教習
私たちは講師から教官へと在り方を変えた探索者とともに空震ダンジョン1層に潜入した。
TVニュースやバラエティ、配信で観たままだと言う人。
ゲームの世界みたいだと言う人。
空間に出来た亀裂に入ったのに洞窟とは? とダンジョンの在り方に疑問を持つ人と潜入した人の反応は様々だった。
私は無言で足下を確かめると濡れている。
――滑る。
滑り止め素材の特殊深溝構造のグリップ――地面を確りとらえるトレッキングシューズでも滑る。
スポーツウェアにスポーツシューズの彼等は木刀や盾の装備感を確かめていて足下に注意を払っていない。
それぞれを観察している教官は口出しをせず、行きましょう、と私たちに声をかける。
「動物型の魔物が出現しますが愛護精神は捨てて斃して下さい。斃さなければ斃れて屍を晒してダンジョンに塵と消えるのは皆様です。ゲームの様に誰かが遺体を持ち帰ってくれる事はありません。生存者の手が塞がり、脚が鈍りますから」
出発時にダンジョンの冷徹な掟を教官が伝えて来た。
因みに探索者は許可があれば地上での熊駆除も行っていたりする。
ざわつく者たちに改めて教官が告げる。引き返すなら今が最後のチャンスだと。
誰もが顔を見合わせる。そして最年少の私を見る。
私は知らぬ存ぜぬ無視を決め込む。
撤退を私に委ねないで欲しい。
「征くも戻るも自己判断と自己責任でお願いします。責任を私に押し付けないで」
そうバッサリと切り捨て、私は教官の横に立つ。
誰もが鼻白み、顔を背ける。
結局は誰も後戻りはしなかった。ダンジョンに潜らないとならない理由があるからだ。普通では稼げないお金を稼がなければならない理由が。
教官がでは行きましょうと号令をかける。
教官から魔力の練り方、武器防具への流し方(強化)を学び、野犬の斃し方を学ぶが、彼等は足を滑らせ、野犬に襲いかかられ、教官が斬り伏せる。
私は無難に木刀で牽制しつつ殴り斃す。
それぞれが何匹かの野犬を斃した所でダンジョン教習が終わった。
「ん? なんだ? なんか体が熱い……」
「な、なにこれ!? 急に身体がっ?! 痛いっ!!」
「熱い痛いぃっ!!」
「皆さん落ち着いてください。それは、皆さんがレベルが上がり、体がそのレベルに合わせて強化され、変化している証拠です。成長痛の様なものです。数十秒間は体全身が熱く感じますが、我慢してください!!」
「……お、落ち着いてきたぜ」
「私も……ようやく治まってくれた、かな?」
「俺もだ……熱かったぁ」
異口同音で皆が熱さに悶絶し、治まった事を教官に告げる。
「貴女は大丈夫ですか?」
「はい。これくらい問題ありません」
異世界で天元に至っていたせいか、森でバイクの素材集めで得ていた経験値のせいか、昨日のブラックブラッドオーガを斃した経験値かは判らないけれど、野犬を数匹斃した程度で得た経験値ではレベルが上がらなかったのだろう。
「では、皆さん此方のカードを受付へと渡し、本登録を行なって下さい」
私たちはカードを受け取り、ダンジョンから脱出した。
皆バラバラに受付へと向う。
私は彼らが本登録を終えて武器防具店へ向うのを待つ。
本当に色んな探索者が居る。
リストラされたサラリーマンと家計を救けなければならない夫婦。直ぐに合わないと会社を辞めた社会人。家を追い出されそうな崖っぷち引き籠り青年。遊ぶ金が欲しい女子高生。
聞こえた限りの参加メンバーの事情だ。




