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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
一:新生活の春

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24.もうすぐ、春収穫祭

 午後からは、日課になったクオン先生の授業。ミノウさんが洗濯物回りのお仕事ということで部屋を出てしまい、オリザさんがお茶を淹れてくれた。

 でも、話題はお茶でもお茶菓子でもなくて、母さんが買ってくれたアクセサリーだった。やっぱり女の人、こういうの好きなんだなあとは思うけどさ。


「可愛いですよ、セイレン様。あまり派手じゃありませんが、よくお似合いです」

「うわ、クオン先生までー。でも、ありがとうございます」

「セイレン様、こゆシンプルなのすっごく似合いますよねー。びっくりですー」

「そ、そうなのかな」


 頼むからステレオで褒め殺ししないでくれ。こう何だ、すっげえ反応に困るだろ。

 あー、ちなみに大きい方の指輪だけど、今は小さい方の指輪と一緒に首飾りに収まっている。一応書き物するわけだしさ、紙とかペンとか引っ掛けたらやだなって思ったらミノウさんがアイデア出してくれて。


「石の色も同じですし、セットとして着けられるのではありませんか?」


 で、やってみたら何か好評と言うか。うん、これいい感じだな。大きい方の指輪がわりと目立つっていうか。2つぶら下がってるのがうまいこと1つに見えるし。

 今後はなるべく、こうしてようかな。指輪ってつける習慣なかったから、何か微妙に指が重いっていうか。いや、慣れなきゃいけないんだから、食事の時とかはつけるようにしようか。



 で、ステレオが落ち着いたところで気になってた食料の値段の件を聞いてみる。あ、シーヤの家は多分参考にならないから、クオン先生が知ってる範囲でってことで。


「値段、ですか」

「はい。俺、こっちのお金の価値とか分からないんで。参考にしたいなって思って」


 俺の問いに、クオン先生は「そうですねえ」と少し考え込んだ。それから出てきた答えは、俺が待ってたものとはちょっと違ってた。


「……細かいものの値段はともかくとしまして。ここにお世話になるまでの私と祖父の食費が、1ヶ月だいたい3万イエノかしら?」

「食費が3万?」


 すると、1人1ヶ月1万5千イエノ。確かテレビで1ヶ月1万円生活ってあったけど、あれ確か光熱費込みだったよな。食費で1万5千なら1日500ってとこだから、あれちょっとお安め?


「なるほど。先生の今のお給料って……あれ、聞いていいのかな」

「構いませんよ。住み込みですから住居や食費、燃料代は全てシーヤ家が持ってくださってますが、私はだいたい50万イエノですわね」

「てーと、食料が安いのかな。お給料は多分そんなもんだと思うんで」


 何か、服代とかボーナスとか他にもいろいろ出てそうな気がするんだよな。あんまり細かく聞くとあれなんだけどさ。それに、そういうことに詳しくなってもしょうがないし。


「シーヤの領地は農業が盛んですからね。酪農もそれなりにやってますから、肉もあまり高くならないですし」

「はー、分かりました。このくらいなら慣れるの早いと思います。ありがとうございました」

「いえいえ」


 要するに、向こうとの差はあんまり考えなくても良さそうだ。多分食料の値段、俺が慣れてる安売りのレベルで十分美味しい物が食えるってくらいだろ。



 お金の話が終わったところで、今日の書き取りを見てもらう。自分の名前は何とか書けるようになったので、次は数字とか簡単な文章を書くようにしている。でぃすいずあぺん、みたいな感じな。


「読み書きの方は、覚えるのだいぶ早いですね。文字も綺麗になってきましたよ」


 先生が褒めてくれるのは嬉しい。けど、しっかり赤で修正が入ってるんだよなあ。ちょっと似通った文字があるんで、勢い余って間違えたかもしれない。気をつけよう。


「あ、ありがとうございます。向こうで使ってた文字のひとつとよく似てるんで」

「あら、複数の文字を使う世界だったんですか?」

「国によります。俺のいたとこはやたら多くて、普段でも3つとか4つとか使ってましたから」

「まあ。覚えるの大変だったでしょう」

「慣れるとそんなでもないですけどね」


 俺の答えは、クオン先生の肩をすくめさせた。そりゃ、一度にひらがなカタカナ漢字アルファベットといろんな文字混ぜて書くなんて、1種類の文字だけ使う世界から見たらありえないとか思うだろ。考えてみれば、英語の国とかだとアルファベットだけでいけるもんなあ。

