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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
ニ:夏の出会い

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43.しずかに、墓所参拝

 翌朝、さすがにタイガさんは顔を見せることはなかった。いやー、今日来てたら今度こそミノウさんが籠だか何だか投げてたに違いないんだけどな。ちょっと残念、って思うのは多分現実逃避してるんだろうな、俺。

 朝食前に、珍しくクオン先生が来てくれた。着替えはギリギリ終わっててセーフ。いや、俺中身はともかく身体は女なんだし、見られてもおかしくないんだけどな。何か、な。


「セイレン様」


 クオン先生の肩に、なにかもそもそと動くものがあった。よく見てみると、淡い緑色の蛇だ。

 背中……えーと蛇の肩というか、何となくそんな感じの位置に身体の半分くらいの大きさの、鳥の羽。ってことは、魔術師にしか懐かない例の蛇か。

 にしても、こっちの動物の羽はみんな鳥の羽なのかねえ。そういえばコウモリとか見たことないな。


「祖父からの返信がありました。こちらで調査をしてみるので、身の回りには気をつけるようにと」

「ですよねえ。うん、分かりました」

「それと、ご両親にお話するかどうかなんですが。すぐにタイミングが来るだろう、とのことでした」

「タイミング?」

「ええ」


 先生との会話の間も、蛇はじーっとこっちを見ていた。ああはいはい、何なら後で構うから。

 にしても、父さんや母さんに話するタイミングって、何だろうな。何かフラグでも立つんだろうか。まあ、一応気には止めておこう。

 で、蛇。薄緑に黒い瞳で、羽も緑色で綺麗だなーと思う。蛇って、案外可愛いんだよな。男だった時からそうなんだけど、女になっていきなりきゃーとか言うわけないんだよな。人間、そう簡単に中身変われないっての。


「しゃー」


 あ、威嚇された。どうやら、俺は魔術師の素質はないらしいな。



 朝食をとった後、今日は家族総出で墓所参り……要するにお墓参りに出かけた。ま、これは昨日「明日にします」って俺が言ったからでもあるんだけど。

 やっぱりこっちでも葬式とかそういうところに出る時は黒メインなんだけど、墓参りなのでそこまできっちりじゃない。なので、今日俺が着ているドレスは淡い水色のチェック。首元まで隠すちょいハイネックで、ペンダントはその中にしまった。お墓参りだし、ということで今日は大きい方の指輪もそっちに引っ掛けてある。


 昨日も乗った馬車で、多分5分くらいかな。割と平坦な、というか綺麗に整備されてる道をちょっと森の奥に行ったところに、墓所がいくつかまとまってあった。墓といっても小さな家みたいな建物で、知らなきゃまるで村みたいに見える。

 墓の手前に馬とか馬車とか止める……まあ駐車場みたいなところがあって、そこで馬車を降りる。で、そこで見たものは、白いカラス頭の馬。まーたーかーよー。


「……なあサリュウ、あれ」

「……兄さまの馬ですねえ」


 サリュウと、お互いに顔を見合わせる。弟の唇、端が引きつってら。多分俺も、同じ顔してるんだろうと思うぞ。


「あらあら。タイガ殿、来ていらっしゃるのかしら」

「そのようだな」


 母さんは楽しそうに笑ってるけど、父さんは腕組んで難しい顔してる。ま、いろいろ考えるところがあるんだろうとは思う。


「……なにか投げてもいいですか」

「ミノウ、やめたほうがいいですよお?」

「そうそう。ここで物投げたら、ミノウが飛ばされちゃいますよー」

「……お願いですから、やめてください……」


 何かやる気のミノウさんに、セリフこそ止めようとしてるけど顔はまったく止めようとしてないオリザさんとカンナさん。どうやら真面目一辺倒らしいマキさん、めっちゃ大変そうだな。


