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魔法使いの家


人と妖精―――いいや、妖精と呼ばれることを彼らは嫌うから、ここはきちんとあちらさんと呼ぼう。

そんな彼らと共にある、この世界唯一無二の街、カーヴィラ。

魔法と、魔術が入り混じるその街の、その外れのまた外れ。カーヴィラの街に住まう人たちが”妖精の森”と呼ぶ、樹々が深く茂り、さらには濃密な魔力に満ちた場所と街との境に、古びた洋館があった。

二階建てのその洋館は、俺の知る世界からすればバロック様式と呼ばれるものに近いだろう。そしてその洋館の街に面した方向には、ブリティッシュガーデン………自然と調和した、イギリス式の庭園のようなものが広がっている。


「タイムもセージも、育ってきたね」


少し貰うね、と心の中で呟きつつ、俺は手に持った鋏でその二つの枝を優しく切る。

使い込まれた、分厚いけれど手入れの行き届いた鋏は枝の他の場所を傷つけることはない。この洋館の前任者の品だけど、うん。

やっぱり彼の持ち物はどれもこれもきちんと愛着を感じて、とても良いね。空を見上げれば春の日差しが燦燦と降り注ぎ、麦わら帽子越しに柔らかな光を感じる。

いい天気だ。元々この街は気候が穏やかだけど、今日は輪をかけて良い日だと思った。勿論、しとしとと降る雨もまた、樹々を育て、花を彩るには必須なもので、決して嫌いではないけれど。

それでもうららかな日差しっていうものは気持ちが良いよね、ということだ。

ふ、と笑うと俺は隣に置いてある枝を編んだ籠の中に、先程切り落とした二種類のハーブを落とす。鼻を動かすこともなく、とても良い香りが辺りに漂っていた。


「………おや?」


すん、と鼻を動かして首をかしげる。

―――俺は、人よりも嗅覚が鋭い。これはこの身体になる前からの、俺の持つ特技のようなものだ。異世界にやってきて、魔女の呪いというもので少女の身体になってしまったけれど、変わったこともあれば変わらないこともあるということで。嗅覚の鋭さは、その変わらないものの一つだったわけである。

閑話休題、それはともかくとして。


「これはこれは、変わったお客様が来たようだ」


そう言って立ち上がる。その瞬間に一陣の風が吹き、白いワンピースが風に揺れ、更にかぶっていた麦わら帽子を空へと飛ばしていく。

俺は空を舞う帽子に手を伸ばして………いいや、と首を振った。

風を運ぶあちらさんが、欲しがったのだろう。ならば、譲ってあげるのも魔法使いの定めだよね。癖のある白い髪の頭頂部あたりに撥ねている髪を手櫛で治しつつ、庭から玄関に向かえば、可愛らしい俺の弟子がまだまだ緊張の混じり込んだ声音で応対しているのが聞こえた。


「ちょ、ちょっと待っててね。今、先生を呼んでくるから!」


まだまだ人になれていない俺の弟子、素馨(そけい)

肩にかかるかどうかの黒髪に、頭の上には猫を思わせる二つの獣耳(・・)。瞳は降り注ぐ陽光を集めたかのような黄金のそれで、まだまだ幼いけれど将来はとっても綺麗な女性になる事は間違いないであろう、そんな少女だった。決して、師匠のひいき目とかではないですよ?本当に綺麗な子なんですよ。

まあ、うん。実際の見た目的には俺もあまり変わらないというか、精々がちょっとだけ年上のお姉さんくらいなのはさておいて。


「もういるよ、素馨」


俺がそう声をかければ、あわあわとしていた素馨の表情がほっとしたものに変わる。

出会った頃は俺に対してもむすっとしていた彼女だけれど―――今では親愛を向けてくれる大切な家族であり、そして信頼できる俺の弟子だ。

この娘との出会いの物語についてはまた今度、ゆっくりじっくり語るとして。今は依頼主に意識を向けましょう。


「初めまして、小さな小さなお客様?」


指先を振る。洋館の一室、その奥にある俺の自室の戸が開き、そこから年季を感じさせる魔法使い帽子がふわりと舞う。

ひとりでに動き出したそれは風の合間を泳ぐようにして俺の手元へとやってきて、俺はその帽子をくるりと回しながら頭の上に乗せた。

麦わら帽子も良いけれど、やっぱり俺にはこの帽子が一番しっくりくる。帽子のつばを手で押さえながら、俺は少しだけかがんで、この洋館を―――魔法使いの家を訪れた小さなお客様へと視線を合わせた。


