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千の夜の魔法使い  作者: 黒姫双葉
マツリの始まりの物語
15/15

双子の少女騎士



一瞬のうちに正眼に構えられた処刑人の剣。それが空気を裂き、振り下ろされる。


「ま、止ま………ストォォォォップ??!」

「………んなっ?!な、なんだお前は急に出てきて!!死にたいのか?!」

「いや全然全く死にたくはないですけどとりあえずここはほら、冷静に―――」

「ええい鬱陶しい!!」

「ぎゃふんっ!!」


まあ当たり前なんですけどね。

………性別こそ違えど、鍛えた騎士をただの高校生がどうにかできる筈もなく。剣を持つ手を俺自身の腕で止めようと伸ばした、その俺の頬をまず裏拳が襲い、すぐさま腹に追撃の一撃を入れられてあえなく轟沈した。

素人なのですいません、こんなものなんです。というかあれだね。

肉体関係の特殊能力とかも持ってなかったね、うん。

そんなことを考えながら俺の身体はばたりとそれなりに大きな音を立てて地面に落ち、土と砂で汚れた石畳とキスをすることになる。


「あ。すまん、つい―――じゃなかった!!お前もこいつの仲間か?ええい………ならば、叩lっ切って!!」

「はいそこまでです、姉さん」

「あだっ?!」


倒れた俺の視界の中に灰色の髪が映る。

肩辺りまでのふんわりとしたショートヘアは、しかし不思議なことに僅かな紫色へと毛先だけが変じている。

一見すると色合いからして儚げな相貌をした、青い髪の騎士さんとよく似たその少女だが、その拳は容赦なく、青い髪の騎士さんを殴り飛ばしていた。

殴った衝撃で灰色の髪の騎士さんが腰に下げている武器が揺れる。それは奇妙な形状のナックルガードが付いた、細剣。

俗にレイピアと呼ばれるものであった。


「いつも言ってますけど、姉さんはすぐ激情する。落ち着きを持ってください」

「………はい」

「えっと、姉妹なの、かな?」


姉さんと言っている以上は間違いないのだろう。実際色合い以外は背丈も顔立ちもそっくりだ。びっくりするくらい雰囲気は違うけど。あとなんというか、不思議な感覚がある。

ちぐはぐというかあべこべというか………なんだろうね、この違和感は。

青い髪の騎士さん、多分お姉さんの方が随分と活発そうで、灰色の髪の妹さんの方は冷静沈着。そんなイメージである。


「君………あなた………君?」

「どっちでもいいです」

「じゃあ君で。君も大丈夫ですか?」

「んー。ま、手加減してくれてたみたいだし俺は大丈夫。そっちの彼はどうか分からないけど」


俺が視線を向けた先に居るのは、右の頬を赤黒く染めた商人の少年だった。

あれに比べれば俺がやられた攻撃なんて攻撃の内に入らないだろう。というか実際ただの威嚇だよね、あれ。

それにしても痛そうだなぁ。


「お、俺は悪く………」

「五月蠅い黙って。激情にかられたこと、それ自体は姉さんが悪いけどそもそもの原因であるこの街の主であるカーミラ様への悪評。それを咎めることは私たち親衛騎士の仕事でもある。あなたは間違いなく罪を犯しているというのだけど、その自覚があるの?」

