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124.きらきら、宝石試着

 もうそろそろチェリアの木のつぼみが柔らかくなり始めたかなあ、って季節になった。

 そのくらいになると結婚式の準備もだいぶ進んでて、今日はコーダさんがウェディングドレス用のアクセサリーを見せに来てくれた。一度付けてみて、修正するところがないかどうかチェックするんだって。


「お待たせいたしました、セイレンお嬢様」

「うわあ、綺麗……」


 母さんの部屋で見せてもらったそれは、いやもうきらきらしててすごく綺麗、としか言いようがなかった。

 女になってからもあんまり派手なアクセサリーに興味がわくわけでもなかったもんで、多分俺はサリュウ以上に目利きできないと思う。シキノの家に行ってから、パチモンとか掴まされないように気をつけないとなあ。

 ま、俺の目はさておく。コーダさんが持ってきてくれたのはティアラと、ネックレスというよりは首飾りって言ったほうがしっくり来るごついのと、あとイヤリング。結婚指輪はまた別口、っていうかタイガさんの方が注文してるらしい。まあ、俺にくれるやつだもんな。

 しかし、この首飾りって金の蔓みたいな土台に宝石がいっぱい散りばめられてるけどさ。これドレスと組み合わせたら、胸元の辺りちょっと空間できるんじゃないかな。お守りペンダント下げられるんなら、それでいいんだけど。


「お生まれになった時の指輪もおつけになるだろうと想定いたしまして、組み合わせてもおかしくないように作らせていただきました」

「え?」


 うわ、心読まれてた? っていうかコーダさん、春に会った時のこととかちゃんと覚えてくれてたんだ。だから、こうやって作ってくれた。


「あ、はい。付けたいな、とは思ってたんですよ。ありがとうございます、コーダさん」

「いえいえ。大切なお守りとあらば、晴れの舞台でおつけになるのは当然のことでございますからな」


 うわー、俺嫁に行ってもコーダさんにお願いしようかな。そんなふうに思えるくらい、ほんと嬉しい。

 お客さん相手のビジネスだとしても、やっぱりちゃんとこっちのこと考えてくれるのはいいよなあ。うん。

 考えてくれるといえば、もうひとつ。


「髪留めはいかがなさいますかな? タイガ様より贈られた一品をお持ちだと伺ったのですが」

「あ、今着けてるこれです。使えますか?」

「おお、なるほど。大丈夫でございますよ」


 というわけで、タイガさんのくれた髪飾りも当日つけちゃっていいことになった。わーい。

 で、本来の目的というか確認のために、まずティアラを頭につけてみる。鏡を見ながら、慎重に。うわ、やっぱりちょっと重いな。あと、軽く頭締め付ける感じ? これは固定するためだろうから、しょうがないんだけど。

 鏡の中には、割と緊張した顔の俺が映っていた。まあ、こんな派手なの初めてだしな。似合って……るのかな? よく分からないけど、母さんは「まあ、可愛いわよセイレン」と手放しで褒めてくれた。


「さすがはセイレンお嬢様。作らせていただいた私が言うのもなんですが、ようお似合いですよ」


 ま、コーダさんはそう言うよな。営業トークでも何でもいいけど……でも、やっぱり褒められるのは嬉しい。うん。


「はは、ありがとうございます。しかし、うまく落ち着くもんですね」

「それはもう、リューカ殿から測定資料を頂いておりますからな。あ、少々失礼をば」

「え」


 とっさに固まった俺の頭の横で、コーダさんが何やら器具を取り出してちょこちょこといじっている。あ、もしかしておかしいとこのチェックか、これ。


「失礼いたしました。細かい修正は、やはりこうして一度付けていただかないとできないものですからな」

「なるほど」


 ドレスの試着の時もそうだったけど、俺に合わせて作ってくれる以上そこはちゃんとしてもらわないと。俺も、お付き合いはしっかりするつもりだし。

 首飾りはちょっとゆるめだったけど、これは息苦しくならないようにとのことでまあOK。イヤリングは挟むところがちょっと痛かったので、少しゆるくしてもらった。工房に戻った後日調整をして、また確認するとのことだ。ほんと、手間がかかるもんなんだな。

