9: ときとりのばあい
ステータスを確認している内に、奴さんも変態を終えたようだ。
身体は非常にグロテスク。翼に不似合いな筋骨隆々の身体、そしてそれにも不似合いな犬歯がミスマッチすぎて吐き気がするほどだ。
《コメント欄》
『マジで可能なんか…?』
『黒兎: 上位狂戦士融合怪物…出現条件が上位狂戦士モンスターの一定数討伐で、一対一なんて状況は稀なこともあって撃退が非常に困難なキャラクターとして知られている。時鳥が打ち取ったらスクープだぞ…』
『ブンヤさんだ』
『ブンヤさんがいるぞ!!』
「ブンヤ?」
『あなたは余所見しないでもろてw』
『WBOで情報屋してる帝王系統だよ』
「ほーん、<詠唱破棄・創造魔導・全属性憑依>」
全く集中しないままに放たれた魔法。
視聴者は欠片も思いやしなかった。
この魔法を一般プレイヤーが付与されれば、帝王系統を優に凌駕できるポテンシャルを有することに。
七色に輝きだした時鳥は、とんでもない速度を生かして接近。海鳥戦のときのようにナイフに頼るかと思いきや、魔導暗殺帝になったことで得られた<詠唱破棄>の力と<創造魔導>を組み合わせて疑似空間魔法を行使し、刀を取り出す。
そのまま一閃。暗殺者の本適正武具ではないため何のアシストもつかない、プレイヤースキル依存の一撃の速度は、こちらも音速を超える。
そして、その一撃はキメラを一撃で屠った。
『は?』
『は?』
『は?』
『は?』
「流石にナイフより火力は出ないが、この程度なら範囲攻撃で1キルを狙える刀のほうが使い勝手が良いな」
この現象を説明するには、時鳥のリアルを語らねばなるまい。
尊の父は現代における武道の流派の一つ、「無刀流」の師範、そして現世界最高の武を持つとすら言われる霊長類最強の化け物、神楽坂直之である。
無刀流とは、鎌倉時代から続く剣道の流派の1つで、「刀がなくともどんな敵をも打ち倒す」という信念を胸に日々研鑽を重ねる流派である。数十年前までは弱小流派の1つとして数えられていたが、直之が学生の頃体術の大会で堂々たる一位を獲得。エキシビションマッチの当時体術三大流派に数えられていた「廻転流」師範との戦闘に圧勝。その名を轟かせたときから頭角を現し、今では四大流派の一つとして数えられるほどにまでなった。
然しこれは無刀流の功績だけというわけではない。彼の最大の特徴は、その優れた五感と第六感であった。
視力13.0。180kHzの聴覚、二キロ先の物の匂いを嗅ぎ分ける嗅覚、目をつぶって物凄く少量の食べ物を食べただけでその食べ物の成分を理解できる味覚、過敏すぎて空気の質すら分かる触覚。
そして第六感。彼は未来予知に近い直感を持っている。
そして、その直感は彼の子へと遺伝した。
余談だが、無検流には、師範の下に四天王と呼ばれる剣士がいるのだが...その中の一人はファル・アルカディアである。後に時鳥と海鳥とあと数人とともに、ある偉業をなすのだが、それは未来の話。
尊の母は現世界最高の知を持つとすら言われる神楽坂光。
ヴァストフVR高等学校という仮想空間に設立された世界中のありとあらゆる知を凝縮し、その専門家を仮想空間で再現し、その授業について来られない場合は退学。再入学は不可。そんなザ・クレイジー高校を全単位を取得し堂々主席で卒業。
数々の賞を受賞した彼女の最大の特徴は、その優れた頭脳にあった。理解力、観察力、記憶力、行動力、思考力、集中力、洞察力、想像力、判断力 ..
そして、その優れた頭脳は彼女の子へと遺伝した。
時鳥はヴァストフVR高等学校一年、主席入学者。
これまでの経歴は、
・幼稚園生で3ヶ国語を習得。さらに体術を会得した。
・小学校入学時にはさらに2ヶ国語を取得。さらに棒術を会得し、無剣流の秘奥を理解した。
・小学校中学年で英検一級、数検一級、漢検一級に合格。アメリカへ留学したときに拳銃の扱い方を学ぶ。さらにその時にアメリカの国家諜報員と仲良くなり、暗殺術のさわりを学ぶ。この時点で時鳥は暗殺術に魅せられ、ゲームなどでは毎回暗殺者に関係するジョブやスキルを選ぶようになった。
・小学校高学年でこの世にある検定の内半数を取得。殆どの武術も会得した。
・中学校生活はゆるーく生活。勿論テストは毎回一位。余談だが幼馴染みの橋谷由良はちゃっかり毎回二位。この二人は後の生徒会副会長と会長であり、夫婦漫才のような生徒総会を繰り広げていた。後に神楽坂夫婦と後輩に語り継がれていく伝説を残している。
おわかりいただけたであろうか。
こいつは、ザ・リアルチートを凝縮した存在なのである。