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千の夜の魔法使い  作者: 黒姫双葉
マツリの始まりの物語
13/15

異世界で目覚める




”どこまでも続く黒い霧”

”囁くような”

”すすり泣くような”

”声にも似た風の音”

”導かれるように”/”腕を取られるように”

”進む”

”歩く”

”伸ばした腕の先に、感触がある”

”茨のような棘の蔓を掴んだような痛みがある”

”千の夜を超えて”

”魔女は涙を流す”

”魔法使いは優しく微笑む”



―――霧を払って、さあ。君の目覚めだ。





「あれ?」


どこだ、ここは?

目が覚めれば、俺は殆ど寝間着みたいな恰好で、どこかの街の大広間で佇んでいた。右手に握られているのは日本でも三本の指に入るほど有名な大手コンビニチェーンのビニール袋。夜食として期間限定のカップ麺を買いに行って、ついでにお菓子とか飲み物を買いあさって、家に帰ろうとしていたはず、なんだが。

なにせ今は五月の長い連休だ、惰眠を貪り、日が変わるまで本を読んだり、友達とゲームをしたりして………帰り際に、珍しい夜の中でもはっきりと見える、黒い霧がかかってたことは覚えているんだけど。


「俺は、なぜこんな場所に?」


まず、第一感想として人通りが多い街だと思った。

街の中を大きな川が流れている様子は、動画とかで見る西洋、それもイギリスなどの大きな街の特徴によく似ている気がする。しかも年代が中世から近世にかけての西洋世界という感じだ。

それだけじゃない。石煉瓦が引かれた馬車道、そこを走る荷を積んだ幾つもの馬車を曳く駄獣には確かに馬もいるものの、明らかに馬以外の生物がいたり、たまーに牛が引いていたりする。

服装も様々だ。旅人風のフード付きのマントや騎士甲冑を装備した、衛兵さんみたいな人。貴族然とした………貴族というよりはイギリス紳士?みたいな人が歩いていたり。

背は小さいけど豊かなひげを蓄えたドワーフみたいな人や、エルフの耳を持つ人、それから獣人としか呼称できない、耳と尻尾を持った方々までいる。

これは、どう考えてもファンタジー世界というやつですね?うーん、ということはきっと夢だ。

明らかに寝た覚えが無いけど、もしかしたら急に眠気が襲ってきて地面かどっかにぶっ倒れているのかもしれない。ナルコレプシーみたいな眠り病ってやつだ、うん。

ということで頬に指を当てて思いっきり摘まんでみる。ステレオタイプな行動だとは思うが、夢から醒めるにはやっぱり痛みを自覚させるのが一番だと思うのです。


「………い、ッた~~~~~?!?!?!」


やばい流石に強くつねりすぎた。男とは言え、顔へのダメージは流石に、痛い。

うん?痛い………?


「あ、あれ?もしかして、これ夢では………ない?」


はっとしてその事実に思い至り、そして先ほどの絶叫によって周りの方々から、奇異の視線にさらされていることに気が付いた。

ぺこりと頭を下げて、そそくさとその場を立ち去る。人を隠すなら人の中だ、いや目立つ服な気がするから意味ないかもだけど。街の中でも恐らくは中央部に近しい、噴水広場の噴水前に腰掛けると、両手を組んで、唸る。

色々と意味が分からず、まったく現状が呑み込めていないけど、まずはそうだな、状況を整理するとしよう。どんな状況でもまずは情報を集めて、一つ一つ組み立てていくことが現状を理解するのに最も適しているのだから。まあ、本の受け売りだけどね。


「まずは、そうだな。俺自身のことか?」


記憶が抜け落ちていたりとかしたら困る。それにフィクションの世界だと、現実の俺は現実にちゃんといて、ここにいる俺はコピーみたいなもの、みたいな感じの話もあるのだ。なんにせよ俺自身の整合性を確かめる必要があるだろう。


「じゃー、俺の名前!………俺の名前は、痲草茉莉(めぐさ まつり)……男、高校二年生。……よし、覚えてるな」


ズボンのポケットを漁ればスマホがあったので、暗いままの画面をみて見た目も確認する。

黒髪、黒めの中背中肉、そこも含めて記憶通りだ。ちなみになぜかスマホの電源は死んでいました。スマホ無双系の物語ではなさそうだ、うん。

ちなみに。万年帰宅部という別に重要じゃない情報もきちんと覚えている。


「えっと、特技は暗記………というか人より多少記憶力が良いこと。それから鼻が良く効くことか。本とかネット上の情報とかも………うん。憶えてるな」


記憶に対して問題は無し、と。


「出身地は日本で、家族構成は両親と妹、それから俺の四人暮らしだった。あ、お兄さん日本って国知ってます?」

「は?知らねえよ、どこの新興国?それとも自由都市?」

「なるほどなるほど。本で読んだだけなんで知らないなら問題ないでーす」

「そうか?」

「はい!」


隣でオレンジが大量に詰まった籠を背負っている、体格の良いお兄さんに聞いてみるも、当然答えは返ってこず。いや分かってたけどね?