 アクセサリーでも試着というのかな、それが終わった後コーダさんは、別に持ってきた書類かばんの中から何枚か書類を取り出してこちらに差し出してきた。


「後は、こちらからお持ちする嫁入り道具の手配ですな。貴金属につきましては、こちらでリストを用意させて頂いております」

「あら、準備のいいこと。セイレン、見せてもらいなさい」

「……あ、はい」


 やっぱあるのか、嫁入り道具。

 というか、まさかタンスとかのでっかい家具持ち込み、ってことはないよな? とりあえずリスト見るけど、これはコーダさんが持ってきたくらいだからイヤリングとかネックレスとかブレスレットとか、あとアクセサリーケースなんてのが書いてあった。

 ……置き時計も入ってら。向こうの世界だと宝石店と時計屋さんって割と近いというか一緒に並んでたりすることもあるけど、つまり同じような扱いってことなのかね。あ、入ったことはないよ。外からちらっと見たことあるだけで。


「で、嫁入り道具ってどんなのなんですか」

「大丈夫よ、セイレン。せいぜい新しいアクセサリーや羽布団とか、後は連れて行くメイドの名簿と荷物くらいですから。大概の物は向こうが揃えてくれるということで、話はついていますから」

「ああ、それはよか……ん?」


 よかった、と言いかけて何かおかしなことに気がついた。いや、おかしいって思ってるのは俺だけなのかもしれないけどさ。

 メイドさんって、嫁入り道具扱いなんかい。


「名目上は名簿と荷物が嫁入り道具扱いになりますが、考えてみればそうなりますね」

「長く仕えてくれている使用人は、主にとって必要不可欠な存在ですもの。セイレンはアリカたちととても仲が良いから、それならそのまま仕えてもらったほうがあなたも助かるでしょう?」

「確かにそうですねえ……私の場合、いろいろありますし」


 なんだよなー。さすがにサヤさんとかにまで、俺元男ですなんてぶっちゃけてられないしさ。

 そういうことをアリカさんたちはすでに知ってくれてるから、フォローとかしてもらうのには最適だし。


「いろいろ、でございますか」

「そうなの。セイレン、長く家を離れていたでしょう? だからどうしてもね、作法とか色々。家に戻ってきてから教えているのだけれど、ものによってはなかなか機会もないから」


 対外的には、母さんの言う通りである。もっとも、肝心なところを言ってないだけで何も間違っちゃいないんだけどさ。


「わからないことは分からない、って素直に聞くことにしてるんですよ。隠すよりはよほどましだと思って」

「おお、良いお心がけでございますな」


 俺の心構えを素直に話すと、コーダさんは妙に感心してくれたのか何度も頷いた。それから声を潜めて、こっそりぶちまけてくれる。


「余り大きな声では申し上げられないのですが、時折ご自身が知らぬことを棚に上げてお怒りのお声を上げられる方がいらっしゃいましてな。こちらとしては上客ですので、ほとほと困っております」

「相手にしない……わけにもいかないんでしょうね、そういう人って」

「はい。きちんと学んでいただければすぐ、ご自身の無知に気づかれるはずなのですが」


 うーわー。いるいる、そういう奴。

 でかい声で文句言えば何とかなる、とか考えてるやつなー。面倒なんだよ、そういうのの相手するの。

 商人さんって、そういう人とも上手くお付き合いしなくちゃいけないのか。大変だなあ、もう。

 ……俺も、そのうちそういう人と付き合いしなくちゃならなくなるかもしれないな。タイガさんのためだけど、我慢できるかなあ。いや、しないと駄目かな。

 ま、そんな話をちょこちょこしているうちに時間になった。うちにばっかりかまっているわけにもいかないコーダさんだけど、今日は流石に一度戻るらしい。立ち上がって荷物を抱えた後、ちょっと困ったように笑って小さく頭を下げる。


「ああ、くれぐれも先ほどの話は内密にお願い致します」

「分かっておりますわ。でも、あなたも大変ねコーダ」

「ははは、まあこれも仕事ですからの。では、失礼いたします」

「ありがとうございます。ほんと、お疲れ様でした」

「いえいえ。では」


 ぺこんと頭を下げて、タカエさんが開けた扉の向こうにひょこひょこと歩み去っていくコーダさんの背中を見ながら、なんとなく哀愁を感じてしまった俺だった。

 後、あれだ。戦わなくちゃ現実と、ってな。

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