プロローグ
「はぁ.........これからどうしようか」
ギルドの机でシエルが項垂れている。
彼は軽い後悔と言い知れぬ怒りが渦を巻いていた。
つい数刻前の出来事が、彼の頭の中をぐるぐると駆け巡る。
♢
「シエル...お前をパーティーから追放する」
「え? 」
子供の頃からの親友ヒイトの口から出た言葉が、頭の中に何度も響く。
「悪いとは思ってる。だけど」
ヒイトはそう言って、机の上に一つ、くびれのあるガラス瓶を置いた。
携帯型回復薬。
簡単に持ち運べて、すぐ使える優れた回復手段。
こいつが理由なのか?
前々から回復薬の開発が進んでいたのは知っていた。
しかし、それが流通するのはまだまだ先になるという話だったはず。
まさか、こんなに早く出回るなんて......
「俺たちは、第六勇者パーティーの看板を背負っているんだ。それだけじゃない。俺たちがこの回復薬を使うこと自体が広告になる。たくさん冒険者の手に渡りやすくなるんだ。そこに回復術士がいたら......正直言って邪魔なんだ」
なにやら正論のようなことを言ってくる。
「ま、待ってくれよ。俺はーーー」
「お前に言いたい事があるのも分かってるよ。でも、もう決まった事なんだ」
「なんだよ......それ」
聞く耳を持たないとは、この事か。
他のメンバーにいたっては目も合わせようとしない。
「......くそっ」
俺は酒場の扉に手をかけて、足早にその場を後にした。
♢
今思えば、もっと別の事情があったのかも知れない。
だが、全て後の祭りだ。
あの反応はガチだったし、そもそもヒイトはあんな面白くない冗談を吐く奴じゃない。
「シエルさん、今日はお一人ですか?」
シエルがギルドの片隅で一人、机に突っ伏していると、冒険者ギルドの受付嬢ミミィの声が飛んできた。
「.........勇者パーティーから追放された」
「わぁお」
わざとらしく驚くミミィ。
「まぁた喧嘩でもしたんですかぁ?」
「違うんだ、ミミィさん。今回は本当にーーー」
「はいはい、で?どっちが何したの?」
今回の聞く耳持たず二人目、か。
「ほらこれ、脱退届」
ミミィは、「え?」と掠れた声を上げ、渡した紙を何度も読み返した。
「マジですか。これ?」
「ああ、だから言ってるだろ。少しほっといてくれ」
「いやいやいや!!ありえないでしょ!?あんなに皆んな仲良かったのに!?」
ミミィがシエルの胸ぐらを掴んで激しく揺らし始めた。
なんでミミィさんの方が先に泣いてるんだよ。
......
「ありがとう、ミミィさん。もういいから、離して?」
ミミィが手を離した事で自由になった腕で濡れた頬を拭う。
「私、あの人たちに文句言ってくる」
「ちょ!?本当にもういいって!」
シエルが、勢いよくギルドを出ようとするミミィを必死に止める。
「だって、こんなのまで作って......ん?何これ」
ミミィの手に握られた脱退届の紙が破けている。
そりゃもう、見事に。
いやまあ、そこはこの際関係ない。
いやホント何してくれてんのって感じだけれども。
紙の破れたところから、もう一枚別の小さな紙が顔を出していた。
そんな荒唐無稽な現象を前に、ある人物の顔が浮かんだ。
「ヒイト...」
第六勇者ヒイトは、時空の勇者と呼ばれる時空間魔法の使い手。
紙の中に紙を入れるなんて、おそらく彼にしか出来ない。
「ねぇこれ!!」
「飛行艇のチケット?行き先は......バリーナ!?」
自由都市バリーナは、ここから何千キロも離れた街だ。
よく見れば、飛行艇は商人が年に数回利用するという長距離便だった。
「やっぱり、なにかあるんですよ!!」
話し合って下さい、とミミィが背中を押す。
と同時だろうか。今まで何もなかった所からもう一枚、手紙が現れた。
内容は、俺がこの国の貴族に狙われているから、大人しく逃げろ、というものだった。
ヒイトの時空間魔法と"元"うちのパーティーの斥候セイラのスキル【未来視】の合わせ技だろう。
結局、俺は捨てられたのだ。
俺は知っている。
この俺を狙った貴族なんていないことも、俺を追放した本当の理由が、最初からあの携帯型回復薬である事も。
ヒイトは昔からの友人である。だからこそ、俺は知っている。
アイツにとってこの世界はゲームだ。
ヒイトは要らないと思えば、すぐ捨てる。
事実、セイラの完全下位互換だったもう一人の幼馴染アイカはセイラがパーティーに入った翌月には実家に帰って家業を継ぐなんて言い出し、それから会ってない。
その原因はヒイトの...いや、もういいか。
とにかく、これはヒイトの心象を悪く見せずに俺を遠くにやるようにするための工作だろう。
俺からのではなく、ギルドからの。
実際、あの回復薬が普及したんじゃ、どちらにせよ俺の存在価値なんて無に等しい。
「ミミィさん。俺、バリーナに行くよ」
「で、でも」
「良いよ、アイツもそれを望んでる」
「.........」
あんな奴でも親友だし、大事な元パーティーのリーダーだ。
少しくらいアイツの顔を立ててやろう。
その三日後。
まとめた荷物と共に飛行艇に乗り、今までお世話になったヒューリアの街に別れを告げた。
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