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始まりの夢
五月、末。
異世界でも暦は変わらない。日本でいうところのグレゴリオ暦と全く同一の暦が使われているこの世界では、当然ながら五月の終わりとは初夏の訪れを指し示す。
………段々と熱くなってきた夜は窓を開けて、星と月の灯りに冷やされた涼しい風を毛布にしながら瞳を閉じる。胸元に居る素馨の感触を確かめながら、微睡みの中に落ちていく。
ふと、いつもよりも随分と意識が鮮明だと思った。経験上、こういう時は夢を見る。それも、懐かしい夢を、思い出すようにして、瞼の裏に映すのだ。
これは、俺が異世界を訪れた時の物語。
………俺が、魔法使いになる物語。
無彩色の夢の中より、彩る霧を超えて、ひとまずは―――俺の物語を語るとしよう。




