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111.のんびり、結婚準備

 季節が、のんびりと過ぎていった。今はもうすぐ春、あと1ヶ月半もしたら俺は19歳になる。

 まあ、年越してからいろいろあったけど俺は元気です、まる。


「セイレン様、太らないですねー。うらやましいですー」

「そりゃ、こっちの食事がいいんだよ。運動量は確実に減ってるし」


 ワンピースの背中を見てくれてるオリザさんに言われて、言葉を返した。体重計はないけれど、服がきつくなったとは思わないから太ってないんだろうなあ。うん。

 向こうで暮らしてた頃は学校にも通ってたし、施設に帰って院長先生の手伝いをすることもあった。けど、こっちに来てからはそういう力仕事とか、皆使用人さんがやってくれるんだよね。当然、運動はしなくなる。


「ただ、足は使うよなあ。おかげで太くならずに済んでるけど」

「かかとの高い靴で歩きまわりますから、どうしても筋肉使っちゃいますよねえ」


 でもひきしまったおみ足って綺麗ですよ、と言葉を続けてオリザさんは、にこっと笑ってくれた。ああうん、太ももはともかくふくらはぎがあんまり太くならない理由がよく分かったよ。何気に筋肉、使うんだよなあ。


「いい加減慣れたけど、まだまだ長時間はきついな」

「お式でも頑張ってもらいますから、覚悟はなさってくださいね」

「……頑張りまーす」


 分かってるよオリザさん。さすがにそんな晴れ舞台で足ひねったり、転んだりするわけにはいかないもんな。

 お式。世間一般的に言う、結婚式のことである。

 春の収穫祭が終わってちょっとしたら、俺はタイガさんのところに嫁に行く。そういうことに、向こうさんとの話し合いで決定した。

 そんなわけでシーヤ家は現在、俺の嫁入り準備にドタバタしてるのであった。……えらく他人ごとなんだけどさ、だって俺自身が関われることって少ないんだよ、こっちだと。

 式の時に着るドレスとかアクセサリーがらみは俺の意見取り入れてもらえるけど、例えば向こうで言うところの婚姻届だとか嫁入り道具だとかはユズルハさんに任せっきり。結婚式次第も、まあ俺がタイガさんちに行くってこともあって大体あっちが進めてる、とのこと。資料送ってもらえるそうなんで、ちょっとは俺も口出せるかなあ。



 年越しの祭りが終わってコヤタさんとミコトさんが帰った後、屋敷はちょっと忙しかった。いや、俺の式のこともあるんだけど。

 年越してすぐにカヤさんがうちを辞めて、田舎に引っ込んだ。その前に色々引き継ぎがあって、カヤさんの後釜には同じく母さん付きのタカエさんというメイドさんが務めることになったんだ。カヤさんよりちょっと若くて、責任感強いんで大変そう。でも、頑張ってほしいな。

 で、あんまりどたばたが続いたもんでタイガさんが気にしまくってしまって、それで俺とタイガさんの式早めにやろうってことになったんだよね。ま、ここまで色々問題あったしな……それでも是非来てくれって言ってくれたタイガさんに、俺は感謝してる。こんな俺でもさ、受け入れてくれるんだもんな。

 さて本日は、ウェディングドレスをデザインしてくれる人と顔合わせ。まあ何というかやっぱりと言うか、オーダーメイドなんだそうで。母さん、それはそれは楽しそうにサンプルを見せてくれた。

 サンプルと言ってもこっちは写真がない世界なので、シーヤの家に伝わってる記念に描かれた肖像画なんかを見せてもらったわけなんだけど。


「あれ、母さん。この2人って」

「ああ、コヤタ様とミコト様ね。いろいろあったお2人だけど、幸せそうでしょう?」

「そう、じゃなくて幸せですよね。あの2人」


 そりゃご先祖様だし、というわけでミコトさんたちのものがあった。押しかけ女房やったせいかだいぶシンプルなドレスを着て笑ってるミコトさんと、何とか手配したらしい白の礼服着て真面目くさった顔してるコヤタさんにちょっと笑えた。いや、現実見てるしなあ。


