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131.いよいよ、結婚日朝

「セイレン様あ、朝ですよー起きてくっださーい」

「……んー。あー、おはよう……」


 やたらテンションの高いオリザさんの声で、ぱちんと目を覚ます。寝直してやろうかと布団に潜り込みかけて、がばっと跳ね起きた。いや、今日は寝てる場合じゃないよちくしょう。というかよく寝たな俺。


「おはようございまーす。いつもより早いですけど、大丈夫ですか?」

「あーうん、おはよう。大丈夫」

「おはようございます、セイレン様。お湯をお持ちしました」


 ニコニコ笑うオリザさんの向こうから、ミノウさんが桶持って顔を見せた。多分、向こうの部屋ではアリカさんが最後の荷物のまとめをしてるんだと思う。


「おはよう。準備はできてる?」

「主だった荷物の運送は終わっておりますから、後は本当に身の回りのものだけですね」

「はー、このメイド服とも今日でお別れなんですねー」


 顔拭きながら尋ねてみると、かえってくる答えはちょっとはしゃいだような言葉。まあ、それもしょうがないっていうか。


 今日は、俺とタイガさんの結婚式の日。いわゆる晴れの日というやつで、だから正直言うと結構緊張している。

 それでも俺は、今日を持ってシーヤ・セイレンからシキノ・セイレンになる。

 ある意味、戻ると言ってもいいかもしれない。だって俺は、四季野青蓮でもあったんだから。



 ネグリジェからちょっと長めの明るい青のワンピースに着替えて、部屋を出る。式の間、緊張して御飯食べられないかもしれないから、ある程度は食べておく方がいいらしい。いや、母さんが自分の結婚式の時、そうだったんだって。

 家族揃っての朝御飯は、普通にスクランブルエッグとサラダだった。焼きたてのパンは、いつものように美味しくて。

 デザートにはシンプルなプリンが出てきて、ちゃんとカラメルが乗ってたからちょっと嬉しくなってゆっくり食べた。そうしてごちそうさま、をすると、父さんがこほんと1つ咳払いをした。


「あー、セイレン」

「はい」


 つい、姿勢を正す。いやだって、父さんが緊張しているの分かるしさ。父さんだけじゃなくて母さんもサリュウも、並んでいる使用人さんたちだって。


「今日まで、わしの娘でいてくれてありがとう。いや、これからもお前はわしとメイアの娘なんだがな」

「そうよ。セイレンはいついかなる時も、違う世界にいた時だって私たちの娘だったんだから」


 母さん、父さん緊張してるんだからあんまり口出すのもどうかと思う。いやまあ、この夫婦はずっとこれでやってきたんだろうけどさ。

 ふと、母さんが目を細めた。まじまじと俺を見つめて、それからほうと長く息をつく。


「ほんと、よくここまで成長してくれたわね。私たち、ほとんど育ててあげられなかったのに」

「そうだな。だが、たった1年とは言え親子として一緒に過ごせたのは良かったと思う」

「僕も、姉さまとちゃんとした姉弟になれて良かったです」


 母さん、父さん、サリュウ。

 ほんとにたった1年っていう短い間だったけど、いろいろあって、俺にとっては楽しかった。

 この世界には俺の両親がいて、弟がいて、他にいっぱいいっぱい皆がいて。

 俺、帰ってこられてよかったと思う。もちろん、向こうの世界で俺を育ててくれた院長先生のことは絶対に忘れたりしないけどさ。


「あ、ええと」


 いかんいかん、思ってるだけじゃ伝わらないよな。ちゃんと、声に出して言わないと。


「父さん、母さん、サリュウ。それから、使用人の皆さん。俺のことを、見てくれてありがとうございます」


 何言うかなんて、正直考えがまとまってるわけじゃない。今だって、割と勝手に口が動いているようなもんだ。


「俺は1年前まで自分のこと何も知らずに生きてきて、それでこの家に帰ってきていろんなことを教わりました。それは全部、皆さんのおかげです」


 だけどそれでも、お礼を言いたいことは事実だし今言わないと多分機会がもうないだろうから、頑張る。


「俺は今日でこの家から離れるけど、でもシーヤの家に生まれたセイレンだってことはほんとに間違いないことだし、機会があったらまた帰って来ることもあると思います。もちろん、タイガさんと一緒に」


 あと、えーとそのー、やっぱり子供できたらさ、父さんと母さんおじいちゃんとおばあちゃんになるわけだしさ。見せてやりたいよ、な?


