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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
一:新生活の春

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31.どろどろ、過去噂話

 月が変わるくらいから、ダンスの練習を始めることになった。

 てか、俺にとってはその前に難関が1つあるんだけどな。まずは、その難関突破を目標にする。


「1、2、1、2」


 姿勢をまっすぐにして、2センチくらいの高さのハイヒールで歩く。この、かかとの高さが難関。

 いや、高いだけならいいんだよ。何でああいう靴のかかとって、接地面が小さいんだ? 少しでもずれたら、バランス崩して転ぶって。


「あ、わっ」


 ほら。ミノウさんに手を持っててもらわなきゃ今俺、床の上に横倒しになっていたところだよ。いや、足首から先が横倒しになってるから大して変わりないか。いてててて。


「大丈夫ですか? セイレン様」

「あー。どうにか」


 床に座らせてもらって、足首の様子を見る。軽くひねったみたいだけど、まあこのくらいなら大丈夫か。

 足首はいいんだけど、足の裏が引きつるっていうか。普段と重心の掛かる位置が違うから、どうしても足を酷使することになるんだよなあ。


「思った以上にきついなあ、こういう靴って」

「そうなんですけどねえ。セイレン様、ちょっと小柄ですしー」

「慣れてもらうためにその靴ですが、本番だともっとかかと高くなりますよ」

「げ」


 後ろから俺の姿勢を見てくれていたオリザさんと、支えてくれてたミノウさんにそう言われて、がっくりとうなだれた。本番はこれより高いのかよ。どんな足してんだよ、女って。いや今の俺も女だけど。


「そんなわけなんで、慣れてくださいね? セイレン様あ」

「ど、努力します……うわあマジかあ」


 これ以上のハイヒールって、立っただけで足首ひねるに決まってるだろ。

 何でこれで歩けるどころか踊れるんだよ。バランス感覚すごすぎるだろ。あと足首強え。

 女性の足が細いのって、こういう靴履いて歩くのがある意味筋トレになってるからか。すごく納得したぞ。



「まあ、確かにそうかもね。頑張って慣れるしかないわねえ、セイレン」

「やっぱりですかあ……」


 んで、俺の愚痴を聞いてくれた母さんは、ころころと笑ってそう答えた。やっぱり強いや。

 今日はダンスの、じゃなくて歩く練習の後、久しぶりに母さんの部屋でお茶を御馳走になっている。珍しく、サリュウも一緒だった。

 というか、この弟何か言いたいことがあったんで乗り込んできたらしいんだけどさ。


「姉さまのダンスの練習、何で僕は駄目なんですか」


 ……おい。

 そこか、弟よ。

 というか、俺はまだ踊りのステップも覚えてないぞ。ただ、ハイヒールで歩く練習をしてただけだ。

 だのに、何でお前が出てくるかねえ。


「あのね、サリュウ。ダンスっていうのは、男がリードするものなの。リードするってことは、男のほうがダンスの腕前が良くなくちゃ駄目なのよ」


 で、サリュウに対する母さんの答えがこれだった。まだダンスの練習してない、というところはあっちに置いておくんだな、母さん。

 それはそうと、ダンスってそういうもんなのかな、と思う。まあ、男がリードして女がついてくってのがお約束なら、リードするほうが上手くないとついていく方は不安でたまらないよな。


「あなた、年齢のこともあるのだけれど、まだダンスのダの字もかすってないわよね」

「ぐっ」


 母さんにきっぱりと言われて、サリュウは口ごもった。ダンスはともかく、口で母さんに勝てないか、弟よ。

 俺も勝てる気はしないけどさ。あと、カヤさんが何か面白そうにあらあらと肩をすくめてる。サリュウびいきの彼女でも、これはまあなあ。


「わ、分かりました! 僕も練習して、姉さまのパートナーを務められるようになります!」

「あらあら。頑張ってちょうだいね、サリュウ」

「はい! では、失礼します!」

「お待ちください、サリュウ様! で、では失礼致します!」


 がっと勢い良く立ち上がり、頭を深く下げて出て行くサリュウ。お茶はちゃんと飲んでたあたりがあいつらしいというか。

 今日はカンナさんじゃないメイドさんがついてきてたんだけど、慌てて追いかけていったポニテで丸眼鏡の彼女は生真面目タイプらしい。サリュウに振り回されて大変だろうなあ。

