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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
ニ:夏の出会い

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49.なかまで、書類解読

 さて、翌朝。


「おはよう、サリュウ。帰ってきたとこだっつーのに、元気だなあ」

「あ、姉さま、おはようございます。はい、元気ですよ」

「うんうん、元気なのはいいこった。で、そろそろ時間だぞー」

「はい。では失礼します、また後で!」

「おう、後でなー」


 久しぶりに屋敷で迎えた朝は、顔を拭いた後やっぱり窓の下で朝練中のサリュウと挨拶するところから、普通に始まった。着替えて整えて朝ご飯、も普通に進んだし。

 で、部屋に戻った後で俺は、昨夜ジゲンさんからもらった書類を開いてみる。入ってた紙は10枚くらいで、割と読みやすい字で丁寧に書かれてた。カヤさん、済まないけどここだけはジゲンさんを見習ってもらえないかな。

 ともかく、今日はミノウさんがお休みだってことなのでアリカさんとオリザさんにお願いして、手伝ってもらいながら書類を読むことにしよう。俺のことバレたら、その時はその時だ。


「うーん……」

「ありゃー」

「あらら……」


 最初の1枚が概要だったらしくて、その1枚を読んで俺は思わず唸ってしまった。オリザさんは肩すくめてて、アリカさんが頬に手を当てて溜息。

 書いてあったのは、まず俺がいなくなった時のことだ。両親も乳母の人も俺から目を離した、ほんの僅かな隙に俺はこの屋敷の中から消えた。ほぼ同じタイミングで当時うちにいた魔術師の人も消えたけど、そっちは血まみれの姿ですぐに見つかった。と、このへんは父さんたちから聞いたっけな。


「その魔術師さんは防御と気配察知が得意で、転移も勉強中だった……転移?」


 魔術師さんでも得意科目とかあるんだな。ま、そりゃそうか。

 っていうか、防御と気配察知はまあ分かるけど、転移ってなんだろ。まさか別の世界に行くとか、そういうんじゃないよな。

 と思ったら、ただいまジゲンさんのところでお勉強中その1のオリザさんが教えてくれた。


「えーとですね。例えばベッドのとこにある枕を瞬間的にこっちまで持ってきちゃう、とかそういう魔術ですー」

「あー。何、そういう魔術あるんだ?」

「はいー。ただ、その魔術を使う人が動かせる大きさだったり重さだったりしないと動かせないんで、荷物運びは荷馬車がメインなんですよー。勉強してる人も少ないですー」

「まあ、荷馬車のお仕事がなくなったら馬車屋さんとか牧場とか、大変ですものねえ」

「なるほどなあ」


 同じくお勉強中その2のアリカさんは、本を読むのはまあまあだけど実践が苦手っぽい。本日お休みのその3ミノウさんは、意外に飲み込みが早いようだ。ああ、得意不得意ってこういうことだよなあ。

 瞬間移動って便利だなって思ったけど、使う人が動かせるレベルってことはせいぜいが10数キロくらいだよな。それに、荷馬車のお仕事奪っちゃうってか。うわあ、そりゃ広まらんわ。

 そういや、長さや重さの単位なんて考えたことなかったな。距離だと馬で何分とかのほうが分かりやすいし、重さって体重計もないから意外に使わないし。よし、後で聞いてみよ。


「そういえばジゲンさんとクオン先生、急ぎの文送るのに伝書蛇使ってたけど、そういうのには転移って使わないんだ?」

「魔力の効率が悪いそうですよー。それに、途中で魔術の壁とかにぶつかっちゃうとそこで消えちゃうんだそうです。防御って、そういう魔術ですから」

「……そりゃ、蛇さんに壁避けて持って行ってもらった方がましか……避けられるの?」

「防御魔術は、基本的には元からある壁に魔術をかけるそうです。あらかじめ通れるように魔術で認証しておけば大丈夫だ、とジゲン先生はおっしゃってました」


 なるほど、通れるようにしてあるわけか。

 手紙もなあ……ファックスみたいに有線で送れたりしたら大丈夫なんだろうけど、そういうわけにもいかないよな。今から線引っ張るだけで大仕事だろうし。あと、飛脚屋さんのお仕事がなくなる。

 って、便利なことっていろんな人のお仕事なくなるってことなんだなあ。


 変なところに感心しつつ、先を読む。

 ジゲンさん、俺たちが留守の間に屋敷全体をざっと調べ直したらしい。魔術でスキャンしたんだろか、大変だよなあ。

 んで、前調べた時には見つからなかった魔術の残りカスが出てきたとか何とか。そっか、ジゲンさん、前にも屋敷調べたんだ。

 そりゃそうだよなあ。俺がいなくなったとこに来たわけだから、まずはガサ入れだよな。……何か、言い方間違ってる気がしなくもないけど。


「魔術の残りカスって、調べたらどういう魔術とか分かるもんなんだな」

「そうらしいですよ。わたしはまだまださっぱりなんですけどー、ジゲン先生くらいになると一目で種類くらいは分かるらしいですー」


 おおう、さすがジゲンさん。でも、そのジゲンさんが最低でも2回ガサ入れないと見つからなかった残りカスって、上手く隠れてたってことか。

 で、その残りカスは……ええと、何かでできたかけら、か。この単語、何て読むんだろ。


「……えーと。オリザさん、これ何て読むの?」

「はいはーい。ええと、『物質生成』ですね」


 ぶっしつせいせい。

 また何か偉いもんが出てきたぞ、おい。


「えと、要するにその場しのぎの複製品っていうか使い捨ての道具をつくる魔術、ですね。昔から犯罪に使われてたそうですしー、何代か前の王様がそれで死んじゃってるんで今では禁止されてますー」


