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ぽろり  作者: はち味
第一章
15/25

トラブルメーカー

 中瀬古のご希望通り、俺は一連の事情を説明した。中瀬古が姉に余計な情報を与えたせいで、こうなってしまったことを強調して。


「――なるほど」


 中瀬古は顔中に汗をかきながら、ひとつ、うなずいた。


「高野先生は『私のせいかもしれない』って言ってたけど、諸悪の根源は完璧に……俺だな」


「だろ? もっと言えば、高野と出会うきっかけ、俺とお前のケンカの発端、マキちゃんのアイスを落としたのも、すべてお前が原因だ」


 神がかり的なトラブルメーカーだ。神と言っても、貧乏のやつな。


「さすがは宮山中学で一番の不良。最凶。最悪。動くトラブル名産地」


「……お、おい! やめろ! やめてくれ!」


 中瀬古は両耳を手で押さえて、頭を左右に振り始める。


「ただ生きているだけで他人に迷惑をかける才能だけは認めてやるぜ、中瀬古」


「……やべえ、お前の悪口によって、心臓の鼓動が早まってる! ドックンドックン言ってる!」


 今度は、学生服の左胸の部分をつかみながら、「……ううっ」と苦しんでいる。


 ざまあみろ。リモコンなしで死期が早まっていやがる。


「……いや、でもな! お前の姉さんと喋るまでは、その事情を知らなかったんだし、俺に非はない! けど、悪いのはやっぱり俺だ!」


「そう。お前は一刻も早く心臓を停止すべき。全身全霊を以て苦しみ抜いてから生命活動を終えるべき。やっぱり理科室のすべての薬品を……」


「飲まねえぞ」


 ……ちっ。好機だと思ったのに。


「しかし、どうしたらいいんだ……」


 中瀬古は腕を組んで険しい顔になった。


「高野先生に『俺なら楽勝で九条を説得できますよ!』と言ってしまった手前、どうにかして、その問題を解決しねえとな」


「まずは今後、お前が姉さんに情報をリークすることを止めろ。姉さんとは関わるな」


「それは……わかった。けど、俺以外にも、お前の姉さんと繋がってるやつがこの学校にいるだろ? そいつら全員に口止めしねえと、お前は高野先生と会話できねえよな」


 そう。それが大問題なのだ。


 携帯電話を所有している姉が、同じく携帯電話を所有しているこの学校の関係者に頼めば、俺と高野の動向を監視してもらうことはたやすい。この学校で、姉と繋がっている人間の顔は、俺が知っているだけでも十人以上はいる。


 俺とは違って、やけに顔が広いからな、姉さんは。多分、俺より知り合いが多いはずだ。在校生でもないのに。


「まあ、実際問題、口止めなんかできっこねえよな。九条も俺も、女友達なんてほとんどいないし」


「できたとしても、リスクがでかい。口止めしてた事実が姉さんにバレたらもっとヤバいことになるからな」


「だとすると、やっぱりお前の姉さんを説得するしかないんじゃないか?」


「説得できたらもうやってるわ」


 姉に真っ向から口論を挑んで、俺が勝てるわけがない。


「だから中瀬古、姉さんを説得するならお前がやれよ」


「そいつは……無理に決まってるだろ。お前の姉さんは、俺じゃあ手に負えない」


 中瀬古は――身内以外で姉の本性を知っているごく少数派の人間だ。ほら、こいつったら昔からトラブルメイカーだからな。とんでもない目に遭ってるんだよ。


「……ひょっとしたら、だけどさ」


 中瀬古は苦い顔をして言った。


「お前が本気を出せば、説得できるんじゃないのか? 昔は、ほら――」「んなもん、できるか」


 俺は中瀬古の言葉を遮った。昔のことはどうでもいいんだ。過去の恥ずかしい思い出を掘り起こすんじゃねえよ。


「まあ、たしかに……中学生にもなって『アレ』をやられたら、さすがの俺も引くわ」


「……ごもっともだが、うるせえよ」


 アレがキモいのは、自分がいちばんよくわかってるんだ。もしタイムマシーンがあったら、あの頃の俺を、後ろから鈍器で殴りたいと思っているくらい。


「でも、このまま高野先生を避け続けるのか? 彼女を傷付けるのを、俺は黙って見過ごすことはできねえぞ」


「そんなの知ったこっちゃねえよ。大体、諸悪の根源は自分なんだって、さっき認めてたじゃねえか。高野には悪いが……この件については、俺のプライドを最優先にする。最終手段は、絶対に使わない」


 アレは、俺のプライドを著しく傷つける。と同時に、トラウマ(心的外傷)が再び開いてしまう。


「……ちっ、わかったよ」


 言いながらも、中瀬古は不承不承というような表情を浮かべた。


「ただ……このことは高野先生に伝えて――」「このことは、高野には伝えるな」


 俺は中瀬古の顔を真正面から睨んだ。


「高野が関わって、これ以上、話がこじれるのは面倒だ」


 年上の女と関わるのは、もうこりごりだ。やってられない。


「もし伝えたら……お前のアキレスがどうなるか、わかるよな?」


 キーンコーンカーンコーン。


 釘を刺したところで、タイミングよく授業開始のチャイムが鳴った。


「じゃあ」


 俺は中瀬古の返事を訊かずに話を切り上げ、教室へと向かった。

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