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千の夜の魔法使い  作者: 黒姫双葉
マツリの始まりの物語
16/16

依頼開始



***


「ふむふむ……つまり、この地図の場所まで言って、この場所の写真を撮ってくればいいってことかな?」


丁寧に道筋に沿ってラインまで描かれたありがたい地図を指しながら、そう確認する。羊皮紙って高級品だけれど、まあ表面を削れば再利用できるらしいし、案内用のラインを引いてくれたことには素直に感謝である。

それより気になるのは写真についてだ。中世ヨーロッパ的な世界観を俺の目に映しだすこの異世界で写真とはこれ如何に。そう思っていると、差し出された写真機を見て思わず首を傾げる。

見かけとしては、小さな宝石が埋め込まれた箱である。確かに小さな穴からの光を用いた写真機というものは、日本でも文明開化最初期に使われていた筈だけど、どうもこれはそう言う訳ではなさそうだ。

大きさからして違うし。

まあ多分、魔法とか魔術………そう呼ばれるものでなんやかんやしたのだろう、多分。

ミールちゃんが俺の確認の言葉に頷く。


「そう言うことだ。その服では少しばかり歩きづらいだろう、服などはこちらから支給しよう」

「あはは、それはすっごくありがたいなぁ」


にへぇと笑って感謝する。

流石にね、異世界にやってきて今のところ俺が着ている服は、パジャマ代わりに来ているジャージである。しかも半パン(ズボン)タイプ。上はTシャツでその上から黒い上着という頼りないものだ。このまま森の中に進んでいくのは流石に勘弁である。

外に出ても違和感のない恰好であるとしても、ね。あと森の中を歩くならきちんと着込みましょう、肌を出しているといつの間にか肌が傷ついているものである。それは、よくない。


「こちらに。既に準備は終わっております」

「え、はや」


……いつの間にかすべて用意されていた服と靴。

流石妹様、準備がいい。その後カーテンで仕切られたドレスルームに案内された。すごい、流石は騎士の詰所ということなのか、ちゃんと着替える場所あるんだなぁ。

ということで手早く着替える。そして外に出る。そして唸った。


「おお……いや、これ女物じゃね?」

「いい忘れていましたが、親衛騎士団はすべて女性です。そしてここは親衛騎士団の詰め所です」

「つまり、女性ものの服しか置いていないって?」

「ふふ。そういうことですね」


なにわろてんねん。……まあ、着れれば何でもいいんだけど。

実際、スカートでも穿かされない限りは、女物でもたいして男の服と変わりはしない。

若干生地が薄いくらいか。あと胸元の隙間が若干目立つくらい。若干ね?

うん。なんにせよ、男の俺にはそこは一切関係ないことだ。


「ちなみになんだけど。なんか、このマントだけ少し材質違くない?」

「魔除けの加護を編んであります。悪霊や妖精にいたずらされることくらいは防げるでしょう。最低限でしかありませんが、ないよりはマシでしょうね」

「あれ、妖精さんとか結構エンカウント率高め?」

「森に入れば彼らの領土です」

「そっかぁ」


さもありなん。人のいない領域には人以外が住まうものだ。


「ミーア。武器は持たせたか?」

「………必要でしょうか」

「そりゃあ要るだろう。有事の際にどう対応するんだ」


ミールちゃんが自分の腰に携えられたままの剣を指先で叩く。

重い音が響くけど、うーん。俺、多分あんなもの持てないな。


「いやー………俺は剣とか持ったことないし、持ってても特に役にたたないからな。いらないよ」

「………ずいぶん平和なセカイから来たのだな、お前は」


まあ、日本は安全神話があるとまで言われていたからそれは同感。

それでも剣道とかやってればまだましかもしれないが、残念ながら俺は万年帰宅部なのだ。

荒っぽいことなどは縁遠い人生を行っていた。


「さてと、じゃあ行ってくるよ」


女性ものとはいえ、騎士の服。なかなか動きやすいものだ。

地図を描かれた目的地は思いっきり森の中。軽い登山というかハイキングになりそうだが、これだけの服を支給してもらったおかげで、そこまで苦労することにはならないであろう。