 なるほどなあ。要するにいつでもどこでも武器を作れて使えるから、か。武器じゃなくって、もっと他の使いようもあるだろうになあ。それに。


「禁止してても、使う奴は使うってか……」

「そうですけど、ジゲン先生の言うことには効率悪いらしいんですよー。それに、使ったのバレたら一発で死罪ですしー」

「あー」


 一発で死罪って、えらく厳しいな。ま、国王暗殺に使われたってんなら納得だけど。効率悪いってのは、やっぱり魔力がどうとかなんだろうなあ。

 んー、でもその魔術が禁止ってのは分かったんだけど、それならさあ。


「でもさ、それって転移でも似たようなもんじゃね? ないもの作るか、あるもの持ってくるかだし」

「そうなんですけど。あれ、何で転移は禁止になってないのかしら?」

「さっきも言いましたけど、魔術の壁とかにぶつかっちゃうと消えちゃうのが1つですねー」


 俺が素直な疑問を口にすると、アリカさんがこきっと首を傾げた。ココらへんはもう、オリザさんの独壇場である。しっかし、よく勉強してるなあ。


「それと、物質生成よりはまだ効率はいいほうなんですけど、難易度が高いんだそうですー。どこそこにあるこれこれこういった品物をここに持ってくる、ってちゃんと指定できないと駄目なんだって、ジゲン先生が言ってましたー」

「難易度高いっていうより、単に面倒くさいんだなそれ」

「高いですよー。ちょっとでも間違えたら、ペン先が手のひらにぷっすりとかなるらしいですし」

「うわ、痛い痛い痛い」


 そりゃ面倒くさい上に難易度高いわ。使えても使わないか、それじゃあ。

 しかしオリザさん、よく知ってるなー。

 ジゲンさんにいろいろ聞いたんだろうけど……何で聞くんだ?

 そう思ってついアリカさんに視線を向けると、あ、何か笑ってるけど笑ってない。微妙に青筋立ってる。


「オリザ。もしかして……転移魔術を覚えて、仕事を楽しようとしたの?」

「ぎく」


 アリカさんの指摘に、声に出して分かりやすくおどけるオリザさんだった。まあなあ、荷物運ぶの大変だったろうし、気持ちは分からなくもないけど。


「結論として、楽にはならなさそうだからやめたってことかな」

「その通りですー。とほほ、うまくいかないもんですねえ」


 これも分かりやすくしょげるオリザさんを、怒る気には全くならなかった。だってさ、仕事が楽になるならそのほうがいいに決まってるだろうし。

 アリカさんもそれに気がついたのか、「ま、いいか」と呟いたのが聞こえた。



 さて。

 俺たち、さすがに調べものばっかりしてるわけじゃない。今月から、ダンスの練習時間が増える事になったのだ。

 理由は簡単で、ダンスを踊ることになるからだ。1ヶ月くらい後に、うちのお屋敷でパーティを開くんだってさ。言われたの、今朝の食卓でだけど。


「パーティ、ですか……」

「うむ。無事家に戻ることができた娘のお披露目、ということでな」

「そうなの。皆に我が娘が戻ってきたっていうことを広めて、良い夫を紹介して欲しいっていう意味もあるのよ」


 あー、そういうことねと両親に説明されてすごく納得する。

 いや、今のところ結婚相手の候補ってタイガさんくらいしかいないんだけど。でも、領主っていうのはこうあちこちにいるし、シーヤの娘ともなれば政略結婚狙ってくる相手は多い、らしい。王族のはじっこ、でもあるわけだしな。

 まあ、確かによその人と顔を合わせておくのも悪くはないか。俺も知り合い増やしたいし、後々家を継ぐだろうサリュウのためにも、さ。

 で、そのことを話された後に、父さんはまじまじと俺を見据えて、それから言ったんだ。


「シキノにも招待状は出さざるを得んし、おそらくトーヤ殿が来られるであろう。くれぐれも、気をつけるのだぞ」

「は、はい」


 くれぐれもって、やたらと強調して言った父さんの顔は、何かえらく力が入ってた。

 もしかして、ここで決着つけたろかって考えてるんじゃないか、父さん。ま、もと恋敵だし、やる気ならいいんだけど。

 いや、俺、自分のことだぞ、しっかりしようぜ。もしかしたら、何かしてくれたかもしれない、その当人なんだからな。

 その父さんの横で、昔取り合いされた女性はにっこりと笑っている。俺、母さんに似てるってほんとかなあ。


「あ、そうそう、セイレン」

「はい」

「あなたから、タイガ殿に別口で文を出してもらえないかしら。ぜひ来てくださいって」


 え、俺から出すのか。いやまあ、割と頼りになりそうだし、シキノさんちの話も聞けるだろうから手紙出すくらいならいいんだけどさ。

 でも、タイガさんって分かりやすく俺のこと好きみたいだけど、いいのかな。そういう手紙出しちゃって。


「んな思わせぶりなことしたら、彼その気になりませんか? 何か悪いですよ」

「大丈夫ですよ。兄さま、あれでも奥方のもらい損ねっての気にしてらっしゃいますし」


 おい、横でしれっと聞いてたサリュウ。それ、女で言うなら行き遅れってことだろうが。実の兄相手に、結構きついこと言うなあ。


「……まあ、お願いしてみます、けど」


 頼りになりそうなのは事実なので、ともかく手紙は書こう。

 もし何かあったら助けてください、って。

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