On the night of the ball, my heart was shaking ꕤ︎︎
ハートの城の大広間は、まるで薔薇の海だった。
天井からは真紅の花びらが雨のように降り、壁には金色の燭台がずらりと並んでいる。
月明かりと炎の光が混ざり合い、甘くて妖しい夜の空気が漂っていた。
「……すごい……」
アレンは呆然と立ち尽くす。
現実では見たこともないほど華やかで、美しくて――でも、どこか危うい。
「歓迎するわ、鍵の少年」
女王が優雅に手を差し出す。
ドレスの裾がふわりと舞い、まるで薔薇そのもののようだった。
「舞踏会を楽しんで。けれど――この夜は、心を試す夜」
その言葉に、アレンの胸がドクンと跳ねた。
視線を少し横にやると、ホワイトとチェシャのふたりが、じっとこちらを見ていた。
ふたりとも、いつもより少しだけ真剣な表情をしている。
「……アレン」
ホワイトが小さく囁く。
「僕は、君を手放すつもりはない。……どんな相手が来ても」
アレンは思わず息を呑む。
その瞳は真っ直ぐで、優しさと強さが混ざっていた。
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「ふふ、それじゃ僕も黙ってられないな」
チェシャがにやりと笑い、アレンの腰に腕を回した。
「僕は、君を縛らない。ただ、君の“心”の一番深いところにいたいんだ」
「ちょ、ちょっと! 近いって……!」
アレンの顔が一気に真っ赤になる。
ホワイトは不機嫌そうに眉を寄せ、チェシャはますます楽しそうに笑った。
そんな3人を、女王はまるで観劇するように見ていた。
「いいわね、その揺れる心。とても美しい……」
その声と同時に、会場の空気がふっと変わる。
甘い香りとともに、薔薇の花弁がアレンの足元に集まり、円を描いた。
「――“心の舞踏”を始めましょう」
音もなく、楽団が演奏を始める。
甘く、少し切ない旋律が夜に溶け込んでいった。
アレンの胸が高鳴り、足が自然と動く。
まず、ホワイトが一歩踏み出した。
「君と踊らせて、アレン」
その手は温かくて、優しく包み込むようだった。
ホワイトと踊ると、不安も少しずつ消えていく。
心が穏やかに、でも確かに揺れていた。
そこへ――
「次は僕の番でしょ?」
チェシャがスッと割り込む。
その動きは軽やかで、まるで夜の風。
腕を引かれると、アレンの体は自然とチェシャの胸の中へ。
「ほら、君は踊るより――飛ぶ方が似合ってる」
チェシャの言葉はくすぐったく、でもどこか心を撫でるように甘い。
体の距離が近すぎて、呼吸が乱れる。
「……ずるいよ、チェシャ」
「ふふ、僕はずるい猫だからね」
ホワイトとチェシャ――ふたりの対照的な甘さが、心を強く揺さぶる。
目の前で、女王が愉しげに笑った。
「さあ、アレン。心はどちらに踊るのかしら?」
胸の鼓動が止まらない。
まるでこの夜そのものが、アレンの迷いを楽しんでいるみたいだった。




