの者が参りました」

「はい、入ってください」

「失礼します。セイレン様、お時間になりましたので、広間へご案内いたします」


 迎えに来てくれたのは、いつもより細身っぽい黒の上下に身を包んだユズルハさんだった。緑のスカーフタイ、かっこいいな。

 じゃあ行こうか、と立ち上がると、オリザさんがするっと近寄ってきた。うわ、今足音聞こえなかったぞ。


「わたしたちは、大広間とその周辺を主に見てますから。屋敷の外でも使用人が警戒してますし、実はお客様の中にアリカが混じってたりしますから」


 顔見なかったの、それでか!

 うわあ、すごく納得した。と同時に、安心した。

 そっか、少なくともアリカさんは近くにいてくれてるんだな。よし。


「ありがとな。……とりあえず、頑張ってくる」


 軽く拳を握って、それから俺はユズルハさんの後ろについて、部屋を出た。



 扉の前で、母さんが待っていてくれた。父さんは中で、既にお客さんとお話中らしい。ホント大変だな、領主って。

 ユズルハさんに扉を開けてもらうと、一斉にたくさんの視線がこっちに突き刺さってきた。

 大広間の中は、前に掃除してる時に見たことあるけどその時とは全然違ってた。シャンデリアがきらきら光ってて、幾つも並べられた立食用のテーブルには軽食やドリンクがいっぱい並んでて、その中をいつもよりちょっとかっこいい服を着た使用人さんたちが歩き回ってる。

 そうして、まーよく着飾ったよって人々。皆お金持ちとかそういう人っぽいオーラが出てて、俺迫力負けしそう。いったいどこから湧いたんだ、この人数は。

 にしても、何でこういうとこに来るの、おっさんが多いんだろうか。お客さんで一番若そうなの、どう見ても淡い緑の衣装着てるタイガさんだぞ。あれか、うちの息子の嫁にどうかってやつか。

 ……自分で考えて頭抱えたくなってきた。うむ、やめとこう。つーか、アリカさん見当たらねえ。上手く化けたのか、そうなんだな。


「初めまして。こうやって皆様の前に出るのは初めてになります、シーヤ家の長女セイレンにございます」


 どうせ、紙に書かれた挨拶の文章なんぞ読んだって伝わらないさ。

 だから俺は、自分で言える言葉で挨拶する。

 父さんも母さんも、タイガさんだって見ていてくれるんだ。だから、大丈夫。


「どうぞ、よしなに」


 スカートを摘んで小さく礼をすると、どこからともなく拍手が響き渡った。

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