「あ、この娘怖い………」

「そもそもこの街でカーミラ様を魔女呼ばわりして―――やっていけると思う?」


底冷えするほどの視線。冷静に見えるけど、この子もこの子できちんと怒っている様だった。

少しばかり怒りが覚めて、怯えた表情にシフトし始めた少年の後ろから、おっさんがぬっと湧いて出る。

筋骨隆々の………多分少年の上司というか、商人の上役なんだろう。でもなんでこの世界の商人みんなあんなカタギとは思えない人ばっかりなんだろう。


「何の騒ぎかと思えば………何をしてるんだ、この大馬鹿者め」

「げっ、頭取?!」


おっさんが出てきた瞬間に少年の表情が一気に強張る。それと同時に灰色の髪の騎士さんの視線が鋭く細められた。


「あなたは―――フランダール様。彼は、あなたの商会の?」

「おやぁ?おじさんみたいな小さな商会の名前憶えてくれてるんなんて嬉しいねぇ。ああ、そうさ………その馬鹿はうちの弟子だ」

「カーミラ様と親しくされている方の名前は一通り覚えております」

「お、流石親衛隊………嬉しいが今回はちっと困ったことになったなぁ」


頭の後ろを勢いよく掻いたおっさんは、そのまま恐る恐ると言った体で見上げている、弟子だという少年の頭をひっぱたいた。

そして今度はおっさん自身が深く頭を下げる。


「この馬鹿は魔術師やら魔法使いやら、神秘を扱う方々に恨みと言ってもいい感情を抱いててなぁ………親衛騎士のお嬢さん方。すまんが、ここは俺の顔を立てて見逃してやってはくれんか?この馬鹿にはしっかりと教育しておくと約束する」

「おー、すごい。ちゃんとした大人だ。えっと、騎士さんや。いい年したおっさんがここまで平謝りしてるわけだし、このあたりにしておいてあげようぜ?ね?」

「おう、ありがとな坊主………んで。坊主や、お前誰だ?」

「茉莉っていうんだ。よろしく」

「マツリか。おう、よろしくな」


顔を上げたおっさんと握手をする。

どうしてこうなったかよくわかんないけどとりあえずがっちりと。そしてニヤリと笑いあった。


「……フランダール様はカーミラ様と親交が深いお方。また、多数の行商人を束ねる行商人組合の重鎮。その立場を尊重し、今回は問題にしないでおきますが――二度目はありませんよ」

「おうよ―――すまんね。俺としても、いや。俺らとしてもカーミラ様には何度も助けられている。その恩を忘れたこの馬鹿には、俺個人としても思うところはあってな。きちんと………おう。きちんと、言い聞かせるさ」

「それ言うだけじゃ絶対収まらないでしょ。あとが怖いぞ~」

「………お、お前はさっきからなんなんだよ?!つーか誰だよ!!」

「商人が名前を忘れるなよ。マツリだろ?」

「そうそう、茉莉ですよ?」


少年の方にも手を差し出して握手を待つが、手をパチンと叩かれる。

少しだけしょんぼりしていると、おっさんが代わりに握手をしてくれた。もう一度がっしりと固く握手をする。そんな俺達を、少年の双子の騎士の冷めた視線が眺めていた。


「こほん!まあ口は禍の元って言葉がある訳だし、商人なんだろ?発する言葉には気を付けないとな、少年」

「少年っていうな!お前も十分若いだろうが」

「俺は十七歳だよ?」

「こっちは十九だ阿保!」

「うっそじゃん、俺の方が年下だったの?」


驚いて見せるが、蹲っていた彼が立ち上がれば確かに、俺よりもしっかりと身長が高い。

なるほど、確かにこりゃ年上だね。おっさんの方はさらに身長高いけど。


「じゃあ、周りのお方の目も痛いんでな。おじさんはそろそろ失礼させてもらうよ」

「はい。お気を付けて。あとはフランダール様を信頼します」

「………次はない」

「任せときなって。次回の訪問の際にはお詫びを込めてサービスしとくよ、お嬢さん方にもな」

「ばいばーい、おっさん。あんたとはどっか出合いそうな気がするぜー」

「俺もだ、マツリ」


ちなみに少年はおっさんの小脇に抱えられていた。


「ちょ、放せ!!歩けるって頭取!」

「あー。うるせぇ」

「のぎゃっ?!」


あ、伸びた。

何とも言えない表情で彼らを見送ると、俺の背後から「あー」とか「そのー」とかいう声が聞こえてくる。


「マツリ、だったか………その。済まなかった、な」

「う?」

「殴って、悪かった!!」

「うぉっと?!」


両手を掴まれ、平謝りされる。

というかこの騎士さん、二人とも顔立ち整いすぎじゃない?