「まあまあ。物を投げるには、正当な理由がなければなりませんわ。ですから、やめておきましょうね」

「というか、本気で投げるつもりだったのか? ミノウさん」

「え、いえそういうわけでは!」


 クオン先生と俺がたしなめると、ミノウさんは慌てて首をぶんぶん振った。その振りが、ピタリと止まる。もちろん、白い馬の乗り手の姿を認めたからなんだけど。


「おお。シーヤの皆様方、セイレン様。お会いできて何よりです」


 はい来た、3日連続で聞く声。奥の方からとことこと歩いてきたのは、シキノ・タイガその人だった。今日は白を基調に、アクセントに濃い目の赤が入ってる衣装。へえ、そんな色も似合うんだ、この人。

 いや、違うって。何でうちの家族で俺だけ別扱いなんだよ。マジで俺狙いとか言うか、この人。


「タイガ殿。確か、シキノの墓所参りは昨日だったとトーヤ殿から伺っているが」

「ええ、そうなんですが……その、セイレン様にお会いしたいな、と思いまして、つい。それに、サリュウが世話になっている家のご先祖様に、兄として挨拶しておいたほうが良いでしょう」


 何気に青筋立ててる父さんの問いに、さわやかな笑顔であっけらかんと答えるタイガさん。あーあ、母さんと同じく楽しそうだねえ。

 っていうかさ、どこから突っ込めばいいんだよ。あんた、昨日は朝一番に人の部屋の外にいたろうが。そんなに俺に会ってどうするんだよ。あんたは知らないと思うけど俺、中身男だぞ。


 ま、部外者がいても特に問題ないってことで、タイガさんも一緒にシーヤのお墓参りをすることにした。弟がお世話になります、って挨拶したい気持ちは何となく分かるしな。

 この世界では、基本的に土葬なんだそうだ。で、数年後に骨になったところで掘り返して、改めて骨壷に入れてお墓にしまい直す。土に埋めるのはご先祖様に加わるための準備期間だからで、骨になって壷に入ってしまわれることでその人は晴れてその家のご先祖様、になるんだってさ。

 家やシキノさんちの墓所っていうのは、最初に埋めるところが奥にある。で、その手前にある建物に、骨壷に入ったご先祖様たちが並んでいるので、そっちにお参りするという形になる。

 シキノさんちは手前の方にあったんだけど、シーヤの墓所はお墓の村の中でも一番奥にあった。これは、この辺に本宅があった時の名残らしい。一番の偉いさんは、奥にいるもんなんだそうだ。


「そういえば……少し気になったことがあるんです」


 お参りを済ませてから、不意にタイガさんが口を開いた。あ、お参りの仕方はお供え物備えて手を合わせる……んじゃなくて手を組んでお祈り。この世界で信じられてる神様ってのは基本的に寂しがりの太陽神様くらいだから、そっちにうちの先祖が顔出すことがあったらかまってやってください、みたいなことを祈るんだそうだ。

 その辺は置いといて、俺たちは視線をタイガさんに集中させる。


「気になったこと?」

「シキノの家のことです。しかし、家では口にすることはできない内容なので」

「だからって、シーヤに漏らして良いものなのかしら。あなたが継ぐお家のことなのでしょう」


 母さんの言うことももっともだ。タイガさんのお家のことで、家で話せない内容なんて普通、危ないことだよな。そんなことを、いくらサリュウが養子に来てるからとはいえ、よその家の人間に話すのはどうかと思うぞ。


「そうなんですが……父の様子からするとどうも、セイレン様にも関わることなのではないかと思いまして」

「私、ですか?」

「はい」


 思わず自分を指差すと、タイガさんに頷かれた。そういえばトーヤさんって、下手すると俺がよその世界に行ってたこと知ってるかもしれないんだったよな。


「私の父には、同じ年に生まれた弟がいました。私が生まれる少し前に亡くなっているんですが」

「それは知っているわ。その後いろいろ大変だったみたいだし」


 母さんが答える。そもそも母さんはシキノの家の近くに住んでたし、だから俺たちよりはシキノの家のことについては詳しいと思う。

 とは言え俺も、一応話としては知ってるんだよな。腹違いの兄弟で、馬から落ちて死んだって聞いたっけ。


「その父の弟、つまり私の叔父に当たるトーカのことなんですが……シキノの墓所に葬られたという記録はあるんですが、改葬した記録がないんですよ」

「え?」

「父の母はちゃんと改葬されているんです。同じ時期に亡くなった、祖父の正室も」


 タイガさんはわりと表情を変えることもなく、とつとつと話す。その言葉の意味を、俺は何となくしか理解できない。この辺の常識にはまだ薄くて、彼が言ってることが何を意味してるのかなんて考えないと分からないんだ。


