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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
一:新生活の春

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16.とびだせ、外周案内その3

 屋敷の横を、奥に向かっていく。食堂の斜め裏に出っ張った部屋があって、中でメイドさんが腕まくりしてお仕事しているのが見える。男の人が指示してるのも分かった。

 あ、食器洗いしてるんだ。チラリと見えた奥では包丁持ってるみたいだから、何か切ってるんだな。

 そうするとここ、厨房か。じゃ、指示してる人はシェフかあ。

 ……金持ちすげえ、ってこの家に来て何回目だろう。


 アリカさんに聞いてみると、「そうです」と頷いてくれた。


「皆様のお食事と使用人たちの食事を全てこちらで賄っておりますので、ご覧のとおり忙しくて。私たちもよく手伝いをしています」

「人数いるもんなあ。さっきお昼終わったばかりなのに」

「お夕食用や保存しておくための、材料の下準備もありますから」


 あ、そうそう。手間かかるけど、下準備を先にしておくと後で料理する時楽なんだよな。

 野菜を洗ったり、魚だとうろこ取ったり頭や骨取ったりか。肉だと一頭買いしてある程度の大きさにさばいたりしちゃうんだろうかね。この際何が一頭か、は考えないことにするけどさ。

 そのうち、牧場とか見せてもらったほうがいいかな。どんな動物がいるのか、見たいしさ。

 本当はシェフの人とかに話聞いてみたりしたかったんだけど、お昼すぐでこれだけ忙しいんじゃ無理だな。


「声、かけないほうがいいよね?」

「そうですね。ご覧のとおりですから」

「よし、じゃあこっそり離れようか」

「はい」


 唇に人差し指を当てて静かに、っていう仕草はこっちでも同じらしい。その仕草をしたアリカさんと一緒に、俺は気付かれないようにそそくさとその場を後にした。



 で、厨房から距離をおいて歩いて行くと、ちょっと離れたところにレンガ積みの小さな建物があった。よく似た一回り小さめの建物がもう1つ並んでて、そっちには煙突がついている。少し離れたところには木が生えてるけど、煙突があるせいか建物の近くは草しかないし、入口までの道は踏み固められている。使ってる建物なのは間違いない。


「アリカさん、あれ何だ?」

「煙突のある方が燻煙室、煙突のない方が食料をしまっておく倉庫ですね。倉庫には干し肉や塩漬け、お茶や香辛料などを保存してあります」


 あ、食料庫は別棟だったんだ。

 そうやって見ると、倉庫としては十分でかいと思う。100人乗っても大丈夫、な倉庫のテレビコマーシャルを見たことがあるけど、あれの車庫くらいは余裕であるしなあ。


「干し肉とかは保存食だよね。香辛料って胡椒とか?」

「はい。昔は金庫に保管していたんですが、最近は安いものが出回るようになりましたので使いやすいように食料倉庫に移したそうです」


 金庫に保管するレベルで貴重品、だったのか。いや、歴史かなんかで勉強した記憶があるぞ。

 学校で学んだのは輸入品だったからめちゃくちゃ高価だったって話だけど、こっちでもそうなのかな。


「やっぱり、よそから輸入してくるから高かったわけ?」

「そうですね。運搬にかかる費用がかなりかかったそうですから」


 だよねー。その値段が安くなったってことは、運賃下がったからか。つまり。


「安いものが出回るようになったってのは、近くでとれるようになったから?」

「はい。この近辺の地方で育つ品種が見つかりまして、そちらで栽培されるようになったんです。シーヤ家領でも、一部で試験的に栽培が始まっています」

「そっか。農家も頑張ってるんだな」


 うちの近くでも作れるようになったんなら、確かに安くなる。それに、新しい作物が増えたってことで農家の人たちも頑張るんじゃないかな。いろんなもの作れたほうが、いろいろ売れるしさ。