「こっちでも、ウェディングドレスって白なんですね」

「セイレン様のお育ちになった世界でも、そうなんですか?」


 他のご先祖様を見ても、皆白いドレスだ。ベールって言うのか、あれも似たようなもん着けてるし。

 で、俺に問い返してきたのはアリカさんだった。正直、俺よりもまじまじと見入ってたんじゃないだろうか。


「うん、基本白だな。えーと、純潔がどうとか相手の家に染まりますとか、あんまりよく知らないんだけど」


 俺は、結婚式のしきたりとかそういうのはほとんど知らない。出たこともないし。

 いやだって、結婚式なんて縁ないって思ってたもん。しかも俺が嫁でだろ、さすがになかったわ。


「あー、こちらだと太陽神様の祝福を一番受けられるのが白、ってことみたいですー。それで、人と人との結びつきとか家どうしの結びつきを太陽神様に祝福してもらうために白い衣装、だったかなあ」

「オリザさんも割と大雑把なんだね」

「だって、わたし縁ないですもーん。シキノの御領地でご縁ができるといいんですけどー」

「そうねえ。あなたたちも、向こうで良い縁があるといいわね」


 はー、と溜息ついたオリザさんに、母さんが苦笑しながら言ってくれた。

 俺についてくれてるアリカさん、オリザさん、ミノウさんはそのまま、シキノの家についてきてくれることになっている。ま、俺の事情分かってくれてるし、タイガさんとも面識があるしな。

 シキノの家にいるサヤさんには、ある程度落ち着いてから話はしようかなとは思ってる。トーカさんのことを話すことになるけれど、いつまでも隠してるよりはなあ。



 で、お昼過ぎた頃に、デザイナーさんがやってきた。まだ春先で外の景色が地味ってこともあってか、ビオラの花を描いたような赤紫の濃淡のある細身のドレスを着たその人はとっても目立った。明るい色の髪を結い上げていて、顔立ちもすごく派手だし。


「デザイナーのリューカと申します。どうぞ、お見知り置きを」

「セイレンです。よろしくお願いします」


 母さんの部屋で、挨拶を交わす。カヤさんがいない代わりにタカエさんが控えている部屋は、前よりちょっとだけぴりっとしているように思えた。

 でもまあ、部屋の主である母さんがそう変わるわけはないんで、気のせいだと思うんだけど。


「ふふ、どんな方が来られるかって思ったけど、安心したわ」

「よく言われます」


 その母さんの台詞に、リューカさんと名乗ったデザイナーのお姉さんは苦笑を浮かべた。んー、多分クオン先生よりは若いと思うんだけど、どうしてこういう人たちって年齢不詳なんだろうな。ま、それはともかく。


「何で、よく言われるんですか?」

「実は彼女、レオ殿下のご紹介でね」

「ぶっ」


 つい吹き出した。いや、懐かしい名前出された瞬間理由がすごく分かったから。

 レオさんに紹介されたデザイナーさんだから、彼が普段着てるような服のデザインしてるんじゃないかとか思われるわけか。そりゃつい、身構えるよなあ。

 いや、レオさん自体は派手とはいえ結構かっこよかったんだけど。ああいう服自分が着るってのはなあ。


「殿下のお召し物も、確かにいくつか担当させていただいたことがございます。ですが主に儀式用の衣装ですので、奥様もお嬢様もその点はご安心くださいませ」

「あー、はい。何かすみません……」


 うん、まあレオさんもそこまで空気読めない人じゃない、はずだし。でなきゃ、第1王子なんてやってられないだろうしな。

 というか、レオさんってばわざわざデザイナー紹介してくれたんだ。はて。


「実は、レオ殿下からセイレンお嬢様のお話はいくらかお伺いしたことがございます。お育ちになった環境のせいで自分を王子ではなくただのレオとして見てくれて、それが嬉しかったのだそうですよ」

「あ、いや、それは私が無知だっただけの話ですし」

「何も知らないから、殿下ではなくさん付けで呼べるのよ。それがレオ殿下は嬉しかったのでしょうし、タイガ殿もそうだったのでしょうね」


 そういうもん、なのかなあ。

 まあ、確かにレオさんは王様の第1王子で、だから生まれた時から殿下って呼ばれるのが当たり前だったんだろうけど。タイガさんもシキノの跡継ぎで、だから若様とか呼ばれてそれが当たり前で。

 俺はそういうの全然知らなくてレオさん、タイガさんって呼んだ。それが、嬉しいのか。


「ああ、シキノのご当主様のお話も伺っておりますよ。殿下曰く、遅くまで独り身で良かったわねえ、良い嫁に出会えたじゃないのうらやましい、だそうで」

「……殿下のおっしゃいそうなことですわね」


 何言ってんだ第1王子! 口に出したらやばそうだから心の中で叫ぶけど、いいかげんにしろよ全く!

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