「ですが、叔父だけは未だにここに並んではいません。現在の当主は父ですから、改葬の指示も父でなければできません。ですので……」

「……何ということだ」

「どういうことかしら。壷に入れて差し上げないと、家を守る先祖の列に入れないじゃないの」


 だから、俺の反応は薄い。父さんの愕然とした表情と母さんの言ってることが、こっちでの常識である。

 さっきも言ったけどこっちでは土葬しただけじゃ駄目で、ご先祖様というか守護霊というか、そういったものになるための準備期間でしかない。ちゃんと骨壷にしまう改葬までが、お葬式の手順。

 壷に入れてやれないとずっと準備中なわけで、その人はどこにも行けなくて迷ってしまうんだそうだ。だから、例えば無縁仏さんでも年1くらいでちゃんと壷にしまってやって、そのお墓全体のご先祖様みたいな扱いになる。

 で、家やシキノさんちみたいな大きい家の場合、その責任は当主にかかってくる。タイガさんがトーヤさんじゃないと改葬の指示ができないってのは、つまりそういうことだ。責任持つ代わりに、全権も持つわけ。

 だけど、腹違いの弟とはいえ、そうしてないってのはおかしい。ぶっちゃけ非常識だってことになる。第一、その人のお母さんに当たる人は、ちゃんと骨壷に収められてるっていうんだからなおさらだ。

 ……弟、か。

 不意に俺は、変なことを聞きたくなった。


「……あの。不躾なことをお伺いしてもよろしいですか」

「はい?」


 俺の言葉に、タイガさんは正面に向き直ってくれた。変なこと聞くけど、ごめんなさい。


「あなたの叔父様、トーカ様ですが、……どういったお姿だったか、お家の方から聞かれたことはありますか?」

「いえ、全く」


 質問に、少しも考えることなくタイガさんは首を振った。横に。

 そして、補足するように言葉を続ける。


「肖像画もありませんし、叔父が生きていた頃勤めていた使用人たちはほとんどやめてしまうか亡くなっていますから。残っているのは父が重用している者たち数名ですが、彼らはもともと叔父とは仲が悪かったようで、話もしたくないようです」

「……なんですか、それ」


 これは俺の言葉じゃなくて、クオン先生。

 確かに何だそれ、だよな。というか、絶対何かあっただろ、シキノの家。

 まるで、そのトーカという人のいた痕跡を、消し去りたいみたいじゃないか。


「使用人、といえば」


 そしてタイガさんは、更に思い出したことがあるみたいだ。目を見開いて、何か青い顔してる。


「うちの専属魔術師が、セイレン様がお生まれになったであろう時期に入れ替わっているんです。ですが、その前にいた魔術師のほうがそれ以来、行方が全く知れないんですよ」

「いなくなったって、ドウム殿のことですわよね。セイレンが生まれてすぐ、トーヤ殿と一緒にお祝いに来てくださったのを覚えていますわよ」


 母さん、シキノさんちにいた魔術師さんのことも知ってるんだって思ったけど、うちに来たことあるのか。それならまあ、知っててもおかしくないよなあ。

 俺も会ってる、んだろうな。さすがに生まれてすぐだから、さっぱり覚えてないけどさ。


「……ということは、その後すぐに?」

「はい、そのドウムです。消えたのは、シーヤの家にお伺いしてから1ヶ月ほど後だったと思いますが」

「え」

「……その時期には、我が家の専属だった魔術師も失踪しておる。ジゲン殿にはその後、つてを頼って来てもらったのだからな」


 俺の声をかき消すように、父さんが低い声で呟いた。瞬間、場の雰囲気が一気に重くなる。


 俺が生まれてすぐお祝いに来てくれた魔術師さんが、その1ヶ月後にいなくなった。

 シーヤの家にいた魔術師も、同じ時期に消えた。

 それって、俺がシーヤの家から消えた時期と一緒じゃね?

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