手甲越しとはいえこんなふうに美少女に手を掴まれるなんて経験はそうないので、少しばかりドキドキした。というか顔が近い。近すぎて当たりますよこれ。


「え?あー。あはは、別にいいよ、気にしてないし。斬られてはないし………血が流れるような事態にはならなかったしね」

「そ、そうか!よくわからんが良かっ―――」

「いだっ」


あ。額が当たった。


「す、すすす済まない」

「………はあ。落ち着いてください、姉さん」


灰色の髪の騎士さん―――妹さん?

まあ彼女がお姉さんの身体をそっと離してくれる。このままだと頭突き連打で俺の頭蓋骨が陥没していたかもしれないので助かりました。


「姉さんを止めてくれてありがとうございます。このままではまた懲罰で書類をかかねばならないところでした」

「え、また?」

「………またっていうな」

「一応姉さんはぎりぎりで一線は超えないのですが、結局懲罰は受けてしまうのです。もう何度も繰り返していて」

「や、やめろ……!?私のダメな過去をばらすのはやめろ!?」

「自身で言うように、ダメな姉を止めてくださり、ありがとうございます」

「うがーーー!!」

「妹さん、揺さぶられてますが大丈夫ですか……」

「ええ。問題ありません」


いつもの事ですのでとか言いながらこっちに親指向けてるけど………。

ん。というか一線は超えないっていうなら、俺が身体を張った意味は無かったってことか。まあ、そう言うこともあるだろう。俺が俺の行動に納得しているので、別に後悔はない。


「………む?というかお前、もしや異邦人か?」

「そうですよー。日本ってとこ出身なんだよね、知ってる?」

「知るか。この世界にこれまで、いったいどれほどの数の異邦人が訪れていると思う。外に無数に存在する世界からごくまれに現れる人間の出身地など覚えてられるか」

「そりゃそうか」

「だが………異邦人ともなれば、職もないのではないか?金は、宿は?」

「ふふーふ。なんと、全くもってありません!!」

「何故誇らしげに………?まあでも、丁度良いかもしれませんね。この無一文に文をくれてやることを我らの罪滅ぼしとしましょうか」

「………妹よ。それはそれでこいつに失礼な言い方な気がするぞ」

「気のせいです」

「えと。つまり、どーいうこと?」

「………察しろ!!」

「姉さんはお詫びといいたいそうですよ。ふふ、意地っ張りなので許してあげてください」

「誰が意地っ張りだ!」


そっと妹さんと視線を合わせる。

示し合わせた訳ではないけど、ほぼ同時に。俺達の指先は、お姉さんの方を指さす。


「「………」」

「………いい加減にしろー!!!」

「わぁー」

「うわ~!!」





***



「紅茶で良いでしょうか?」

「あ、お構いなく」

「む?よく考えれば親衛騎士の詰所に犯罪者以外の男が入ってくるのは珍しいな。まあリラックスしてくれ、お前が気を張っていては意味がない」

「ではではお言葉に甘えて?」


ということで案内されてきたのは、二人が所属する親衛騎士の詰所だという場所であった。

勿論本部は別にあるそうだ。あくまでも詰所は一時的な待機場所とか勤務場所とかそういう意味だからね。とはいえ石造りの、戦いにも備えられた堅牢な建物だ。中庭も併設されており、丸太やら藁の人形やら、訓練設備もきちんとあった。


