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アイスクリン

 貴賓室に通された私たちはメイドさん――シフォンさんが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、ともに出されたビスケットを嗜みつつ、公爵と公女殿下を待つ。


 暫くして、公爵夫妻と公女殿下がお見えになる。


 公爵はユーリ、夫人はアイリスと名乗り、私たちもアルシェさんから順に名乗る。


 公爵夫妻からは娘、エクレールの危ない所を救けて頂き感謝する、と言葉を頂いた。


 そして、話はお城の地下に在った遺跡――ダンジョンの話になった。  


 きっかけはエクレール公女殿下が真実活動――勇者センヴァーリアの軌跡を解明する運動――の探索中に城内に地下に続く入り口を見つけた。

 流石にエクレール公女殿下も護衛騎士たちの静止を振り切って突入するわけにも行かず、公爵と夫人に報告。


 公爵は直ぐに調査隊を編成した。地下はダンジョン化していて、ゴースト系の魔が出現し、調査隊は一時引き上げて装備を変更して再度ダンジョンアタックしたが、ゴースト系の魔に一定の効果はあるも完全に消滅させる事は出来なかった。


 それでも調査隊はエクレール公女殿下がアルシェさんに見せた著書を発見した。


 ゴーストは魔精霊。

 

「これは、日記だ。戦時下にあっても学生は雰囲気が暗くならない様にしようとしていたらしいな。学祭なる、学生による祭りを開こうとしていたようだ」


「流石、アルシェ殿だ。異世界の文字が読めるとは」


 公爵夫妻が感心する。


「センヴァーリア様は、それならばとアイスクリンなる氷菓子を提案している」


 私は目を細める。


「氷菓……アイスクリン……聞いたことがありませんな……」


「わたくしもありませんわ」


「何でも当時の世界の王族ですら食せない氷菓子だと書いてある」


「なんとっ!? 王族ですら食せない氷菓子を知っていらっしゃるとは……勇者センヴァーリア様は異世界の姫……」


 いや、まぁ……時代が時代なら武家の姫ではあっただろうけど……。

 後、アイスクリームを作ろうとして、バニラエッセンスが無くてアイスクリンにしたんだ。

 それでも、王族に召喚されて歓待され、知ったはずだ。アイスクリンを知らないと。

 

 ダンジョンアタックがメインじゃないのかな?

 

「アイスクリン……氷を削って果汁をかけたりした氷菓では無い、わよね」


 リーゼが私に小声で問う。


「それは“かき氷”だね」


「ソウジュはアイスクリン、知ってる?」


 エクレール公女殿下が尋ねてきた。


「勇者が学生に提案した氷菓子と私が知る氷菓子は違うけど、アイスクリンは知っているよ」


「本当!?」


「本当。でも、ただの祭りなら、そんな王族さえも食べたことがない氷菓子を出さなくても良いはず。アルシェさん他には何と書いてます?」


 エクレール公女殿下に肯定を示した後、アルシェさんに問うと――


「学祭は精霊祭とされて、精霊の女王を歓待する為に作られる予定だった。だが、時代は戦時下だ。精霊界には下界の戦争など関係無い。無いが、人は違う。親がいる。

 それが親友が敵対国の民となってしまう。果ては戦地で殺し合いになる。

 学生にも帰還命令が出て、そのまま泥沼の戦争だ」


 アルシェさんの声にやりきれなさが滲む。


「そんな悲劇を止めたくて、マユミは我らとの契約を望み、試練に挑んだ」


 厳しい試練を超えて、全ての女王と契約に至ったと翠の女王が語る。


「拉致した世界なぞ救う必要が無い、と説いたのよ。それでも見過ごせない、なんて言って世界を救った。案の定、救った筈の人々に裏切られた……」


 愚かです……と呟く。


「せっかくです。リーゼ、ソウジュ。作って見せなさい」


 指名された私たちは頷くしか無かった。

 

 後、公爵夫妻と公女殿下は精霊の女王の降臨に頭を垂れていた。震えてるのは畏れかな?



 作ってみなさい、と翠の女王様に命じられたけれど私は首を振る。


「何故です? 作れるのでしょう」


「作れるよ。でも、かぁ――んん、センヴァーリア様は精霊女王に饗する為の氷菓子だと、見付かった著書――日記には書いてある。材料が足りない。異国の女王が独占している香料が足りない」


 公爵夫妻にそれはどの様な名の香料かと聞かれた。


「バニラエッセンス……バニラビーンズ。知りませんか?」


 甘くふくよかな香り。熱に弱い。

 フレーバーやオイルが焼き菓子に向いている。


 アルシェさんもリーゼも公爵夫妻にエクレール公女殿下も首を振る。


「良い。なくても構わないわ。マユミが作ろうとした氷菓子を作ってみなさい」


 精霊女王の命令によってキッチンと食材が使用出来るようになった私とリーゼはアイスクリンを作る事になった。


 「先ず始めに作るのは練乳」


 鍋に牛乳、砂糖を入れて混ぜながら中火で加熱。

 

 私はリーゼに指示を出す係り。ほら、ハイアールヴの姫が作るほうが何かと役立つはず……だと良い。


 沸騰したら弱火で加熱して底が焦げ付かないように煮詰めて、粗熱を取る。

 濾して冷やせば練乳の出来上がり。


「時間が勿体無い無いから魔法で冷やす?」  


「そうね。[厳冬の風よ]」


 小規模の風魔法なのに毛布が欲しくなるほど気温が下がった。


「冷えたら卵黄と、練乳をボウルに入れて滑らかになるまで混ぜて牛乳を加える」


 リーゼが混ぜているボウルに牛乳を注ぎ入れる。

 アイス液を鍋に入れて弱火で熱してとろみがつくまで加熱して冷ます。


 後は冷やす。


「これがアイスクリン……」


 私はスプーンを入れて掬いリーゼの口に運ぶ。


「ん、甘くて冷たくてシャリシャリしているのに滑らかに溶けていったわ!!」


 普段はケーキを乗せる皿にアイスクリンを盛り付けて、後はメイドさんに預ける。


 毒見もあるしね。


 あ、毒見役のメイドさんの顔が蕩けた。


 私たちはこの場で頂きます。


 少し濃厚だったかも……でもメイドさんが紅茶とか出すだろうし丁度良いのかな?


「……これで未完成?」


「たぶん、その時はバニラエッセンスがあったのよ。だからこそ精霊の女王に捧げたかった」


「なぜ……」


「祭りとか食べ物に興味なさそうな精霊に、人間が作るもので、興味が引けそうななものがこれだと思ったんじゃない。お役目ばかりだった母さん自体が兄に連れて行かれた祭りで買ってもらったのが、アイスクリンだったから」


 スイーツを食べるなんて彼岸のおはぎとぼた餅、正月の餅くらいで、厳しい家だったからね。

 屋敷を抜け出して食べた味だ。


「盟友にも知って欲しかったんじゃない?」


 翠の精霊女王は一口一口味を堪能するように母さんとの思い出を、叶わなかった思いを噛み締めながらアイスクリンを食す。


リアクション、☆、ブクマで応援いただけるととっても励みになります。

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