名探偵と自称する女子高校生 その真実
平凡という言葉がよく似合うどこにでもあるその公立高校に放課後がやってくる。
そして、待っているのはクラブ活動の時間。
その学校の一年生である小野寺麻里奈も自らが設立した「探偵同好会」の部室となる教室へと向かう。
長身に似合う長い黒髪を靡かせて。
三階にある「第三相談室」という札があるその小さな部屋が部室となる。
この学校の規則上、書類を揃え申請さえすれば、新たな部の創設は認められる。
だが、部員が四人以下である場合、学校から部費が支給される正式な「部」にはならず、「同好会」として登録される。
それでも専用の部屋を手に入れられただけでもよいほうだとも言えるのだが、この学校は伝統的に部活動が活発ではないという理由も活動目的が怪しいこの同好会が部屋を持てた理由となる。
その麻里奈には同行者がいた。
「探偵同好会」のもうひとりの部員である立花博子。
彼女は麻里奈の幼馴染である。
ふたりについてもう少し説明しておけば、麻里奈はかわいいというよりも冷たささえ感じる完璧な美しさを持つ美人。
当然男子から人気もあるのだが、これまでのところ言いよってきた者すべてに対し、露骨に嫌な顔をし、その表情にふさわしい言葉で払いのけている。
まるで食べ物に集まるハエを追い払うがごとく。
そして、その様子を見た女子からもハート形の熱い視線を受けることになった。
一方の博子は麻里奈とは対照的に背が非常に低く、地味顔。
そして、眼鏡。
特別な趣味でもないかぎり彼女を魅力的とは認識しないだろう。
ただし、それは顔だけでの話であり、首から下のフォルムはそれを補って余りあるくらい魅力的なものであった。
小柄には不似合いなそれは、標準的な女子高校生の数段階上を行く麻里奈以上のものであり、三年生の自称「巨乳評論家」である某男子生徒は「あれは間違いなくGカップはあり学校一の大きさ。当然更なる成長もあり得る。卒業前にその全貌を拝んでみたい。むろん生で。感触を味わいたい」となどと宣っていたのだが、彼はしばらくのちに何者か襲われ、盛大に殴りつけられたうえで女性用下着をつけた状態で木に吊るされ恥ずかしい姿を全校生徒に晒すことになる。
「それで……」
「今日の依頼はどのようなものかな」
「これですね」
部室に入った麻里奈がそう言うと、博子は依頼が書かれた紙きれを示す。
「……軟式テニス部の顧問勝又先生から三日前に紛失したビデオカメラが見つけてくれというものです」
「ちなみにそれは学校の備品だそうです」
「へえ。ついに教師まで頼みにくるようになったのか。それで依頼料は?」
「提示されたのは三千円です」
「安い」
「でも、あとから交渉し直して搾り取るからとりあえず今はそれでいい」
「それで、無くなったときの詳細は……」
「すべて書かれています」
「ということで、始めましょうか」
そして、その翌々日。
勝又を部室へと呼びだした麻里奈が口を開く。
「発見しました」
「ただし、依頼料のほかに成功報酬一万円を払ってください」
「そうすれば、先生はなくなったカメラが戻るだけではなく、備品を私用に使ったうえに紛失したというふたつの不祥事がなかったことにできますが」
「もちろん、拒絶した場合は、学校側に報告することになります。とりあえず中身を確認しましたが、なかなか興味深いものが写されていました。むろんありがたいことに消されていません。これを校長先生や教頭先生に見せたら面白いことになりそうです。それとも、提出するのは教育委員会の方がいいでしょうか」
そう言って、そこに写されていた自身が顧問をしている女子部員たちの着替え中の写真を机に放りだす。
むろん、それはビデオから写真にしたもの。
「こういうものの扱いはもう少し慎重にすべきでしたね。そうすれば、半値で済んだものを。まあ、それは今後の教訓ということにしてもらうことにして……」
「どうしますか?払いますか?それとも……」
むろん勝又に選択肢はない。
「これで双方ウインウインというわけです」
「また何かあればご依頼ください」
多くの感情が混ざり合い、顔を真っ赤ににし、カメラを抱えて大急ぎで部屋を出ていく勝又を見送ったところで麻里奈は呟く。
「これで合わせて十一万円三千円」
そう。
実をいえば、麻里奈たちは別の場所からさらに金を徴収していた。
言うまでもない。
相手は勝又が忘れたカメラを持ち帰り、売りに出そうとしていた大学生の男。
警察の厄介になりたくなければカメラを返し、さらに口止め料として金を払えと言って。
むろん、麻里奈たちの行為は黒に近いグレーゾーンの領域にあるもの。
だが、それによって多くの名誉が守られ、犯罪も未然に防げたともいえるのだから相手にも利はある。
むろんウインウインではないだろうが。
「今回も大勝利」
「というより、大黒字でしょう」
「まあ、そうとも言える」
そう言ってふたりは笑う。
さて、話がこれだけであれば特におかしなところはない。
驚くべき推理と交渉力を示した女子高校生探偵小野寺麻里奈とその助手の立花博子。
だが、実際は違う。
そして、それこそが無双ぶりを発揮する麻里奈の名推理のカラクリだった。
実際に推理するのは博子。
いや。
実を言えば、博子も推理しているわけではない。
実際は……。
過去を遡り、そこで起こったことを見ることができる。
それはまさにチート能力。
そして、名探偵とされる麻里奈はそれを聞いて、いかにも推理しているように演じているだけだったのだ。
「怪しまれるのでたまには外した方がいいかもしれませんね」
「いや。いいよ」
「そもそもそんな超能力がこの世に存在するなんて誰も思わないでしょう」
「あってほしいとは思っても?」
「そういうこと。まあ、ヒロリンが未来も予知できたのならよかったのにと私は思うけど。そうすれば、犯罪を未然に防ぐこともできる」
「いいえ」
「それでは楽しくありません」
「知らないことを知る。それこそが楽しいのです。だから、過去は探れる。ですが、未来を知ってしまっては。そこからの歩みは知っていることをなぞるだけ。つまらないことこの上なしです。知の探究者としては遠慮申し上げたいですね」
「さすがヒロリン。隠れ学年一の秀才は言うことが違うわね」
「そんなことはないですよ。入試成績第一位で入学生総代のまりんさん」




