3: 伝説のはじまり
「キュウウウウウウウウウウウウウウウ!」
黒狐。嗅覚が鋭く、個体間の連携力が非常に高いモンスター。暗殺者ルートにしか出現せず、多くの初心者を亡き者にして暗殺者を『不人気ジョブ』にした元凶である。
「暗殺者ルートは開拓が進んでいないらしいからな。今から始めても多少珍しいもんになれるだろ。」
そんな事を考えながら、先程と同じように今回は毒の量を少し多くして全員を撃破する。
そろそろか…?
「あーあー、聞こえてんのか?こちら時鳥。『配信』はそろそろ可能か?ギンガ。」
「問題ありません。第一フェーズボスキャラクター出現と同時に配信を開始します。」
来た。俺みたいな高校生がVRMMOなんて高価なもんを高スペックの機械を使って遊べるのは、偏に俺が配信者だからとしか言えない。
といっても編集なんかしない。普段は他のオンラインゲームのクリップを垂れ流しにする程度で、それもこれも俺は『チートを疑われる』ことが多すぎるための対策だ。
「一応、見栄え良くボス戦に移行できるようにしておくか」
閑話休題。ここで剥ぎ取りで得た魔石で魔法を確保する。俺が実況動画を見て考えたことを試すためである。
これ以降は手探りだから慎重に行かなければいけない。そのためにも遠距離攻撃の手段は持っておいたほうが良い。一石二鳥である。
ナイフを研ぎ、息を潜める。
「ガァガァ!ガアアアアアアアアアアアアア!」
黒鳥...これはもう少し先で出てくると思ったんだがな...まあ丁度いい、やってみよう。
「<魔法詠唱 水雷混合 中風顕現>」
魔法を詠唱しながら、毒を投擲する。笑えるほどに鳥が落ちていく。
「できるじゃん。それにしても、混合魔法なんて便利な技、なんで皆使わないんだろうな?」
低燃費でアイテムと合わせれば高火力。範囲殲滅にはもってこいである。時鳥の頭に浮かんだ疑問符は、皮肉など一切ない心からのものであった。
然し時鳥はこんな事を言っているが、実際の混合魔法は異なる。
まずはじめに、混合魔法というのは異なる属性を混ぜ合わせるものである。どうしたって多少の反発などで、初級魔法に使う魔力が中級魔法の量に匹敵することもざらだ。この魔力の消費量は日々の研鑽で減らしていくことができるが、VRMMOのためにそれほどの研鑽を積む者は稀である。
即ち、『死に小技』である。
最も、時鳥の場合は少し特殊だ。
繊細な作業などは得意な方で、例えば針の穴にそのギリギリの太さの糸を片手で連続して通す、というような神業も簡単にしてのけてしまうほどのリアルチートな集中力が彼には存在する。
それもあって、彼は無意識にプレイを始める前に魔法についての動画を見ていたときに最適な混合率を編み出していた。一度もプレイをすることなく。
後は簡単。その混合率で生成することによって初級魔法に使用する魔力以下で中級魔法クラスの威力の魔法を簡単に使用してしまったのだ。後で運営が見てなんだこいつ...なんで小数点以下の所まで無意識にさも当然って顔で当ててきてんだよ...と困惑したのは言うまでもない。
10個の魔石は6個をナイフの強化に、2個を毒に、残りを使用を保留とした。
さて、三種類の魔物を倒した。この時点で15分が経過した。
ボスの登場である。
<統率者>ガルム・ファントム。推奨攻略レベルは10。半数のプレイヤーはこの時点で死亡している。正真正銘の強者の前で、時鳥はニヤリと不敵に笑ってみせた。
「ようお前ら、これから職業試験の新たなスタンダードを教えてやるよ」
伝説の配信が、今始まる。