51.やっとこ、事実説明
皆でジゲンさんの家に移動して、その場にいたミノウさんも含めたメイドさん3人に俺は、事実を話した。
俺がこの屋敷からいなくなってから帰ってくるまで、どこでどんなふうにしていたのかを。
「……とまあ、そういうわけ。今まで隠す形になっちゃって、ごめん」
覚悟を決めるのにはちょっと掛かったけど、告白してしまうのは割と一瞬だった。
まあ、自分が別の世界で、男として育ったんだよってことを言うだけだったからな。後まあ、何かスッキリした。これでもう、隠してることない……と思うし。
さて、この話を聞いたメイドさんたちの反応はというと。
「……」
ミノウさんはぽかーんとしてる。もう少し待ったら、反応が出るだろうか。
「セイレン様が、男性……」
アリカさんは、マジかって顔でこっち見てる。まあ、男の時も女顔だったしなあ。
「えー。だってセイレン様、可愛らしいですよー」
「オリザさん、多分気にするところそこじゃない」
オリザさんは、何気にいつもと変わらなかった。というか、そういう反応だと正直助かるっていうか。ぶっちゃける前から、俺自身はそうだったわけ……いや、可愛いって自分で言ってるわけじゃないからな?
しばらくぽかーんとしてたミノウさんが、数度まばたきをした後俺に向き直った。
「旦那様や奥様は、どう思われておられるのですか」
「父さんと母さん? んー……」
言われて、両親の反応を思い出す。………………あれ?
「何か、なかったことになってそうだなあ。母さんに抱きしめられた時はもう、俺女だったし」
あの瞬間を、思い出した結果がこれだった。うわあ、何か顔ひきつるわ。
初めて会った母さんにぎゅうと抱きしめられて、何か挟まってる事に気がついて、えーってなったわけだしな。
で、母さんに尋ねられて頷いて、その後父さんに話があるって言われた時にはもう2人とも、そこら辺気にしてなかったというか何というか。
2人とも結局男の俺を見てないから、まあいいやとかなってそうだな、うん。
「では、私もそういうことにさせて頂いてよろしいですか」
「そういうこと?」
「旦那様や奥様と同じように、です」
俺の答えを聞いたミノウさんは、そう結論づけたようだった。つまり、とりあえず考えないことにしようってことかね。
ま、それが一番か。ごちゃごちゃ考えてても、過去が変えられるわけでなし。と言うか俺の場合、もともと女で生まれて男にされて、こっち帰ってきた時に女に戻ったっていうちと面倒くさい経緯だし。
「ああ、うん。普段は気にしないでもらえると助かる……って言っても、無理かな」
「というかー。セイレン様って、言葉遣い以外で男の人っぽいとこ、あんまりないですよー?」
「そうですね。女性にしては、確かに割とさっぱりしてらっしゃるとは思いますが」
「我々に対するお気遣いとか、とてもシーヤ家の女性であられると思います」
相変わらずのオリザさんに、何か納得したらしい顔のアリカさんに、ほんとに考えるの辞めたらしいミノウさんが口々にそんなことを言ってきた。何か褒められてる?
いや、それは男とか女とか関係なくて、多分育ったとこの問題だと思うんだけど。
育ったとこっていうか、きっと院長先生のおかげ。
でまあ納得はしてもらえたようなので、ちょっとした相談を持ちかけてみよう。
「で、まあ。サリュウやタイガさんにはまだ話してないんだけど、言ったほうがいいと思う?」
「やめたほうがいいんじゃないですか?」
「そうですねえ。言ってもあんまり意味なさそうですしー……サリュウ様、何か寝込んじゃいそうですけど」
「もしタイガ様のところにお輿入れなさるおつもりでしたら、その時はセイレン様のお好きになさればよろしいかと思いますが」
即答したのはアリカさん。オリザさんの言うように、俺が元男だって分かったらサリュウ、夢でうなされたりしそうだなあ。
あと、ミノウさん。速攻で輿入れの単語出てくるってどうよ。いや、俺もちょっとは考えたけどさ。
「……何か、確定事項にしようとしてないか。それ」
「そうですか? 私はタイガ様のご様子は実際に見ていませんが、今朝の文を見せていただいた限りではタイガ様はセイレン様をお迎えしたいようですし」
実際のタイガさんをさっぱり見ていないアリカさんが、一番にそう答えてくる。現実知らない彼女がこうってことは、実際のところを見ている後2人なんてもう。
「……籠、ぶつけていたらまずかったでしょうか……いっそ、お部屋に入れても良かったのかしら」
