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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
一:新生活の春

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21.はてさて、今後問題

 ……さて、と。

 俺はガチでこの家の娘で、つまり生まれた時は女。

 いろいろあったけど戻ってくることになって、で。

 で?


「それで結局、俺はどうすりゃいいんですかね?」


 まあ、こういう疑問が出てくる。いや、両親は娘取り返せたからいいんだろうけどさ。

 俺は、これからどうすればいいんだろう。ぼんやりとした疑問だけど、自分1人じゃ答え出ないよな。

 尋ねる相手がクオン先生なのは、さすがに親やメイドさんに聞く内容じゃないよなって思ったからだ。

 でもまあ、誰に聞いても答えってあんまり代わり映えしないよな。


「どうすれば……ですか。普通に、この家で過ごせばよろしいかと思うんですが」

「普通に、って言われてもねえ……ま、家の跡継ぎはサリュウがいるから大丈夫だと思うんですが」

「あら、お継ぎになるつもりはないんですか?」


 クオン先生は、面白そうな目で俺を見つめてくる。あれ、もしかして俺、跡継ぎになるぞーなんて考えてるとか思われてた?

 無理言うなよ。自分のことくらい、分かってるぜ。


「俺にはとてもとても。サリュウが嫌だって言うならちょっとは考えてもいいですけど、でも違うでしょう?」

「そうですね。彼は彼なりに、シーヤの跡継ぎとして頑張ろうという気はあります」


 その割にお勉強苦手なんですけどね、ってくすくす笑う先生、結構楽しそうだ。

 何だろ、父さんは先生が苦労してるみたいな話してたけど、案外サリュウと先生は仲いいんじゃないかな。父さんに相談できないことも、クオン先生にはしてるだろうし。

 それで頑張ろうとしてるんなら、そこに俺が割り込むことはない。姉だとかどうとかはともかく、俺自身の認識は後からやってきたよそ者、みたいなもんだしな。

 そうすると、俺はさてどうすればいいか。


「そうですね。後継者が居られる良家の場合、そうでない娘さんは他の領主家などに輿入れするのが一般的ですね」

「輿入れ……って、やっぱり結婚かあ」


 ……女だと、まあそうなるよな。サリュウがいなくて俺が跡継ぎなら、お婿さんに来てもらうんだろうけどさ。


「はい。シーヤ家に王位継承権が存在するのは?」

「あ、一応聞きました。数十番台とか何とか言ってましたけど」

「ええ。それはつまり、王家の血を引く女性がかつてこの家に入ったってことです。そういった感じで、近隣の領主家と婚姻を結んだりするのはよくあることですから」


 言われてみりゃそうか。

 元から王家の分家とかでない限り、そっちの血を引くお嫁さんもらったりしないと親戚にはならないよなあ。

 てか、分家だともうちょっと順番早いよな。ま、せいぜい何十番台が十何番台、になるくらいだろうけど。


「あー、言っちゃ何ですが政略結婚ってやつですね。俺、育った世界の歴史で習いましたよ。そういうの」

「歴史、ですか」

「あっちじゃ俺、親無し子なもんで。それに恋愛結婚がわりと当然な世界でしてね、政略結婚なんて遠いどこかの物語だったんですよ」


 肩をすくめてみせると、クオン先生も気がついたのかこほんとひとつ咳をした。とりあえず、こっちの世界と俺の育った世界でそこら辺が違うってのは分かってもらえただろうか。いやまあ、遠い何処かでは今でもやってるんだろうとは思うけどね。


「……ごめんなさい。そうでしたわね」

「いいですよ。世界が違うんだから、いろいろ違うってことくらい俺にも分かります」

「柔軟な考え方ができるんですね。ちょっとうらやましいかな」


 そういうもんなんだろうか。

 まあ、ひとつの世界しか知らないと常識とか固まっちまうもんなんだろうなあ。

 ……俺、よくこっちに順応したな。こっち来てから、まだ1日ちょいだぞ。もともと生まれた世界だから、馴染めてるのかな?


「ま、それはともかく。そうなると俺、どっかの金持ちに嫁入りってことになるんですね……うわあ」


 ほんと、戦わなくちゃ現実と、だな。

 サリュウに面倒かけるわけにもいかないし、そうするとそうなるわけだけど、さ。

 まだ中身が男だってのに、やろーの嫁になれとか言われたら俺、ぶっ壊れる自信あるわー。

 大体、そういうところの結婚って要は子供作るためだもんな。……つまりはそういうことするわけで。

 うわーうわーうわー。


「まあまあ、落ち着いてくださいセイレン様。すぐにそうなることはありませんから」


 慌てて立ち上がったクオン先生に、ぽんぽんと肩を叩かれた。ああうん、明日にでも結婚式とか言われたら俺、今すぐ暴れるけどさ。あの親ならさすがにそれはないだろう、うん。


「ゆくゆくはいずれかの良い家に嫁がれることになるかと思いますが。まずは今のお身体と、こちらの習慣に馴染んでいただくために最低1年間はこの家で暮らしていただきたい。そう、ご両親はそうお望みです」