「だから、ひとまずは今まで、ありがとうございました」


 と、ともかく深ーく頭を下げた。何か、目がうるんだ気がしたのは気のせいだ。多分きっと絶対。



 そのまま、部屋に戻って俺は、また着替え。いや、こっちからウェディングドレス着てタイガさんちまで行くんだよね、結婚式用の馬車ってやつで。父さんたちは別の馬車で一緒についてきて、式に出て一晩泊まって、明日こっちに戻ってくるんだそうだ。

 うん、だから朝ごはんの後涙ながらにお礼とかどうとかって微妙に妙なんだけど、でも式の時とかって会話の機会ないらしいから。だから、その前にちゃんと言っておきたかったんだ。

 御飯の間に俺の部屋にはリューカさんが来ていて、ドレスとアクセサリーの準備が整っていた。俺についてきてくれる3人のメイドさんたちにも手伝ってもらって、俺は真っ白なドレス姿になった。おお、全身吸い付くようにフィットしてて結構楽だぞ、これ。


「よくお似合いですよ、セイレンお嬢様」

「はは、ありがとうございます。結構緊張しますね」

「それはもう、致し方のないことですわ。お嬢様が奥様となられる、晴れの舞台ですもの」

「ああ、確かにそうか」


 そんな風にリューカさんに言われて、そうだったと気がつく。これまではシーヤ家のお嬢さんだったのが、今日からはシキノ家の奥さんになるんだよな、俺。

 で、大きな鏡の前で自分の姿を写して見てみる。こっちって写真ないからさ、鏡で見とかないと後でもらえるらしい記念の絵くらいでしか見ることできないからな。

 光の当たり方で花の模様が見える、青っぽい白の布地。肩のないデザインだから落っこちやしないかと心配だったんだけど、実は銀糸でストラップがついてて動いても大丈夫、な風になっている。あ、袖の代わりに二の腕くらいまで長ーい手袋。これも、腕にぴったりしててずり落ちる心配はなさそうだ。

 長いドレスの裾、何気にレースが何重かになってるのな。ふわんとした感じで、母さん好きそう。いや、俺もこれは好きだけど。

 で、コーダさんのティアラにリューカさんのベールがついてる。あんまり長くはないんだけど、その分模様が凝ってる。どう見てもチェリアの花模様だろ、これ。手編みなんだよな、すごい細かい。

 首元はコーダさんが作ってくれたごっつ目の首飾りと、その下に俺がいつも下げているお守りペンダント。もちろん、生まれた時に母さんがプレゼントしてくれたベビーリングと、18の誕生日プレゼントって言ってくれた指輪がそこには下がっている。


「あ。もし催しましたら、ちゃんとお手伝いしてもらってくださいね。布が多い分、大変ですから」

「き、気をつけます」


 うん、確かにそれは大事なんだけどなリューカさん。……でもまあ、ちょっと緊張ほぐれたかな。

 そんなことしてたら、扉をノックする音がした。アリカさんが開いた扉から姿を見せたのは、やっぱり緊張してるらしく妙に姿勢の良いユズルハさん、だった。そっか、こうやって来てくれるのも、もうなくなっちゃうのか。


「迎えの馬車が参りました」

「はい。……ユズルハさん、ほんとにありがとうございました」

「いえ。……そう言っていただけるだけで、光栄でございます」


 深々と頭を下げた後、ユズルハさんは俺に手を差し出した。玄関先までは、彼がこうやって連れてってくれるらしい。使用人さんたちはお屋敷に残って、俺を見送ってくれる領民さんたちにご馳走を振る舞うんだそうだ。ま、これもお祭りってことだな。こっちの太陽神さん、賑やかなの大好きなんだから。



 玄関先に来てた馬車は、さすがにウェディングドレスな人間を積んでいくだけあって普段乗ってる馬車よりもでかかった。普通なら6、7人くらい乗れるんじゃないか、これ。しかも白と金でめっちゃ綺麗だし。

 馬車も白けりゃ馬も白い。御者の人もやっぱり白基調の、軍服みたいなきちっとした感じの服装をしている。そんな中、白い帽子の下の赤い髪がちょっと鮮やかに見えた……ん、赤い髪?


「お迎えに上がりましたわよ、セイレン様」

「……んー?」


 どーこーかーでー聞いた声だと思ったら、その御者さんは帽子の下でばちんと音のするようなウィンクして見せてくれた。ああ、まさかと思ってたら。


「チャオ。お元気そうで何よりね。タイガちゃんの元まで無事送ってあげるから、安心なさいな」


 正装した御者さんことこの国の第1王子様は、平然と笑ってみせた。何やってるんだ、あんた。

 これじゃ、緊張感もへったくれもないだろ、まったく。

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