「では自己紹介から。私はミール。平民なので性はない」

「私はミーアです。一応、妹ですね」

「一応ってなんだ、おい………」

「ミールちゃんにミーアちゃんね。おっけ~、俺は―――」

「マツリだろ。さっき自分で言っていた」

「二度も紹介しなくて良いですよ。時間の無駄ですし」

「ちょっとだけミーアちゃんの言葉から毒を感じる………」


まあやや警戒されているんだろうなぁって感じ。

ちなみに二人とも年齢は十六歳で、俺よりも一つだけ年下だそうだ。


「それにしても、異邦人か」

「別のセカイから、とは少々珍しいですね。だいたいは別の地域だというのに」

「……あれ?俺みたいなのって珍しくないの?」


紅茶を啜りながら問いかける。

灰色の髪を揺らして小首をかしげるミーアちゃんが答えた。うん、仕草が可愛い。


「この世では、神隠しなど不思議なものではありませんので。でも、別のセカイから来たあなたは少々珍しい部類ですよ」

「ほえー。少々か」


魔術、魔法が日常に浸透している世界……ということを思い出す。

浸透している、というだけで、科学が存在しないなんてことはないけれど、でもそうか。

俺のセカイとは違って、不可思議なことも実際に起こり得ることなんだもんなぁ。


「完全な異邦人とすると、金を稼ぐための方法なんかも分からんわけだな」

「はい先生!全く分かりません!」

「男娼などどうでしょう?他にも目玉とかは潜りの魔術師などにはよく売れるとか」

「よりによってそれを勧めるの?!」


倫理観!というか騎士ってそう言うの取り締まる側じゃないのかなぁ。

くすくすと笑ったミーアちゃんが冗談です、と言って今度は真面目な顔を作る。


「そうですね。現実的なものだと、定職に付けないものは、ギルドなどの依頼を受けるのが一般的でしょうか」

「ギルド?」

「ええ。あなたのセカイがどんなものなのかは分かりませんが、このセカイには危険な原生生物も、魔獣も居ますので。それを退治したり、街の住民たちの小さな依頼を叶えたりすることと引き換えに、金銭を得ることができるのです」

「それの仲介斡旋してくれるのが、ギルドっていうことか」


中世の商工会の集まりとは少々違う訳だ。まあ舞台そのものが違う訳なので当然かな。

多分だけど俺が知っているギルド的なものは全部この世界では組合っていう扱いなんじゃないだろうか。フランダールのおっさんがそんな感じで言われてたし。

ミーアちゃんが説明している間、ミールちゃんちゃんが雑多に散らかった自分の机の上から一枚の紙を取り出しているのが見える。


「マツリよ。ちょうどここに、一つ依頼があるんだが………受けてみるか?」


それは真新しい羊皮紙に、難しい文字が描かれたもの。


「お~。やってみたい、かも」

「姉さん。それは私たちがあの人から請け負ったものでは」

「だが、奴の話では危険はないとのことだっただろう?実際やることも単純だ」

「………まあ、そうですね。では、最低限の装備だけ渡して―――」

「あ。そうそう、俺これ読めないから依頼の内容教えてもらってもいい?」

「………。………」


呆れた目でミーアちゃんとミールちゃん、双方から見られました。







キャラ紹介:ミールとミーア


双子の騎士のミールとミーアですが、特にミーアに関してはリメイク前と大きく姿が変わっています。

とりわけ大きく違っている点は髪色と長さですね。

元は朱色にツインテールという姿でしたが、後ほどのキャラで色々と赤い髪のキャラだったりが増えたり、名前が似ているキャラが増えたり………ということがあったので、リメイクでは大きく髪型ごと変わる事態となりました。とはいえ、性格やら体型やらはそのままとなっております。

ミールに関しては殆ど差はありません。髪の色が少しだけ濃くなったかもってくらいですね。あとは持っている剣が処刑人の剣になりました。

マツリにとって大事な二人。新しい姿でも受け入れて貰えればと思います。


それでは今回はここまで!次回の更新をお待ちください。

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そういえばツインテールだったか でもきっとショートも可愛い
姉を止める双子妹可愛い
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