 倉庫の方は分かった。隣の燻煙室に、話を変えてみる。


「で、燻煙室って何するところ?」

「中で燻製を作っているんです。旦那様がお酒のあてに、よくベーコンやスモークチーズを摘まれますよ」

「あー」


 燻製かー。院長先生がダンボールで囲って作ってくれたことあるけど、それ専用の建物があるんだ。いや、ベーコンとか売ってるからそういう建物あるよなあ、向こうでも。

 自家製ベーコンにスモークチーズかあ。俺はお酒なんて飲んだことないけど、酒のあてじゃなくても普通に美味しそうだな。

 朝のパンにベーコンエッグとかついてきたらいいなあ。あ、いかん。何か食べたくなってきた。


「俺はお酒飲まないけどさ、ちょっともらってくることってできる?」

「おつまみですか? ええ、構いませんよ。サリュウ様も勉強の休憩中にチーズをいただかれているようですし、お願いしてみますね」

「うん、頼む」


 やった。

 燻製なら日持ちもするだろうし、ちびちび食べよう。

 貧乏臭いと思われるかもしれないけど、事実昨日の昼までそうだったからな。いきなり金持ちになったって、そうそう変わるもんじゃないや。



 不意に、アリカさんが手をポンと叩いた。


「そうだ、セイレン様。この裏に、作業用の水を汲み上げている井戸があるんですよ。見ていかれますか?」

「井戸? おう、見る見る」


 井戸なんて、向こうでもろくに見たことないしな。せっかくなので、案内してもらう。

 連れて行ってもらったのは、食料倉庫の裏だった。石積みの丸い井戸が俺のひざ上くらいまで伸びていて、蓋が閉まってる。とりあえず思い出したホラー映画は、忘れることにしよう。あれ、建物の近くにはなかったはずだし。

 蓋の上には、風呂についてた井戸用ポンプのでかいやつがついている。この下にバケツなり桶なり持ってきて、ポンプ使って汲むんだろうなあ。

 ところで、作業用って何だろう。


「作業用って言ってたけど、飲み水じゃないの?」

「飲み水は、ここよりもう少し山に近いところに専用の井戸がありますから。ここで汲み上げているのは湯浴みや洗濯、あとトイレに使う水ですね」

「専用かよ」


 まあ、そういうのがあってもおかしくないか。飲めるレベルの水をそれこそ風呂やトイレにまでざぶざぶ使える国なんて、そうそうないみたいだし。

 あ、でも井戸って、石とかいろいろ中に積んで濾過してるんじゃなかったっけか。それでも飲めないのかな。


「水質とか違うのかな」

「私は詳しいことは知らないんですが、単純に山に近いほうが人里からは離れていますし、綺麗な水なんじゃないでしょうか」

「あ、そりゃそうかも」


 この井戸は家に近いから、飲むのにはちょっと厳しいのかもな。でも洗い物とかには問題なく使えるんだから、さほど汚れてるわけでもないか。

 そのうち、飲み水専用の井戸の方も見てみたいな。山に近いところだから、ここよりもっと自然の中なんだろうなあ。いろいろ、行きたいところが増えるよ。大変だ、俺。



「ん?」


 風に乗って不意に流れてきた匂いに、顔をそっちに向ける。多分花の匂いだと思うんだけど、ああ、あれかな。

 屋敷からびよーん、と1ヶ所だけ妙にはみ出た場所があって、その側に木が何本か固めて植えられていた。小さい白い花が咲いてるけど、あの花の匂いだと思う。

 何というか、そうだ。よくトイレで使う芳香剤の匂い、そんな感じだ。

 ……つっても、こっちにトイレの芳香剤ってないよな。多分。

 アリカさんは、そこからかなり距離を開けて歩くように、俺に言ってきた。


「あそこ、トイレなんです。気を使って作られてはいますが、どうしても臭いが移ったりしますので」

「あ。ここまで延びてんのか、あの廊下」


 中から見ると分からないけど、こうなってたんだ。今は水洗だからいいけど、その前はもしかして上からぼっとん? うーわー、想像したくないわー。

 ……あ、そうか。このえらくきつい匂いの木が、ここに植わってるのって。


「あの木、匂いきついよな。もしかして、臭い消し?」

「は、はい。出たものは農民に引き渡して堆肥にするんですが、そのための処理槽があの地下にあるんです。それで、取り出すときなどにどうしても臭いが酷いので」

「………………あー」


 利用してる方向自体は間違ってなかったらしい。トイレの外の芳香剤、だったわけだ。

 そっか。トイレは水洗だけど、流したものは結局下に溜まる。

 で、それを集めて処理して、堆肥にして、畑にまくと。

 ……うん、いろいろあるけど考えないことにする。だってさ、この世界ではそれが当たり前なんだから。

 でまあ、言われたとおりにトイレ周辺を大回りしつつ、アリカさんはちょっと言いにくそうに実はもう1つあった理由を教えてくれた。


「それにそのう……処理槽の上は蓋をちゃんとしてあるんですけど、それでもたまに動物が落ちたり人が落ちたりするんです。そのための柵代わりも、あの木に兼ねてもらってます」

「……しっかりした蓋に変えたほうがいいんじゃねえか、それ」

「そうですねえ……」


 処理槽って言っても、要は肥溜めだろ。

 肥溜めに落ちるとか、洒落にならないぞ。いやほんとに。



 急いで大回りすると、客間や父さんの部屋の裏手に出た。こっちには食料庫とかはないみたいだけど、その代わりに石畳の道と、それから少し奥の方にコテージがある。これ、もしかして家庭教師さんの家か。

 そして、その前で俺たちは、ばったり出会った。


「おや、セイレン様」

「あ、あん時の!」


 俺をこっちの世界に女として戻した、魔法使いの爺さんに。

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