4: あくまで仕様の範囲内
《コメント欄》
『久々配信あざーっす』
『何言うとんねんこいつ、遂に頭イカれたんか』
『時鳥さんWBO始めるのね』
右端にコメント欄が表示されたのを確認すると同時に、俺はボスモンスターを視認する。
「俺が選んだのは暗殺者ルート、だから最初のボスモンスターは『統率者』ガルム・ファントム。ナイフ一本と魔石で間に合わせた多少の武器じゃ無理ゲー過ぎて暗殺者の帝王系統が生まれなかった諸悪の根源だ。」
『せやね』
『またおかしなルート突っ走るんか…』
跳躍。獲物の目の前で着地し、構える。
ニヤリと嫌らしく笑うこいつは、きっと俺のことを「わざわざ首を差し出した雑魚」くらいにしか思っていないのだろう。
好都合だ。
「ガルルルルル!!」
ひらりと奴の攻撃を避ける。視聴者たちは時鳥の反撃手段に期待する。ガルム・ファントムの攻略が難しいのはその耐久である。
奴の攻撃手段の種類自体は少ない。
・噛みつき
・殴りつけ
・咆哮
・突撃
そして、『呼び声』。
この技こそがガルムが統率者たる所以である。5回ほどの攻撃の後に使用するようになる技で、効果は配下の召喚。黒狼や、黒狐。そして黒鳥を召喚する。
五回の攻撃までに倒し切るには高い耐久力。
手数の少ない暗殺者系統には天敵の『物量押し』。
だからこそ、『反撃』が非常に重要になってくる。
しかし、時鳥は何もしなかった。
『あれ?何で攻撃しないの?』
『ダメージ出す方法見つけたんじゃないの?』
「違う」
『なら無理ゲーやろ解散』
『天下の時鳥も暗殺者系統は救えなかったか…』
『呼び声しちゃったやん、ええんか?』
『ダメに決まっとるやろ』
視聴者全員が諦めムードに入る。時鳥は何をしているんだと騒ぐコメント欄を横目に、彼は呼び声によって召喚された眷属を確認し、叫ぶ。
「<魔法詠唱 水雷混合 旋風>」
そう呟くと、毒瓶を投擲する。毒が混じったその風は...
ガルム以外の全てを殲滅した。
『ファ⁉︎』
『混合魔法⁉︎』
『なんか地形おかしくね?魔術師ルートくらいだろこんな地形変化起こせるの』
『何が起こった?』
『チートか? え?』
ガルムも困惑を隠せない。自分自身へのダメージはないが、一瞬で配下が殲滅されたのを見て警戒度を一段階上げる。直様さらに配下を召喚し、攻撃しようとするが...
「ほっ、ほっ、やっ!<魔法詠唱 水雷混合 旋風>!」
その全てをいなし、もう一度配下だけを殲滅する。もう死体が山のようになってしまっている。
『あーそういうこと?』
『教えてクレメンス』
『暗殺者がガルムを倒せないのは手数不足で火力不足だから。前者は魔法を駆使すれば解決可能で、後者はレベルが上がれば解決可能。』
『でも魔法でも安定した火力は出せないから問題だったんじゃなかった?』
『そこが時鳥独自の技術で解決されてる。混合魔法の可能性は前に現魔力ランキング1位のおっさんが言及してたけど、時鳥はそれを完全に再現してる』
『キモ過ぎワロタ』
おお、こいつ良くわかってるな。
時鳥は今後難易度が上がっていくに連れ魔石の回収は難しくなってくると予想し、毒のストックのために、そしてここで強化した性能の良い武器を全種類回収するために、魔石を量産していこうと考えていた。
そうすれば火力不足も解決され、ガルムも撃破できるようになると。
そうして彼はその後の20分間魔石の量産をし続け、新しく出てきたモンスターを秒殺し、多少魔石を消費して毒を確保しながら魔石の量産を終えたのだった。
運営側が頭を抱えたのは言うまでもない。