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14.とびだせ、外周案内その1

 さて。

 食後しばらくのんびりしたところで、お昼からは屋敷の回りを案内してもらうことになる。

 アリカさんが「外出する時のマナーですので、これをお使いください」と持ってきてくれたのは、可愛い日傘だった。純白でふりふりひらひら付き、骨や持つところは木でできてる。このファンシーさは、母さんの趣味だな。


「奥様にセイレン様がお庭を見たがっていると申し上げましたところ、それならばとこちらを下げ渡していただきました。これが一番シンプルだそうですので」

「下げ渡し? あ、これ、母さんがくれたの?」

「ええと、はい、そうなります」

「……そっか。うん、あとでお礼言っておかないとな」


 母さんが、俺にくれたもの。

 この部屋も服も髪留めも、父さんや母さんからもらったものだけど。

 そんな風に、俺自身のことを考えてくれて母さんがくれたのは、今ワンピースの帯の部分にピンで留めてあるお守り袋の中身、指輪を除くときっと初めてだ。

 うん、大事にしよう。


「気に入られましたか?」

「うん」

「それはよかったです」


 アリカさんも嬉しそうに笑ってくれたけど、もしかして俺、あんな顔してたのかな。



 ホールまで降りると、ユズルハさんがいた。俺の顔を見て、頭を下げる。


「屋敷の周囲を見回りたいそうですね。セイレン様」

「うん。俺、昨日からこの屋敷の中しか知らないからね。外にも出てみたいし」


 外を見たい理由をそう言葉にすると、ユズルハさんは「どうぞ、いってらっしゃいませ」と言ってくれた。けど、すぐ顔を緊張させて、声を落として言葉を続ける。


「アリカにも言い含めておりますが、あまり屋敷から離れませぬように。警備の者はおりますが、いつ何があるか分かりません」

「気をつけるよ。アリカさんから離れないようにすればいいのかな」

「ぜひ、そうなさってください」


 うーん。

 領主の娘とはいえ、自分ちの敷地内なのに妙に厳しいような。

 ……やっぱ、俺がさらわれたってのが18年経っても響いてるんだろうか。

 その割に、今朝訓練してたサリュウは1人だった気がするけどなあ。


 まあ、気をつけよう。

 目の前に現れた俺を、何の躊躇もなく抱きしめてくれた母さん。

 俺が話しかけると、嬉しそうに答えてくれる父さん。

 あの2人を、悲しませたくはないもんな。


 ユズルハさんに玄関の扉を開いてもらって、外に出る。

 俺にとってこっちに来て初めての、外だ。

 けど、その前にひとつ。


「……とりあえず玄関、外も広いんだな」


 玄関ポーチっていうのか? 扉の外の、屋根がついてるところ。あれがホテル並みに広い。

 地面の上に石でできた階段が数段あって、上がり切ると広々とした石畳。振り返ると玄関扉の並び、ちょっと離れたところに小さな、いや普通サイズの扉がもう1つある。午前中に見た玄関ホールの作りを考えると、使用人さんが自分たちの部屋から直接表に出てくる時とかに使う扉なんだろうな。

 で、その扉までびろーんと屋根が伸びている。下から見ると、白っぽい唐草模様。この方が暗くなくていいか。


「馬車を横付けできるようにしてあるんです。雨や雪に濡れないように」


 館内のお仕事で忙しいらしいユズルハさんはもう行っちゃったので、アリカさんがここが広い訳を教えてくれる。

 馬車かあ。機械とか発達してないみたいだし、やっぱり基本的な交通機関はそこだよな。……こっちの馬、俺の知ってる馬と違ったりして。


「今の季節は大丈夫ですが、特に冬になると雪で滑ったりもしますので、こちらの床には滑り止めの溝が刻んであります。ですが、気をつけてくださいね」

「雪、降るんだ」

「はい。足首くらいまでなら積もることもあります」


 積もるんだ。あ、確かに石畳、綺麗なストライプ模様に刻まれてる。これ、滑り止めなのか。

 それにしても雪かあ。小さいころ施設の庭に積もった雪で雪だるま作ったこと、思い出すなあ。顔を作るのにそこらに落ちてた空き缶とか使ってな。うん、あとでちゃんと捨てたよ。