いやはや、ここまでよくしてもらえたのはうれしい誤算だ。

そして、可愛い二人の騎士のお嬢さんとお知り合いになれたことも、個人的にはグッド。


「お気を付けて」

「楽な依頼だ、ミスしたら笑ってやる」

「まっかせろ~」


そんな軽口を交わしつつ、巨大な木戸を思いっきり開け放ち、元気よく駆け出して行った。

さて。……インドア派な俺が全力疾走なんてことをしたため、出だし早々、すごく疲れた。

だが頑張ろう――そう思い、走るのを継続したのであった。




***



マツリが旅立ってから、おおよそ三十分後。

詰所の中に理知的な声をわざとらしく弾ませた、そんないわば胡散臭い女の声が響く。


「いやっほ~、可愛い娘ちゃんたち。元気してるかい?」

「……うげ……」

「うわぁ」

「おい、その反応やめろ」


詰め所を訪れたその声の主は、真紅の髪の女である。

燃え盛る炎の真中の如き烈火の髪色をした、美しい女である。その唇には紫煙を燻らせる煙草が咥えられていた。


「……学院長様、その残念な口調で毎回入ってくるのはあなたの頭の残念さが際立ってしまうのでやめてくださいと何度もおっしゃっていますが」

「というか気持ち悪い……やめろ。あとここは禁煙だ」


院長……そう呼ばれた女は、少しばかりしょぼくれた表情となり、口にくわえた煙草を乱雑にもみ消すと、椅子にどかりと座った。


「あー、で。本題なんだがね」

「はい」

「お前たちに出した依頼、あったじゃないか」

「あったな」

「あれ、やっぱ取り消していい?」

「―――はぁ……?」


悪い、とは思っているらしく、ばつの悪そうな顔を作る学院長。

しかし、双子の騎士は顔を見合わせ、どうしようかという表情が浮かび上がってきた。まあ、それは当然だろう。既に、その依頼はマツリという名の異邦人に委託してしまった後なのだから。


「あの、理由をお聞きしても……?」

「魔術カメラを利用する写真撮影なんて、確かに珍しいとは思ったが、ただ写真撮るだけだろ?」

「もともとはそうだったんだけどねぇ……」

「目的は、大気中の魔力が奇妙な渦を巻いていた、からですよね。たしか」


ミーアが頬に手袋に包まれた指先を置いて首を傾げる。


「原因は千里眼使っても霊視使っても不明、だからより確実に物事を写せるカメラで直接撮影しようって思ったんだが………。今日、急遽長老から文が来てな。―――曰く、あの場所に”千夜の魔女”の残滓ありて、だそうだ」

「「――――――ッ!!?!」」


千夜の魔女。その単語を聞いた瞬間に、双子の目が見開かれる。


「ということで、触らぬ神に祟りなし、魔女の残滓が失せるまで放っておこうとしたんだ。本当にあの魔女が居たんならできることも限られるしな。ということで、依頼用紙……返してくれない?」

「――――すいません……。あの依頼……つい先ほど、異邦人に、代わりに受けさせてしまいました…………」

「な……!?なんだと??!」


立ち上がった勢いがあまりにも強く、椅子が倒れた。

しかし、それに一切気を止めることなく、学院長はミーアに詰め寄る。


「どんな異邦人だった?!」

「ど、どうと………えっと、黒髪の………」

「―――おい、学院長。ミーアに近寄りすぎだ」

「………っと。すまないね。それで?」


椅子をもとに戻し、しかし座らずに壁に寄りかかる学院長。

首の動きで続きを促した。


「続きは私が説明しよう。まず、異世界人だ。随分平和なセカイから来たようだが」

「よりによって異世界からの異邦人か。このカーヴィラには数百年現れていないというのに………ああクソ、最悪なタイミングだな」


自身の紅の髪をくしゃりと握りつぶす学院長。何時も飄々としている彼女がこうもはっきりと苛立つのは双子からしても久方ぶりの光景だった。


「お、追いかけますか?」

「いや、私が行く。体を剥がれ、魂だけ(・・・)となったあの魔女には、お前たちもあまり役には立たないだろう。一応、マントを借りるぞ」

「………私のものを貸す。一番質が良い。それで、大丈夫なのか………?」

「あー、気にするな。確かに”千夜の魔女”は最悪の象徴だが、魂だけのあれは多くの事柄に対して干渉を封じられている。ちょっと私が過剰に反応してしまっただけさ。必ず連れもどすから、安心しろ。……というか、私の責任だしねぇ、これ……」

「………そこに関しては、ちょっと恨みますよ、学院長」

「悪かった悪かった。お前たちにしても運が無いな………さて」

「名は、マツリだ。たのんだぞ」

「分かってるさ。――ッチ、魔力の渦のせいで転移不可能?………走るしかないな」


そうして、ついさきほど茉莉が出ていったその扉をくぐり、学院長が走り去っていく。


「………マツリさん………」

「大丈夫だ、ミーア。あれで学院長は凄腕の魔術師だからな」

「姉さん……。そう、ですね。しかし、戻ってきたのなら、またお詫びをしなくてはいけませんね」

「あー……確かにな。お礼のつもりでひどい依頼を押し付けてしまった訳だし……」


少しだけ明るくなった妹のミーアの顔色に安心したミールは、しかして祈っていた。

礼をするべき相手を喪わぬように。


そして、なによりも――どうか、彼の悪名高き魔女に囚われぬように、と。









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― 新着の感想 ―
やはりマツリはマツリちゃんになる運命なんだなあ
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