「………うん。なるほど、ね」


意思を秘めたその表情の持ち主は、俺と同じ白い髪をした少女だった。白の前髪は少女の視界の大部分を覆っていて、その奥からは片方だけのアメジストの輝きが覗いている。

手足は少々骨ばっているような感覚を覚えるほど細く、その身体を覆うのは暖かそうな幾つものケープだった。ケープには手編みのものだろうか、シャムロック―――即ち、三つ葉のクローバーの紋様が織り込まれている。

俺の見た目や素馨よりもさらに小さいその少女の年齢は、見かけ通りならば七歳かそこらかな?

その少女は幻想のように儚げな色合いの唇を動かして、言う。


「ここに、どんな願いもかなえてくれる魔法使いがいるって、聞いてきたんです」

「んー。どんなっていうと語弊があるかな。俺にだって叶えられることと叶えられないことがあるよ。魔法は奇跡を手繰り寄せるけれど、決して全能ではないからね」

「それでも………私には、頼れる場所がないから。だから、どうか」


跪こうとする彼女の腕をとる。軽い腕だった。

俺は少しだけ息を吐いて、その腕を引く。


「願いを叶えるには対価が必要だ。まあなんにせよ、まずは君の話を聞かせてほしいんだ。いいかな?」


だから、まずは俺の家へと招きましょう。

そう微笑んで、彼女の小さな両手を、俺の両手で包み込む。そして、ゆっくりと招き入れた。


「素馨、準備お願い。香炉を出して、ハーブティーと簡単なお茶菓子が良いかな。確か昨日、あちらさんのために焼いておいたクッキーがあったよね、それを出してくれるかな?」

「分かりました、すぐに用意しますね。………あ。えっと、先生。香炉の中身はどうしますか?」

「んー」


猫耳を揺らす素馨を見る。少しだけ考えて、彼女の、頭上の猫耳ではなく、人間の方の耳元へと囁いた。


「セージ。ホワイトセージだ。これは、今回の君へと課題だよ。なんで香炉にホワイトセージを用いたのか、よくよく考えること。いいね?」

「―――はい」


いい返事だ、我が弟子よ。

柔らかく、微かに微笑むと俺は引き続き、小さなお客様を家の中に招き入れる。

あ、俺は元が日本人なので普通は玄関で靴は脱いでもらいます。今回は関係ないけれど………さて。


「ではお話を聞きましょう、あなたの物語を識りましょう。何はともあれ、まずは君に伝えましょう」


ぱちりと瞳を瞬かせる少女へと、安心させるように俺は微笑みかける。


「ようこそ、魔法使いの家へ。あなたの願いを叶えましょう」


さあ、依頼という名の物語の始まりだ。






リメイク前との差異について


初回となる今回は我らが主人公であるマツリちゃんについてとなります。

呪われた元男であり、魔法使いであり、デウスエクスマキナのような性質を持つ彼………彼女?ですが、色々と巻き込まれ体質だったりします。まあ、本人は苦にしていないのですが。

リメイク前との差異はその身体つきでしょう。元々は言うなればロリ巨乳だったのですが、リメイクのこちらでは全体的にスレンダーな美少女になっています。まあ決して胸がないわけではなく、少女像として完成された、お人形のようなプロポーションとなっていて、均整の取れた身体つきになっているという訳ですね。とはいえ癖の強い白髪や翡翠の瞳という点は変わっておらず、性格はリメイク前と同じです。

幻想的で美しい少女を現すにあたって、「あれロリ巨乳だとすこしイメージ崩れるな?」というリメイク時の作者の思い付きによって胸が小さくなりました、悲しいね。

今回はここまで。次回は素馨についてです。登場人物が増え次第、後書きでもキャラ紹介を進めていきますのでお付き合いくださいませ。


なお。マツリちゃんについては第二段があるかもしれません。今回は外見にしか触れられてないので!

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