日本はまあ、世界的に見てかなり知名度が高い。ニンジャやらのサムライやらハラキリやら、あとは今の時代だとサブカルとかか。そう言った濃いものがあるから有名になるのはまあ、そうだよねという感じ。

だというのに、商人という姿をしている隣のお兄さんが知らない、さらに新興国の後のワード、自由都市なんてものが登場すれば、もうこれは納得するしかないだろう。


「………本当に、異世界に来たんだなぁ、俺」


俺は、俺のままこの異世界にやってきた。間違いなく、それが事実だ。


「え、なんで?対してチートとかもなさそうだし。マジでただの一般人が異世界に迷い込んだだけだぞ、これ」


実は元居た世界の失踪事件って、こうして偶然異世界に迷い込むとかそういうパターンもあったのか?


「おーい、兄ちゃん。大丈夫か?ぶつぶついって、悩んだり大声出したり」

「んぁ。あ、これは失敬」

「というか、どこ出身だ?この辺りの商人ってわけでもなさそうだし、その服もあんま見ないしな」

「………どーこ出身なんですかねぇ、俺」

「あー?」


首をかしげるお兄さんにつられて、俺も首をかしげる。

なお、俺の黒髪は非常に癖が強く、朝起きれば常にボンバーしている状況なので………首をかしげても、髪はかしぎません。


「お兄さん」

「あんだよ」

「変なこと聞いてもいいですかね?」

「………別にいいけどよ」

「やった~♪お兄さん、見かけによらずいい人ですねぇ」

「あ”?」

「………冗談冗談、見た目もいい人デス、はい」


ガタイが良くて、ちょっと人相が裏稼業の人っぽいだけである。

まあ、オールバックにしていることとか何とも言えない風格を漂わせるその若干ぼろい服装なんかが、より人相を悪化させてる気もするんだけど。


「で、質問なんですけど。ここ……どこっすかねぇ?」

「…………はぁぁ??」


まあ、そう言う反応になるよね………。


「――ったく、本当に変なこと聞いてくるなぁ、おい……。まあいいや、答えるって言ったのは俺だしよ」

「おお!ありがとーございまーす♪」


やった!異世界で一番最初に出会った人は良い人だった!

お兄さんはため息をつくと、一つ前置きをして。


「いいか?一度しか言わねぇから、しっかり聞けよ。―――ここは、魔術と魔法の最先端、アストラル学院を擁する、大都市カーヴィラ!大陸でもたった一つしかない、妖精と人間が共存する街だ!」





***




「魔法に、魔術か」


お兄さんは忙しいらしく、質問に答えてくれた後、オレンジの入った籠を持つと早々に立ち去ってしまった。去り際に、この街はよそ者にも生きやすいほうだから安心しな、とは言っていたが……。


「さてさて、異世界出身の俺も、果たして生きやすい世の中なのかは、わからないかなぁ」


とはいえ、魔法や魔術というものが浸透している世界というのは実に興味がある。

そういえば、周囲を見てみれば、明らかに電子機器などとは関係のない、珍しい道具がちらほらと見える。いくつかの石がフラスコのような硝子の入れ物に入っており、それが発光して電球の代わりになっていたり。自動で動く羽根が、扇風機のようになっていたり。硬質の何かが、炎を発してコンロになっていたりと、本当に様々だ。

日本にあった電化製品の代わりにそういったものが発展している、そんな感じだった。

そんな世界の魔法に対する俺の感想はといえば。


「………ファンタジーらしい魔法って感じじゃないよなぁ。どちらかといえば、ちょっと………地味?」


ファンタジーの魔法といえば、こう。

魔方陣!魔獣を炎で燃やし尽くし、氷で凍てつかせ、雷で貫く!みたいなものなんだけど。

残念ながらそんな魔方陣を生み出しているような人はおらず、そもそも露店でそういった道具を使っている人たちは魔法使いらしい恰好をしている訳でもなかった。露天商に行商人という風貌である。


「ま、いっか。とりあえずは情報整理の続きだなぁ」


とはいえ記憶に問題はない。ちゃんと整合性が取れているし、思い出せていないこともないだろう。さっきも言っていた通り、記憶力には割と自信がある。

じゃあ、次は持ち物だけど。


「………からーいカップ麺がひとつ、炭酸のジュースが一つ。電源の付かないスマホ、あとはこの寝間着みたいな服」


ふっ、と息を吐くと、俺は空を見上げた。


「意味、無ぇ………」


異世界から持ち込んだ道具がキーアイテムになる、みたいな展開でもなさそうである。というかこんなものが鍵になるファンタジー世界とか逆に嫌だろ。

なんにせよ、持ち物も含めて俺自身に関する情報の整理は終わったと言っていいだろう。

足を見る。そう言えばいつも簡単な外出時に使っている使い古したサンダルは、履いているんだなぁ。

それを上げてみて、ふと気が抜けて笑う。これで歩くことは、出来るからね。


「じゃあ次は、このセカイに関しての情報収集だな。さて、と―――」


俺のモットー。それは、”情報はまず本から……次いで自分の足を動かして”…だ。

残念だが、本はない。それに類するネットもない。

なら次である。つまりは、まあ――歩き始めるとしますかね!



本格的に本編展開に沿ったリメイクが始まります。よろしくお願いいたします。

もしよろしければ評価等もお願いします。

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