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ゾディアックナイツ  作者: イッシー
第1章:闇天星士断罪編

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【第13話】風を穿つ星

 塔の中層で、風が唸っていた。


 ギルは斧を構えたまま、目の前の巨体を見上げる。


 天井に届くほどの躯体。その輪郭は揺らぎながらも確かに“質量”を持ち、圧だけで空気が軋んでいた。


 次の瞬間、巨腕が振り下ろされる。


 轟音と共に床が砕け、石片が弾け飛ぶ。


 ギルの姿はすでにそこにはない。砕けた破片の隙間を縫うように滑り込み、足元へ潜り込む。


 「……遅ぇ」


 低く呟き、斧を振り上げる。


 狙いは一点。巨体の奥に揺らぐ、青白い核。


 踏み込み、叩き込む。


 鈍い衝撃。だが――手応えがない。


 刃は確かに届いたはずなのに、風の層がそれを受け流し、霧のように散らしていく。


 「……効いてねぇか」


 舌打ちと同時に、空気が軋んだ。


 振り抜いた腕が横薙ぎに迫る。ギルは地面を蹴り、後方へ跳ぶ。風圧だけで床が抉れ、衝撃が背を叩いた。


 着地してすぐさま構え直す。


 だが、巨体はすでに再生を終えていた。乱れた風が集束し、何事もなかったかのように元の形へ戻っていく。


 「……面倒な相手だな」


 低く息を吐く。


 再び、拳が振り上げられた。


 そのときだった。


 乾いた破裂音が響く。


 一直線に走った光が、巨体の表層を撃ち抜いた。


 風が一瞬だけ裂ける。


 「やっぱ遅ぇ」


 ギルがぼそりと呟く。


 背後に立っていたのは、銃を構えたクウだった。


 「ごめんごめん、ちょっと遊ばれててさ」


 軽い調子で笑いながらも、その目はすでに敵を捉えている。


 「小撃連射(ガトリング)!!」


 銃口がわずかに揺れ、次の瞬間、連続する光弾が放たれた。


 風の層を削るように、核の周囲を撃ち抜いていく。


 「外側は削れるけど……奥までは届かないね」


 「十分だ」


 ギルが前へ出る。


 「動き、止める」


 短く言い切ると同時に、地面を踏み砕いた。


 巨体が反応する。腕が振り下ろされるより早く、ギルはその懐へと踏み込んだ。


 風圧が叩きつけられるが止まらない。


 斧を構え、真正面から叩きつける。


 轟音が鳴り、空気が歪む。


 巨体の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。


 「今だ」


 その声に、クウの瞳が細まる。


 「任せろ、一撃で仕留める!」


 銃身が低く唸る。魔力が収束し、光が凝縮されていく。


 空気が震えた。


 風の中に、無数の“点”が浮かび上がる。核の位置。流れの中心。すべてが線で繋がり、ひとつの軌道を描く。


 「……充填完了、、、喰らえ!強撃単射(バズーカ)!!」


 引き金を引いた。


 放たれたのは、これまでとは比べものにならない光だった。


 一直線に伸びた光が巨体を貫く。内部で弾け、暴風ごと引き裂いていく。


 青白い核が、まとめて砕け散った。


 遅れて、崩壊が始まる。


 巨体が軋み、形を保てなくなった風が暴れ狂う。やがてそれも霧散し、静寂が落ちた。


 「……終わった、か」


 ギルが息を吐く。


 その横で、クウの膝が崩れた。


 「……っ、やっぱ……きついな、これ」


 銃を支えたまま、肩で息をしている。


 魔力の消耗は明らかだった。


 ギルは何も言わず、腕を差し出す。


 「立てるか」


 「……ありがと」


 苦笑しながら、その手を借りて立ち上がる。


 「ほんと、無茶するよね……僕もだけど」


 「似たようなもんだ」


 短く返し、ギルは上を見上げた。


 まだ終わっていない。


 その視線の先には、さらに上へ続く階段がある。


 「行くぞ」


 「うん」


 二人は並び、再び歩き出した。



 その頃、最上階。


 こちらも風が唸っていた。


 空間そのものが軋み、目に見えない刃が幾重にも走る。


 その中心で、シエラは立っていた。


 迫る暴風を紙一重でかわし、床を蹴る。


 衝撃が足元から走り、身体が弾丸のように前へ飛ぶ。


 「逃げてばっかじゃ、終わらねぇな……!」


 拳を構え、一気に踏み込む。


 だが、その前に壁のような風が立ちはだかる。


 見えないはずのそれは、確かな抵抗として存在していた。


 「無駄よ」


 カーラの声が響く。


 「この空間はすべて私のもの。風はすべて、私の意思で動く」


 四方から圧が迫る。逃げ場はない。


 それでも、シエラは止まらなかった。


 「だったら――ぶっ壊すだけだ!」


 踏み込み。拳を振り抜く。


 「超怪力(パワード)!!」


 風が、歪んだ。


 目に見えない壁が軋み、音を立てて押し返される。


 カーラの瞳がわずかに揺れる。


 「……力で、押す?」


 「難しく考えるのは性に合わねぇんだよ!」


 シエラはさらに踏み込み、戦鎚で追い打ちをかけた。


 床が砕け、破片が宙を舞う。その勢いのまま、風の層をこじ開ける。


 空間が悲鳴を上げた。


 「……面白いじゃない」


 カーラが笑う。


 その笑みは、先ほどまでの余裕とは違っていた。


 興味。あるいは――愉悦。


 「なら見せてあげる。本当の風を」


 両腕を広げる。


 その瞬間、天井近くに巨大な渦が生まれた。


 空気が沈むみ、圧がのしかかる。


 立っているだけで、身体が軋む。


 「これが、“女帝”の力よ」


 重圧の中、シエラはゆっくりと息を吐いた。


 拳を握る。


 骨が軋み、力が集まる。


 (全部、押し返す!)


 ただそれだけでいい。


 余計な理屈はいらない。


 「――来いよ」


 一歩、踏み出す。


 風が吠え、力がぶつかる。


 決着の気配が、確かにそこにあった。

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