「……そか。それは助かります」


 はああああ、と思い切り息を吐いて、ソファに沈み込んだ。マジで助かった、としか言い様がない。

 せめて、この身体には慣れたい。下着のつけ方とか……せめてブラジャー、1人で着けられるようにならないと。

 自分が女だってことに慣れられるかどうかは分からないけど、せめてあの両親の娘としては。


 あ、そうか。


「父さんも母さんも、生まれてすぐいなくなった娘とやっと一緒に生活できるんですもんねえ。少しは親子として、仲良くなりたいんだろうな」


 俺には院長先生がいたから、まあ良かったけど。

 両親にはサリュウもいたけど、でもそれとは別に俺を探してくれていたんだよな。生まれてすぐいなくなった娘を、取り返したくて。

 だったら、なくした18年分とまでは行かなくても、親と娘としてしばらく生活した方がいい、よな。


「当主様と奥様のお気持ちを理解できておられるのは何よりですが、まずは言葉遣いから正していきたいですね」


 そんなことを考えていた俺に、クオン先生はさらりと言ってくれた。

 今まで指摘は受けてないけど、多分皆気になってるところだよな。うん。


「………………あ、やっぱり今の俺の言葉遣い、気になります?」

「無論です。シーヤ家の長女として、相応しい女性になっていただかないと」


 苦笑されたよ。顔ひきつってるの、自分でもわかってるからさ。

 いやまあ、ほんの1日前までごく当たり前に使ってた言葉なわけだしさ、あんまり考えてないとどうしても男口調になっちまうだろ。自分のことも『俺』だし。


「……少し時間くださいよ。何しろ俺は……ってこれ、さっきも言いましたっけ」

「承知していますわ。それでも、言葉遣いをもう少し柔らかく、丁寧にするくらいはできますよね?」

「…………気をつけます。人前では私、の方がいいですよねえ」


 うん。すっかり意識の外だったけど、女が俺ってのは多分こっちでもおかしいんだと思う。それで、サリュウも最初ビックリしたんだろうしな。敬語使わないと、完全に男口調だし。

 これでも向こうじゃ、顔も相まって女っぽいかもって言われたんだけどさ。


「普段使いまで変えろとは申しませんわ。こう言っては何ですが、セイレン様は気性がさっぱりしてらして少し男性的なところもおありになりますから、普段は俺でも意外と違和感ないですよ」


 クオン先生の答えに、俺は一瞬固まった。

 男性的なところ、っていうのは俺が男だったことを知っていて、言ってるんだよな。多分俺に、気を使ってくれてるんだ。

 それはともかくえーとなんだ、今外から見ると俺は、ちょい男っぽい女ってことか。まあ言葉が男だしな。

 向こうじゃ女っぽい男で、こっちじゃ男っぽい女。……なんだかなあ。


「……お世辞はいいですよう。ま、育ちが悪かったってことで勘弁して下さい」

「あら、問題なのは言葉遣いくらいですわよ? それ以外は十分、領主家の娘としてやっていけると私は見ていますわ」


 ほんとか?

 少なくともカヤさんにとっては、俺がいるってこと自体がある意味問題だろうし。

 あーもー、早い目に俺、跡継ぎませんって宣言したほうがいいのかね? いや、そしたらお見合い話とかなだれ込んでくるか。何気に親馬鹿っぽい両親が卒倒しないといいけど。


 いやほんと、気をつけよう。

 何はともあれ、この状況で生きていくためには。


「さて。そろそろお話はおしまい、ということでよろしいですか」


 とん、とテーブルを指先で叩いて、クオン先生は俺に向き直った。その手元でかちゃっと揺れたカップに入ってるお茶は、とうの昔に湯気なんか出なくなっている。


「あ、はい。いろいろありがとうございました。お茶、冷めちゃってますけどおかわりどうします?」

「いえ、今夜はこれで失礼させていただきますわ。もう戻って来られても大丈夫ですよ」


 ほんとに話は終わりらしい。クオン先生が部屋の外に声をかけると、すぐに扉が開いてアリカさんとミノウさんが戻ってきた。2人とも何か表情がぎこちないけど、何かあったのかな。俺を先生とふたりきりにしたから、かな。

 その2人をまるで気にせずに、先生は俺に尋ねてきた。


「授業は明日の午後からで?」

「はい、お願いします。用事、ないよね?」

「はい。クオン先生の授業の件を受けて、できるだけ空けるようにしてありますので」


 自分のスケジュールを、俺自身はさっぱり把握できてない。メイドさんたちに聞いてみると、ミノウさんが大丈夫だと頷いてくれた。

 てか、これもこっちに順応してるってことか。自分のスケジュール、メイドさんに聞くっての。

 まあとりあえず、明日から勉強見てもらえるのは確かなので、ちょっとほっとしつつ俺は軽く頭を下げた。


「ありがとう。そういうわけで、明日からよろしくおねがいします」

「分かりました。ではセイレン様、これで失礼致します」


 扉のところで優雅に礼をして、クオン先生は去っていった。

 ……えー、ああいう礼の仕方も俺、覚えないとだめかな。ああいう柔らかい動き方、女になった今ならできるんだろうか。


「あの、セイレン様」

「ん?」


 しばらく扉を見つめていた俺におずおずと声をかけてきたのは、ミノウさんだった。アリカさんは何か割り切った感じでクオン先生を送り出し、お茶を片付けている。

 ん、もしかしてアリカさんの方が、この辺さばさばしてるのか。


「ああ、大丈夫。いろいろね、相談してただけだから」

「はあ……」

「いや、さすがに将来の事とかはさ、ミノウさんたちに相談しても何も言えないだろってね」

「……失礼いたしました」


 ミノウさんが頭を下げる。アリカさんは困ったように、ちらりとこっちを見るだけだ。

 さすがにさ、メイドさんに相談できないこともあるし。女の俺でもそうなんだから、男のサリュウはほんと、大変だろうな。


 そうでなくても、きっとこの世界ではいろいろあるんだろう。

 状況的にこの世界で暮らしてかなくちゃならないなら、俺が慣れなくちゃいけないんだな。

 今のところは両親とか、メイドさんとか、ジゲンさんやクオン先生が助けてくれてるけどさ。


 生まれる世界、否、育つ世界を間違えたらしい四季野青蓮改めシーヤ・セイレン。

 俺、果たしてどうなることやら。

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