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序章 幕間 小動物の憂鬱

森野兎の様子が……?

 森野兎は、高校を卒業後に異能対策課のテストを受けて、正式な公務員扱いで就職している。

 御影県では公然の秘密として、異能対策課に順応できる能力を有しているかを各学校でテストしている。高校卒業後即異能対策課に就職出来るのは、異能を扱えるかそれに対抗出来る素養を持っていると判断された、限られた人間のみである。

 つまりは、森野兎は異能対策課では自分こと紬雷花と鏡有栖のように、エリートの扱いをされている。本人には一切自覚がない。逆にそれゆえ可愛がられているが、本人は特に気づいていない。

(まるで、小動物みたいなんだよなぁ……見てる分には)

 紬雷花も、密かに森野を可愛がっている人物の一人である。とはいえ、鏡有栖ほどではない。ないのだが……

(これで、森野の鏡に対する相談は、何回目だ……?)

 考えるのも嫌になってきた。最初こそ、カワイイ森野の頼みだから相談に乗るのはむしろ乗り気だったが、彼女の悩みの内容が内容過ぎて、流石にちょっと困っている。

 とはいえ、後輩のメンタルケアにもなるのだし、同じ対策課の班になっている以上は無視も出来ない。というわけで、紬は自分の家に森野を招いていた。鏡が知れば憤死しそうな話だが、会話の内容は鏡が知れば、そく森野とロマンティクス(暗喩)が止まらなくなりかねない。


「聞いてくださいよ、紬先輩! 有栖さんが、有栖さんが手を出してくれないんです……!」

「……そうか……」


 どう反応すればいいのか分からない。鏡は相談される立場を羨むやもしれないが、相談されている内容がこれでは、対処に困るし羨まれても困る──しかも、進展も特にない。

「手を出してくれないって、具体的にはどんな風にだ?」

 とはいえ、一応これを聞いておく。基本的には同情して会話を聞いて、なだめすかすのが正しいのだろうが、正直森野と鏡の関係の進展は、多少は気になる──最近は、もうお前らくっついちまえ(比喩)と思っているが


「……え……? えっと……キ、キス……とか?」


 正直、赤面しながら上目づかいに語る彼女は可愛い。可愛いが、内容が一向に進展していないことに対し、多少なりとも感じるものはある。大体、なんでそれくらいの行為で、そこまで顔を赤らめるのか。乙女か……いや、鏡と違い森野は乙女だな。

「……あいつは、色恋とは無縁な異世界出身なんだ。貧しさのあまり、人と人が争って食料を奪いあうような、そんな世界でな……」

「……はい……」

 森野は、一見神妙に聞いている雰囲気をかもし出している。だが、これもいつものことだ。もう慣れた。

「だから、あいつから手を出すことを期待しても──」

「で、でも! 私の体をさわさわしたり、頭を撫でたり、耳元でささやいたりしてくれるんですよ!」

 紬の言葉は、森野の強い口調の言葉で遮られた。ただ、最初はたしかになぁ……と納得していたのだが、最近は、鏡は森野のことを猫ッ可愛がりしているだけだと、薄々感づいてしまった。色欲とはあまり関係がないというか、だからこそ大胆なスキンシップに走るというか。


──行為は過激だが、むしろ色欲がないからこそ、恥ずかしげが全くないんだろう──


 そこから先を全く意識していないから、恥ずかしがる理由がない。だから、二人の関係が進展するには──

「鏡は、それ以上の行為をする気はない……あいつはそんなことを考える余裕がなく、ただ生きるために争って生き抜いてきた奴だ」

 正直同情はする。一見すると黒髪だが、光を浴びると藍色であることが分かる程度には青い髪の色。その()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()……と思っているような奴だ。流石にそれだけで、異世界人になれた御影県の住民が、容姿を気にするものか。

 瞳も深い藍色の目。長髪で長身の凛々しい見た目。胸の大きさはそれなりだが、形が整っている。見た目だけならまさしく淑女のごとし、だ。御影県の公務員で、誰が一番容姿に優れているかと聞かれれば、大半は迷うこともなく鏡有栖と答えるだろう。

(それほどの容姿を、まるで意に介していない……いや、本当に気にする余裕がなかったんだろうな……)


「分かってます! 分かってますけど! でも……勇気が出なくて……」


 急速に、森野の語気が弱まった。まあ、そこで全くためらわず自身が好意を示せるようなら、今のような関係で留まっている理由もないだろうが。

(ふぅむ……そろそろ、鏡の方は戦いが始まっている頃合いか……?)

 森野がこうなるのは、大抵鏡が戦いに赴くときだ。戦いの中で、鏡の身になにが起こってもおかしくはない。その不安さが、今の関係を憂う原因にも繋がっているのだろう。

(しかし、森野自身が、()()()()()()()()()()()()()()、といっていたのだがな)

 アレという物言い自体が、森野の異常さを感じさせる。自分は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それをアレと呼ぶ以上、心のどこかで相手の存在を認識している。森野自体が自分の異能に自信がないので、そのことに確証を持てていないが。

 今、鏡はおそらく異能対策課の別の班に監視されている。異能を扱う人間を上層部が信用していない、というのもないわけではないのだろうが、万が一があれば後詰を出す必要もある。ある程度の監視は必要だ。


──まあ、あの女は心配ないだろう──


 なんだかんだ、紬は鏡の圧倒的な戦闘センスと火力を信頼している。むしろ今は、こうなった森野をどうなだめすかすべきか……だろう。

・紬雷花

その異能は実質対人特化に近しい。

異能が攻撃力として機能しにくいため、鏡が来てからは多くが鏡任せになった

しかし、異能を扱う人間全てが友好的なわけもなく──

彼女の役割はそのときなのだ

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