The trap of the evening party and wavering feelings
ホワイトとチェシャ、それぞれの腕の中で踊ったあと――
アレンは一人、舞踏会の真ん中に立ち尽くしていた。
赤い薔薇の香りが甘く鼻をくすぐり、空気が少しずつ重くなる。
女王は高い階段の上に立ち、深紅の瞳でアレンを見下ろしていた。
その瞳はまるで、心の奥底をまるごと見透かしてくるみたいだった。
「ふふ……いいわね、その顔。迷いと甘さが混ざっていて、たまらないわ」
女王は艶やかな声で囁きながら、細い指をひと振りした。
すると――
アレンの足元の床が、ふわりと光を放つ。
次の瞬間、赤い薔薇の花弁が渦を巻き、彼の体を包みこんだ。
「な、なんだっ……!」
視界がぐるぐると回転する。
気づけば、アレンは舞踏会場の中央に“閉じ込められて”いた。
周囲には透明な壁のようなものが現れ、まるで檻の中のようだった。
「っ……アレン!!」
ホワイトがすぐに駆け寄ろうとするが、壁にはじかれて弾き飛ばされる。
チェシャも爪を立ててひっかくが、びくともしない。
「ふふ……これは“心の鏡”。この中にいる間、あなたの心は暴かれるの」
女王が楽しげに笑う。
「誰を想い、誰を恐れ、誰を本当に求めているのか――全部、ね」
「やめろっ!!」
ホワイトの声が響く。
彼の瞳は怒りと焦りで震えていた。
チェシャもいつもの軽さを消し、真剣な表情でアレンを見つめる。
「女王……これは遊びじゃ済まされねぇぞ」
「遊びじゃないの。――これは“鍵”の持ち主の試練よ」
女王が指を鳴らすと、檻の内側に赤い光が広がった。
アレンの心臓がドクンと跳ね、全身が熱くなる。
──ふと、目の前に現れたのは、ホワイト。
けれどそれは現実のホワイトではなく、“心の中”に浮かぶ姿だった。
「アレン、僕は君を守りたい」
甘く、優しい声。
あの日、森で手を握ってくれた温もりが、胸の奥を締めつける。
──次に現れたのはチェシャ。
猫のようにふわりと微笑みながら、アレンに近づく。
「ねぇ、僕と一緒に、自由になろうよ」
その声は甘く、刺激的で、背筋がぞくっとするような危うさがあった。
心が、左右に大きく引き裂かれるようだった。
どちらも、偽物じゃない。
どちらも、大切で……選びたくない――でも。
「……俺……っ」
胸に手を当てる。
心臓がうるさいくらいに鳴っている。
ホワイトの優しさも、チェシャの自由さも、両方がアレンを動かしてきた。
女王が艶やかに微笑む。
「さあ、選びなさい。あなたの心を、あなた自身で暴きなさい」
ホワイトが壁の外から必死に叫ぶ。
「アレン! 僕を信じて!」
チェシャも負けずに笑いながら声をかける。
「僕の方を見ろよ、鍵くん。君は、檻なんかに閉じ込められない」
薔薇の花弁が舞い散る中、アレンは強く目を閉じた。
胸の奥の“本当の声”を、聞こうとするように――。