 この世界の言葉は割とローマ字っぽくて、慣れると読みやすくなってきた。というか、何か読める。

 これが小さい頃こっちの言葉を覚えてその後向こうに行ったっていうなら分かるんだけど、俺が向こうに行ったのは生後1ヶ月。当然言葉なんかしゃべれもしないし、文字が読めるはずもない。

 ……爺さんあたり、何かやったかな。ま、不便じゃないからよしとする。



 授業の様子を見ながら、オリザさんがお茶を持ってきてくれた。今日は花びらが入っていて、いかにも春のお茶ですって感じで可愛い。匂いもほんわかとして、何か安らぐ感じだ。

 で、お茶を出してくれたあとオリザさんは、こんなことを言ってきた。


「あ、ねえねえセイレン様。そういえば、そろそろ『春の宴』の週ですよう」


 春の宴の週。

 前に言ったとおり、この世界の暦では3月、6月、9月、12月の後にどの月にも入らない1週間が4回存在する。それぞれが春の宴の週、夏祓いの週、秋の宴の週、年越しの週という。日にち的にちょいずれてるけど多分、向こうの暦で言うところの春分、夏至、秋分、冬至に当たるんじゃないだろうか。

 で、その1週間はそれぞれの時期に合ったお祭りが行われる、んだと。春と秋は収穫祭で、夏はお盆。時期違うけど、意味としてはそういうことらしい。冬は名前のとおり、年越しな。


「村でもねー、お祭りがあるんですよ」

「お祭りねえ。秋の収穫祭っていうのは何となく分かるけど……春だとベリーとか採れるから、そっち系なのかな?」

「そうですね。他にも花が咲く季節ですから、そのお祝いといえばいいのかしら」


 はー、なるほど。

 向こうで言うひな祭りとか花見とか、そこら辺に当たるやつか。ひな祭りは施設に女の子もいたからやったことあるし、施設の近くの公園には桜があったから皆で弁当作って持って行って花見、したっけなあ。


「ってことは、お祭りに行ったらいろんな花が咲いてて派手なのかな」

「そですよー。普段は見れないような珍しいお花とか、飾ったりしてるところもあるんですー」

「へえ」


 花の祭り、か。

 きっとシーヤの屋敷にある花畑よりもいっぱい花が咲いていて、それで人もいっぱいで、きっと楽しいんだろうなあ。


「行ってみたいなあ」


 その言葉は、思わず口から漏れたものだ。けど、敏感に反応したのかオリザさんが俺の顔を覗き込んでくる。心配したんじゃなくて、面白そうな顔してる。向こうが。


「セイレン様ってば、興味あります?」

「うん……あ、でも無理かな」


 わがまま言えない立場だってのは、俺なりに理解はしてるんだ。

 そんな賑やかなところに行ったりしたら、俺は楽しいと思うけど。

 でも送り出す両親は、何となくものすごく心配でならないだろうな、って思ったんだ。


「屋敷のまわり回るだけでもアリカさんから離れるな、ってしっかり言われたんだよな。これが外に出たいなんつったら、どうなることやら」

「あー。旦那様も奥様も、ことセイレン様については心配性ですもんねー」


 当たり前だろ。さらわれた前例がある娘なんだから。

 いくら帰ってきたとはいえ、また何かあったらって考えるとなあ。


「何でしたら、私の方からご両親にお伺いを立ててみましょうか。お供がいれば、もしかしたらお許しがいただけるかもしれませんし」

「期待しない方が良さそうですね。ま、両親の気持ちも分かるんで」


 クオン先生の申し出に頷きながら、俺は多分駄目だろうなーとあきらめることにした。

 ただでさえ、人の目が一瞬離れたとはいえ屋敷の中から俺は消えたんだ。自分の領地とはいえ、屋敷の外に出て何かあったらどうしよう、とか考えても無理はない。

 だから、せめてメイドさんたちに行ってもらって話だけでも聞こうかな、っていう結論に自分の中ではなった。

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