 退室していったサリュウとメイドさんを見送ったカヤさんが扉を閉じて戻ってきたところで、母さんが俺に向き直った。


「姉思いの子になってきたわねえ、サリュウは」

「はあ。まあ、仲悪いよりはよっぽどマシですし、好かれて悪い気はしませんから」

「そうね。きょうだいは仲が良いに越したことはないわ」


 ふう、と大きくため息をつく母さん。はて、何かあったんだろうか。

 聞いてみても、いいかな。


「……何かあったんですか」

「いえね。……言ってもいいものかしら、カヤ」


 お茶のお代わりを淹れてくれているカヤさんに、母さんが尋ねる。珍しいことだなと思っていたけれど、カヤさんは平然と答えた。


「奥様のお好きなように。ですが、いずれは知られることだと思います」

「そうね。……セイレン」


 ああ、尋ねるというよりは確認みたいなものか。

 そう納得した俺の顔を母さんは見つめて、そうして質問の言葉を口にした。


「サリュウの実家について、聞いたことはあって?」

「あ、前に少し。春祭りの時に、実のお父さんが会いに来たって話してくれたことがありました」

「そう」


 シキノ・トーヤ。

 俺を育ててくれた院長先生と同じ名前の、サリュウの本当のお父さんの話は、ちゃんと聞いている。


「その、サリュウの実の父親。トーヤ殿っていうんだけどね、彼、同じ年の弟がいたのよ」

「双子ですか?」

「いいえ。……ああ、そうね。うちには私しかいないからセイレンは分からないか」


 てことは、サリュウにはおじさんがいたのか。でも、双子じゃないのに同じ年って。


「領主をはじめとした貴族階級はね、側室を2人までなら持つことが許されているのよ。トーヤ殿は側室の子で、弟のトーカ殿は正室の子だったの」

「うわ」


 あー。この手の金持ちだとよくあるパターンだった。

 まあ、自分の子供に家を継がせる世界だし、奥さんが複数いてもおかしくはないんだけどさ。こういうのがあるから大変なんだよなあ。

 んで、側室の子が兄で、正室の子が弟。しかも同年生まれ。

 ものすごく分かりやすいお家騒動の図、だな。


「で、お兄さんにあたる方が素直に継げた、わけじゃないんですよね? それ」

「そういうこと。正室は自分の子のトーカ殿が跡継ぎだって言うし、側室の方が兄であるトーヤ殿が継ぐべきだって言うし。私の実家が近くてね、そのへんの騒動は、いくら何でも内密にしてるはずなのに聞こえてきたわ」

「……周辺まで巻き込んだんですか……」

「何しろ本人同士が、っていうか弟のトーカ殿のほうが兄を敵視してたって感じだったようね。本来は自分が後を継ぐべきなのに、ほんの少し自分より早く生まれたからって偉そうに、なんて言ってらしたみたい」


 あのさ、これ、頭抱えても許されるよな? 正直、話してくれてる母さんもうんざり顔してるしさ。

 大体、んな分かりやすいパターン、マジで時代劇かよ。

 にしてもこの辺、お兄さんの方はどう考えてたんだろうなあ。俺は女だからサリュウに譲っても割となんともないんだろうけど、男同士だとさ。しかも同い年だし。

 それに、本人はともかく家臣というか使用人さんとか、出入りの商人さんとかもどっちかの派閥に別れちゃったりしたんだろうなあ。そんなの、秘密にできるわけねえだろが。


「それでね。ある日不意に、トーカ殿の姿が見えなくなったのよ」


 急に、母さんの声が低くなった。言葉を選んだけど、これまでの展開を考えると要するに。


「えーと……亡くなられた、とか」

「公式にはね。客人と共に狩りの最中、落馬してってことになってるわ」


 公式には。

 あーまー要するに、側室側が何やかやしたってことか。どろどろの裏話、だよなあ。


「その後、正室と側室が相次いで病気で亡くなられてね。奥方を2人とも亡くされた領主が隠居しちゃって、トーヤ殿がシキノの家を継がれたの。30年くらい前の話になるかしら?」


 ばたばたと邪魔者がいなくなって、なんて言ったらちょっと問題だろうか。ともかくシキノ・トーヤ、俺の育て親と同じ名前を持つ人は自分の家を継いだ。


「まあ、その後トーヤ殿は領主としてそれなりに働いてらっしゃるから、今ではあまり噂をする人もいないけれどね。あそこの後継者がまだ独身なのは、この話が響いてるのよ」

「ああ、また何かあったら怖いですよねえ」


 今の領主が家を継ぐまでに起きた、どろどろの一件。それが、次の後継者に対して起こらないとは限らない。そんな面倒を起こすかもしれない家に、娘を嫁がせたい家は……まあ、ないよな。


「……めんどくさいですね」

「あなたもそう思う?」

「ええもう」


 呆れ顔の母さんに、肩をすくめて頷く。父親を同じくする兄弟でもそんなことになってしまうのに、うちは実の娘と養子の息子、だしなあ。

 ま、ここで俺自身の主張をしておく方がいいか。


「でも、うちは大丈夫ですよ。俺、家継ぐ気ないですし」

「あら」

「!」


 母さんは目を見張った。その後ろでカヤさんも、ちょっと驚いた顔をしている。いや、サリュウが跡継ぎだって俺に釘刺したの、あなただよね。母さんには言ってないけど。


「だって、サリュウがいますもん。俺は外で育ってますから、後を継ぐには相応しくないでしょう」

「いいの? そうなると、どこかに輿入れしてもらうことになるけれど」

「もらってくれる人がいれば、ですね。後、俺のこと知っても平気そうな人とか」


 生まれて1ヶ月ほどで、さらわれました。

 つい最近までよその世界で、男として育ってました。


 いくら何でも、秘密にしっぱなしってわけにもいかないだろう。

 そんな俺を嫁にしようとかいう剛毅な奴が現れたら、ぶっちゃけるしかないだろうが。


「……そうねえ。黙ってるわけには、いかないものねえ……」


 いやほんと、これ黙ってたら詐欺だろ。

 俺と両親、ジゲンさんとクオンさんだけが知ってる秘密だけどさ。

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