 冬になって積もったら、雪合戦とかしたいなあ……無理か。何か止められる気がする。外に出るだけであれ、だもんな。……冬までには、少しは緩くなってるだろうか。

 まあ、今のところは冬でもないしと顔を上げる。と、ポーチの下から向こうにまっすぐ伸びる道が見えた。やっぱり石畳が綺麗に並んでいて、その横に土の道がある。道の両脇には何本か木が植わっていて、浅い緑の葉っぱが茂っていた。

 木の植わってる外側はお花畑になってる。春だからか、結構いろいろな花が咲いているな。あれ摘んできて食卓に飾ったりするんだろうか。

 で、道が延びてるその向こう。

 ちょっと遠くに、どーんとでっかい門がある。いや、普通に門柱が2つ並んでて間に鉄の柵みたいなんでできた扉なんだけど、横幅は学校の正門よりちょっと大きいかも。高さは多分、人より高い。横に区切りがあるのはあれ、通用門とかかな。

 で、その横にずーっと鉄柵が続いてる。多分あそこまでが、この家の敷地。


「アリカさん、あの向こうに見える門がもしかして、うちの表門とか」

「はい。門番が見張りをしております」


 門番もいるのか。

 というか、そんなに厳重に見張りが必要なのか? うち。


「見張りが必要なんだ?」

「といいますか、門の開閉には人の手が要りますので。特に馬車が到着した場合は、あの大きい方の門を開けないといけませんから」

「あ、そっちか。じゃああっちの小さい方、人間用の門?」

「はい。私的なご来訪ですとか、ちょっとした外出ですとそちらを使います」


 言われて気がついた。そうだ、あれだけでかい門にくっついてる扉も当然でかい。自動扉じゃなさそうだから、もちろん人の手で開けなきゃならない。そのための門番さんか……大変だな。

 で、いちいちでっかいの開けるのが大変だから、の通用門。いやはや、いろいろあるんだねえ。


「ですが、見張りは必要ですね」


 感心してる俺に、アリカさんが言葉を続ける。その間に何人か、メイドさんや男性の使用人さんがちょこちょこ駆け抜けていく。お昼からもお仕事、たくさんあるんだ。


「現在はそうでもないんですが、昔は屋敷の敷地内で作っている作物や保存してある食料を狙って泥棒が多かったそうです。特に、農作物が不作だった年は大変だったそうですよ」

「……あー」


 って、待て。

 敷地内に畑あるのか、つまり。お花畑じゃなくて、農作物作る畑。

 そりゃ、ユズルハさんがあんまり屋敷から離れるなって言うわけだ。総面積どれくらいだ、一体。

 ……何か、考えるだけでも頭痛くなりそうだからやめておこう。


「食べないと、生きていけないもんなあ。その辺り、うちはどうしてたんだ?」

「ある程度は保存食がありますから大丈夫です。飢饉が起きた時はそれを領民に配ったり、よその領地から仕入れたりします。もちろん逆の場合もありますよ」

「そりゃそうだ。お互い様だもんな」


 あーよかった。そうだよなあ、いくら何でも取れない食材巻き上げたりしたら、人死んじゃうし生き延びた人はうちや他の領主に反感の目を向けるだろ。そんなことになったら、領地治められないよなあ。

 大体話が落ち着いたところで、アリカさんが俺に向き直った。


「では、参りますか? セイレン様」

「うん。アリカさん、案内頼むね」

「かしこまりました。日傘をお忘れなく。それとお足元、気をつけてくださいね」

「はーい」


 うん。傘の開き方は普通だった。さすがにジャンプ傘じゃないけど、良かった良かった。

 そして、石の段をゆっくりと降りていく。雨も降ってないし、ちゃんと滑り止めしてあるから大丈夫。

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