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第1話:ラプトル参上

「やあ、画面の前のみんな! ヴェロキラプトルって知ってるかい?」

……って、アキラはいつも言うんだけどね。

僕ちゃんには難しいことはわかんないよ。僕ちゃんは僕ちゃんだもんね!


 あの日、僕ちゃんがこの山悟荘(さんごそう)の前に来た時は、世界は最悪だったんだ。

 空気が肌を刺すし、お鼻の奥がツンとして、なんかジュルジュルってなっちゃったんだよ。

 体はガタガタ震えちゃうし、自慢のアンズ色のフワフワな羽も、『雪』っていう白い悪魔には全然勝てなかったんだ。


 そんな僕ちゃんの前に現れたのが、アキラだった。

 見上げたら、すっごく大きくて、岩みたいだったよ。頭に毛がないし、腕は丸太みたいだし。


 一瞬ね、僕ちゃんの記憶にある「あいつ」と同じ匂いがしたんだ。


 アキラは僕ちゃんを見ても吠えたりしなかった。ただ斜め上を見ながら、そっと僕ちゃんを暖かい茶の間に連れて行ってくれたんだ。


 変なやつだね。でも、こいつからは悪い匂いがしないよ。

 むしろ、僕ちゃんを絶対守ってくれる、群れのリーダーの匂いがしたんだ。


「これは特注だぞ。似合うじゃないか」

 アキラは僕ちゃんに、オレンジ系迷彩ダウンを着せてくれたんだ。

 これを着るとね、不思議とガタガタ震えるのが止まったんだよ。魔法の鎧だね!


 足元には「長靴」っていう、イカした山吹色の鎧を履かせてくれたよ。アキラが夜なべして、僕ちゃんの鋭い足の爪が出るように加工してくれたスペシャルなんだって!


 それに、僕ちゃんの手の爪はピンセットみたいに器用だからね、これで細かい作業もバッチリさ。僕ちゃんたちは最強のコンビだね!


 さあ、冒険の時間だよ。アキラがテレビを見ながら言ってた言葉を、僕ちゃんは大きな声で言ってみたんだ。


Vamoose(ヴァムース)!( 冒険に行くぞ!)」


 僕ちゃんがそう鳴くと、アキラは少し困ったような、でも嬉しそうな顔をするんだ。

 ほらね、アキラは僕ちゃんの合図がないと動けないんだもん。


 外の世界は魔法でいっぱいだよ。透明な壁の向こうで、アキラが呪文を唱えると車がボボボッ! て息をするんだ。他の車がワイパーを立てて「降参」のポーズをしてるのも、この雪国の儀式なんだって。変なの。


 そんなある日、試練が訪れちゃった。

「今日は留守番だ。動くな、壊すな、出るな」

 お留守番。つまり、アキラがいなくなるってこと。


 この広い茶の間の中に、僕ちゃんひとりぼっち……。

 玄関の鍵が閉まる音が、すごく大きく聞こえたんだ。

 アキラには内緒だけど、実はすっごく怖かったんだよ。


Namoose(ナムース)!( 独りぼっちは寂しいよ……)」

 だって、二度と帰ってこなかったらどうしよう? 僕ちゃんはまた、あの「寒い」場所に戻らなきゃいけないの? そんなの絶対にイヤだもん。


 怖いのを忘れるために、僕ちゃんはお部屋の中を探検することにしたんだ。


 茶の間の隅にあるアキラの宝物、大きな葉っぱの草。あれ、すっごく美味しそうなんだよね。シャキシャキしてそうで……。

 僕ちゃん、ちょっとだけ口を開けて、ほっぺたの中に一枚「しまって」おこうとしたんだけど、やめたよ。


 温かい風が出る光る箱(アキラの自作PC)の裏で爪研ぎもしたかったけど、我慢したんだ。

 僕ちゃんは「賢いハンター」だもん。アキラとの約束は、群れのルールと同じなんだから。


(……でも、寂しいなぁ)

 僕ちゃんは土間の冷たい床に座って、じっと待ってたんだ。


 時間がたって、外が暗くなってきた頃、カチャリって音がした。


「ただいま」


 冷たい風と一緒に、アキラが帰ってきた!

 僕ちゃんは尻尾を振って飛びつきたかったけど、我慢したよ。

 アキラに子供扱いされないように、一番ハードボイルドな姿勢で座り直したんだ。えらいでしょ?


 アキラは丸太みたいな大きな手で、僕ちゃんの頭をわしゃわしゃ撫でてくれたよ。


「……えらいな、いい子にしてたか」


 その瞬間、僕ちゃんの心の中は嬉しさでいっぱいになっちゃった。

 アキラの手からは、外の冷たさと、なんか甘辛い匂いがしたんだ。


 あれは……セコマのカツ丼だ!


 アキラは僕ちゃんを「猛獣」だと思ってるみたいだけど、僕ちゃんはただ、アキラと一緒にこの「オレンジ色の温かさ」の中にいたいだけなんだよ。


Vamoose(ヴァムース)!( カツ丼だ!)」


 僕ちゃんが目をウルウルさせて訴えると(これは作戦だよ!)、アキラは温かいカツ丼のパックを分けながら、優しく笑ったんだ。


 そして、アキラが僕ちゃんにくれたのは……ゆで卵だったよ。がっかりだね! でも、リーダーの命令は絶対だよ、仕方ないや。


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