「いやいや、部屋に入れるのは駄目ですよー。大体タイガ様のことですから、籠直撃しても良いメイドをお持ちですなあはっはっは、で終わるんじゃないですか?」
おーまーえーらー。いや口には出さないけど。
というか、マジでそれで終わりそうなのが恐ろしい。
「……クオン先生。俺、頭抱えていいですか」
「構いませんけど、それで問題は解決しませんよ?」
はい、追い打ちありがとう。確かに何も解決しねえな、うん。
「まあ、そういうわけですじゃ」
さて、ここはジゲンさんの家である。ミノウさんが魔術教室してもらってるところに押しかけてきたので、当然ジゲンさんもいるわけだ。
で、そのご当人は俺たち女性陣がひとしきり騒ぎ終わった後でのんびりと、口を挟んできた。
「さてさて、セイレン様を男性にしたのは誰でしょうかのう。彼女をさらってこことは違う世界に放り込んだ魔術師が、そのお身体を変える魔術も掛けた、と考えるのがまあ、普通ではありますな」
「普通では、ということは違うんですか?」
アリカさんが、不思議そうに問いかける。まあ、そうだよな。そういう言い方をするってことは、普通に考えちゃいけないってことだろ。
「わしの見立てでは、微妙ながら術式の組み立て方が異なります。手っ取り早く申し上げれば、セイレン様を別の世界に放り込んだのとお身体を変えたのとは、別々の魔術師が掛けた術ということになりますじゃ」
わーお。そうか、俺に掛けられた魔術カス調べたんだよな、ジゲンさん。そこから導き出された結果が、それか。
と言うかさあ、別々っつってもその容疑者であるところの魔術師、2人しかいないじゃないか。
「……それって、もしかしてもしかしますか」
「はい。セイレン様のお身体を変えたのは、おそらくシキノ家のドウムでございましょうなあ。一方、別の世界に送り込んだのはおそらく、こちらで亡くなられた彼ですな」
やっぱりなー。
ドウムさんは、タイガさんからのお手紙によれば変化の魔術を使えたらしい。
シーヤの魔術師さんは、転移の魔術を勉強中だった。
なら、それぞれが俺に別の術をかけたって考えるのが、一番自然なんだよな。おまけに、2人ともほぼ同時に消えてるっていうか死んでるっていうか、そういうわけだし。
でもさ、シーヤの屋敷にいた魔術師さんはともかく、ドウムさんってシキノさんちにいた魔術師さんで、俺に会ったことあるのは俺が生まれてすぐ、だったっけ。
そしたら、どこから俺に術かけたんだ?
「あの、ジゲンさん。遠くから魔術掛けるのって可能なんですか? 具体的に言うとドウムさんのことなんですが」
「対象を個人とする術の場合、距離が離れれば離れるほど効果は不確定になりまする。要するに、目の前で掛けるのが一番確実っちゅうことですな」
だよなあ。
「つまり、そのドウムという魔術師は、シーヤの屋敷に入り込んだということになりますね」
「それで、こっちの魔術師さんに見つかった、ですか?」
「それで、何やかやあって、セイレン様にそれぞれ術をかけた、とそういうことですか」
ミノウさんがあっさり断言しちゃったけど、うちの人たち、それ知らないんじゃないの? それってつまり不法侵入ってやつでさ。んで、オリザさんとアリカさんが言った通りの展開になったってこと?
えーとそれ、シキノさんちに抗議……あ、無理か。証拠がいまいち薄いや。大体、何でそんなことしたんだって理由がなあ。
「あのー。シキノ家に抗議とかできないんですか? それとか、王宮に告発とか」
「決定的な証拠がございませんなあ。それに、王宮へ告発ということになりますとシーヤもシキノも、ただではすまぬかもしれませんぞ」
ジゲンさんの言葉は、低くて重かった。領主家同士の争い、なんてことになると結構大変らしくて、だから父さんも余り事を荒立てたくないみたいだし。
「ええ。ですからできれば内密に、穏便に済ませたいですわね」
クオン先生が、そう告げる。それは、誰かの罪を打ち消すようにことを解決したいって結論だ。
そうでなければ、俺はともかく父さんや母さんやサリュウ、タイガさんにまで迷惑が掛かってしまうかもしれない。
『私にお話くださったということは、私をほんの少しでも信じていただけたということでしょう? その信に、私は報いねばなりません。シキノの家を継ぐ者として』
そう言ってくれたタイガさんは、もしかしてそういうところまで覚悟して、それでも調べてくれたのか。
ごめんなさい、と何度言ってもきっと俺は、謝りきれない。




