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105.とどめだ、屋敷内戦

 ばきべきに折れて倒れた植木から、ぐわっと黒いもやが浮かび上がった。前にカヤさんから出てきたやつよりもっと濃くて、黒い。

 多分これが、悪霊の本体。俺のこと狙いに来て、家ん中引っ掻き回してくれた張本人。人かどうかはこの際、関係ない。

 で、植木ボディを使い物にならなくされた悪霊は、クオン先生めがけて伸びていった。


『そこの魔女! 身体をよこせええええええっ!』

「お断りします。私は魔女じゃなくって、家庭教師ですもの」


 クオン先生はふんと鼻で笑うと、適当に拾った飾りの星を自分の目の前に掲げた。途端、その星が中にLEDでも仕込んでるのかって感じで発光する。


『ぎゃあっ!』

「ただし、伊達にカサイの名を名乗ってはおりませんけれどね」


 今度はにんまりとした笑顔で、眼鏡の位置を軽く直す。星の光の直撃をくらって、黒いもやが先生の背中側から吹いてきた強風にあおられるようにびゅいんと後ずさった。ああ、あれじゃ悪霊除けにはなっても悪霊消しにはならないんだ。

 クオン先生に拒否された悪霊もやが次に狙ったのは、オリザさんだった。あくまでも俺じゃねえんだな、まあミコトさんが入ってるからだろうけど。


『ちびすけ! 身体をっ!』

「ちび言うなー!」


 オリザさん、光の壁作って完全拒否。まあ、当たり前だよな。

 勢い良くすっ飛んできた悪霊は、まともに光の壁に激突。ずるずると、ガラスの表面滑り落ちていく湿気か何かに見えるもやはある意味滑稽でしょうがないというか、マジ何やってるんだお前というか。


「ミコトさん、悪霊ってしつこいんですね」

『そうでなくば、何度も何度も襲ってなど来ぬわ』

「そりゃそうだ」


 いや、つい確認したくなったというか。というかミコトさん、モール拾って何やってるんだ?

 俺の身体だけどさ、一応今の主導権ミコトさんだしいいけど。


『あのままじゃと、動き回って殴るのにも面倒じゃろ? よって縛る』

「あー」


 よく見ると、カヤさんやアリカさんもモール持ってるな。まさか、こういうときのための飾りじゃないよな?


『んー、元々はこの中に悪霊が入ってきませんようにって結界なんだけどね』


 コヤタさんの説明で何か納得。しめ縄みたいなもんか、もしくは警察のあの黄色いテープ。いや、あれは違うか。


「それで、次は誰に入ろうとなさるおつもりです? カヤさん? アリカ? それともこの私ですか?」


「あいにくですが、そのどれも却下です」


 ミノウさんが両手に持ってるのは、やっぱり切れて落っこちたモール。結構長いのは、階段の手すりに引っかかってたのを取ってきたらしい。

 で、ミノウさんはそれをぐるり、と大きく回転させるように飛ばした。えーと、新体操のリボンの演技みたいな感じで。

 悪霊のもやをくるりと取り巻いたモールの両端を掴み直して、ミノウさんがぐいと引っ張る。おお、実体ないはずなのにきゅっと縛られたぞ、悪霊。


『ぎゃあ! な、何のこれしきっ!』

「身体があれば、そうでしょうね。ですが、身体のないあなたには効くでしょう?」

「何しろ、私の魔力がみなぎってますからね」


 仏頂面のミノウさんの言葉に続いたのは、満面の笑みを浮かべるクオン先生。そうか、あのモール、クオン先生が先に拾ってミノウさんに渡したな。

 ははは。先生、笑ってるけど目が笑ってない、こっちも本気で怒ってる。

 いや、それは俺も、そして俺に入ってるミコトさんもそうだけどさ。


『そら、我らの分も受け取るが良い』

『ぎゃ!』


 ミノウさんが掛けた上から、ミコトさんが投げたモールが絡まった。さらにぎゅっと締まって、表情は見えないけど悪霊も苦しそうにうごめいてる。もしかしたら、もがいてるのかもしれないけど。


「その上に私の分と」

「私の分もどうぞ」

『やめろ! やめんか、貴様らあ!』


 アリカさんと、そしてカヤさんも次々にモールを投げつける。当たり前のように悪霊を絡めとってモールは、なんてーかこうキラキラ光ってるように見える。……何だろうなありゃ、うごうごしててクリスマスツリーにしてはえらくグロいし。いや、こっちにはクリスマスないけどさ。


『行っておいで。ハニー、そしてセイレン』


 そんなことを考えてた俺、と言うよりはミコトさんの背中をぽんと押して、コヤタさんはそう言った。決着は、俺の手でつけろってことかな。

 しかし、こういうところでもコヤタさん、ハニー呼びなのな。ま、いいけど。


『参るぞ、セイレン』

「はい、ミコトさん」


 どちらからともなく、もしかしたら2人同時に頷いて、俺たちは床を蹴った。自分で走ってるのかミコトさんが走ってるのかよく分からないけど、何かすごく足が軽い。

 あっという間に悪霊の目の前まで辿り着いた俺たちは、その勢いのまま拳を握って振り上げた。


『そーれ!』

「今までの分全部、お返ししてやらあああっ!」


 全力で振り下ろした拳は、モールでぐるぐる巻きになった黒いもやの中心部を正確にぶち抜く。これはもう、ミコトさんのおかげとしか言い様がない。

 相手がもやなのに、手応えはがっちりあった。クッションとか羽布団とか、そんな感じのものを思い切り殴った感じ。おかげで、じゅうたん敷いてあるとはいえ床殴らずに済んだ。


『ば、かな……ばかな馬鹿なバカナあああああっ!』


 馬鹿はてめえだよ、こんちくしょう!


『馬鹿は貴様じゃ! 跡形も残さず消え失せよ、下郎!』


 俺の思ってることをそのまま口に出して、ミコトさんは俺の腕を通して魔力をもやに流し込む。拳が熱くなって、その熱がもやに伝わっていくのが分かる。

 熱にさらされた悪霊は、突っ込まれた俺の腕の周りからざあっと粉になって解けていく。感覚としては、そんな感じ。目で見ても、やっぱりそういうふうにしか見えない。


『あががががが……おのれ、おのれ……お、の』

『良かったねえ、魂の欠片も残さずに消してもらえるなんてさ』


 コヤタさんの冷たい声が、消えていくもやには果たして届いたのかな。

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