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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
五:そして、旅立ちの春

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113.いろいろ、奥様仕事

 そういえばドレスなんだけど、採寸はまた日を改めてということになった。いや、細かくやるんで1日仕事なんだってさ。アクセサリー用の採寸も一緒にやっちゃうんで、指のサイズとかまで測るとのこと。……うわあ、そりゃ時間かかるわ。

 そんな話を聞いて、俺はうんざりとしながら自分の部屋に戻った。いや、タイガさんとこに行けるのは嬉しいし楽しみなんだけどさ、それについてくるいろいろがなあ。


「っていうかさ、向こう行ったら母さんがやってたような仕事もやらなくちゃいけないわけだろ。俺、大丈夫かなあ」

「ああ。領主夫人になるわけですから、お仕事いろいろありますもんねえ」


 ちょっぴり本音を口にしたら、オリザさんが苦笑しながら夕食前のお茶を出してくれた。今日は、ナッツの入ったクッキーがお茶菓子。この歯ごたえは向こうで食べたのといっしょで、懐かしくて美味しい。

 そこへ、アリカさんが封筒持って戻ってきた。俺の前に差し出されたそこには、見慣れた綺麗な文字。


「セイレン様。タイガ様より、文が届いております」

「あ、ありがとう」


 素直に受け取って、封を切る。中から出てきたのは、例によって俺の様子を伺う言葉が記された便箋と、それからシキノ家に伝わってる結婚式の式次第一覧だった。とりあえず便箋見て顔真っ赤になりながら、式次第に目を通す。


「基本的には顔見せだから、御披露目と似たようなもんみたいだな」


 ざっと一覧を見渡して、何かほっとした。ま、要は太陽神に夫婦としての誓いを立てて、後は近くの領主とか招待しての披露宴ってことになる。いやまあ、ケーキ入刀とか余興とかって言われても困るしなあ。

 一覧を、どうせなのでアリカさんやオリザさんに見てもらう。いや、いっしょについて来てくれるってことは結婚式でも介添えとかやってくれるんだろうしさ。


「まあ、そういうもんですよねえ。セイレン様、ダンスうまくなりましたよね」

「ちょっと待て、ウェディングドレスで踊るのか?」

「ああいえ、その時にはちゃんとお色直ししていただきますから」


 いやオリザさん、確かにお披露目パーティでも踊ったけど。というか、踊るのは決定事項なんだな。


「と言いますか、使用人として言わせていただきますがウェディングドレスでダンスなんて正直ベールが邪魔です。それに、スカートの裾で床掃除ということにもなりかねません」


 おう、アリカさんがぶっちゃけた。だよなあ、普通のドレスで踊っても足元怪しいのにさ。

 ってか、考えてみれば当たり前、だよな? いや、俺縁がなかったから知らないけどさ。


「あー、よかった。確かにそうだよね、はっきり言ってくれてありがとう」

「いえ、差し出がましい真似を致しました」

「いや。俺はものにもよるけど、ちゃんと言ってもらえるほうがうれしいけどな」

「……はい。こちらも物言いには気をつけますね」


 うん。俺、こっちの世界に来てからメイドさんたちにはほんとに助けてもらってる。俺が知らないことを注意してもらえるのは、とても嬉しいんだよね。


「みんなは知ってるけど、俺こっちの世界にはまだまだ疎いからさ。だから、そのたびに注意してもらえるとほんと助かる」

「お教えすればセイレン様、すぐ覚えてくださいますからねー。その点では、こちらもありがたいですよ」

「うん。だから、俺も頑張って勉強するけど今後共、よろしくおねがいします」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。セイレン様」

「よろしくお願いしまーす」


 アリカさんとオリザさん、今日はいないミノウさんにも本当に、お世話になってるもんな。だから、ちゃんとお礼と挨拶はしなくっちゃな。



 さて。

 ある意味最大の問題が、『母さんがやってた仕事』である。母さんの部屋にはそんなに行かないから、彼女がシーヤの家でどういうことやってるのかって実は俺、あまり知らない。

 ので、直接母さんに聞いてみることにする。とりあえずは夕食の場で許可をとって、その後に部屋を訪ねた。


「そんなわけで、俺タイガさんのところでどんなことをすればいいのかってわからないんで、教えて欲しいんですが」

「まあまあ。それもそうね、私あんまりセイレンの前でお仕事とかしないもの」


 にこにこ笑いながら母さんは、俺の質問を聞いてくれた。そして、自分がやってることを教えてくれる。


「私はね、家の中の監督をしてる、とでも言えばいいのかしら。もちろん食事を作るのは厨房だし、掃除をするのも使用人だけど。でも、季節に合わせたり家族の好みを取り入れてもらったり、掃除にしたってその時やって欲しい場所とかもあるでしょう。その指示をするのは私ね」

「へえ」

「それと、例えば領地のどこかで災害が起きた場合。もちろん旦那様はその救済や後処理を手配してくれるけど、でも奥方がその地に行って復旧のお手伝いをすれば士気は上がるわ。ま、お飾りみたいなものだけどね」

「あー。向こうでもそういった話は聞いたことあります」


 そういや、シキノ領のどっかで大水がついて復旧が大変、みたいな話があったっけ。そうだな、俺が行って皆が頑張ってくれるならお手伝い、しないとな。お飾りでも、役に立てるなら。

 で、母さんはちょっと考えてから言葉を続ける。俺が行く先はもう、決まってるから。


「まあ、シキノ領の事情についてはサヤがよく知ってるでしょうし、彼女から伺ったほうが早いわよ」

「それもそうですね。……今まで、サヤさんがシキノの家の中のこと取り仕切ってたのかな」

「先代の奥様が亡くなられてからは、そうでしょうね。ご当主が表を取り仕切り、奥方が屋敷の中を取り仕切る。これがこちらでは当然のことだもの」


 なるほどなるほど。母さん、勉強になります。

 ……役に立つのかな、俺。ちょっと、自信なくなりそうだ。


「大丈夫よ、セイレン。私もシーヤに嫁いでくるまでは、そんなことやったことがなかったもの。当時の使用人頭やメイド長から仕事を教えてもらって、それでやっと出来るようになったのよ」

「う。が、頑張ります」

「そうそう」


 うんうんと頷いて、母さんはまっすぐに俺を見た。真面目に、そして優しく。


「肝心なのはね、セイレン。やるべきことをちゃんとできるようになること、一度したミスは二度としないこと。そうすれば、大丈夫。あなたならできる、私の娘だもの」


 両肩に手をかけて、母さんは力強く言ってくれた。俺はちょっと硬直して、でもそれから、ゆっくりと頷く。


「はい。母さんの娘だもの、俺頑張ります。やってみせます、俺を受け入れてくれたタイガさんのためにも」

「そうそう、その調子よ。ああもう、さっすがセイレン」


 いや母さん、ここでハグかよ。うん、でも初めて会った時のように暖かくて、嬉しいな。俺のこと信じてくれて、それで力づけてくれてるんだもんな。

 だから俺は素直に身体の力を抜いて、そうして母さんにもたれかかることにした。

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