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7話

 付かず離れず後を追った先で見たものは胸糞が悪くなるものだった。


 元花娘の三人が隠れ里に近付くと――


 門番は醜精女、物乞いに来たのか! 子を攫いに来たか!!


 ――と怒声を響かせた。

 その怒声に櫓の鐘が鳴らされ、里が厳戒体制となり、緊張感が増していく。


 元花娘は必死に問う。


 里の自警団員たちが声を上げて嘲笑った。

 

 元花娘の家族、想い人が新しい家族を連れて現われて、自慢して馬鹿にしていく。


「ハイアールヴ至上主義は嫌、アールヴイーターに喰われるのは嫌、でも花祭りの花娘に選ばれる娘を育てた親の自分たち凄いとチヤホヤされた。勇者の乙女の親という箔、王家からも支度金やら祝い金やら見舞い金なんかが贈られた。あとは被害者の関係者として支援者とともにエルフェンリート王家に慰謝料やらを強請り集る。それが隠れ里の実態……」


 横目で見たリーゼの表情は怒り、憐憫、虚しさを綯い交ぜにした表情をしている。

 

「私が使う言語の私個人の言葉遊びだけど――」


 などと前置きして地面に『忍』と書く。


「“しのぶ”――忍耐とかに使う字なんだけど、『刃』と『心』の二つで作られた文字。己の心――欲だったり感情を刃で斬り捨てる。彼女たちは斬り捨てたのか、斬り捨てさせられたのか、斬り捨てられたのかは私には推し量れないけど――」


 新たに『女』と『又』を書いたあと『奴』と書く。


「“おんな”と――」


 私はリーゼを掴む。


「ソウジュ!?」


「『コレ』は物を掴む手と云う意があるんだ。女を捕まえる手の『奴』と云う字。これに『隷』を付け加えると『奴隷』になる。それで『奴』に『力』を下に付けると『“努”める』になる。勇者に隷属し、勇者の助けになる為に力となる。または勇者の為に贄とされるか、アールヴイーターの贄になってエルフェンリートの為に役目を全うしろ、かは分からないけれど、そんな己の心を斬り捨てた彼女たちが心を取り戻したら――」


「取り戻したら?」


「裏切られた心は『“怒”り』に変わるんだよ』


 彼女たちは槍で身体を貫かれた。身体を貫いた槍がボロボロと脆く崩れていき、ニヤついた自警団のアールヴたちの身体から穢らわしい蛆のような光が湧出る。


 自警団のアールヴたちは槍を手放し、打ち払うも次から次へと湧き出て、打ち払う手指にも絡み付き、肉が腐り落ちていく。

 自警団のアールヴたちは恐慌状態となり、錯乱した彼らは腐り落ちていない手で佩刀していた剣で抜き、目前の■■を斬り付ける。


 金切り声と呪詛、怒声を上げる彼女たちの身体はドス黒く、赤黒く、紫炎と成った禍ツモノは隠れ里全体を覆った。隠れ里に紫炎の火の粉が穢れた雪のように降る。


「リーゼ……アレは此処で終わらせないと」


 この森一体を犠牲にして止めないとアールヴ発祥の意思を持った流行り病化するんじゃないのアレ。


「解ってるわ。次はエルフェンリートの森都……」


 リーゼの隣に静かに顕現した翡翠の美しい精霊。

 彼女が私を見下ろす。

 私が翡翠の精霊に顔を向けるとリーゼに何やら囁いた。


 囁かれたリーゼは無言で頷き、天を仰ぎ、精霊力を研ぎ澄ましていく。


 刀印―― 人差し指と中指を伸ばして、その他の指を硬く握りこむ右手――を結び、天高く伸ばす。


「凍てつく風よ 遥か天空の彼方より降りて 罪深き命に裁きを下し 世界を閉ざせ――」


 天が暗くなり雲が渦巻き、轟々と唸りを上げる。


「唐突に顕れる竜巻きでも、精霊術による竜巻きであったとしても、地上の全てを呑み込んで天へと飛ばしてしまうのが竜巻きです。リーゼが行使した精霊術式は天空から地上にその驚異を叩きつけるという精霊魔法。嘗て九曜の勇者が編み出した決戦精霊術」


 ――九曜の勇者? 処女厨馬の勇者じゃなくて?


 翡翠の精霊の言葉を疑問に感じる中、見上げた天から黒い柱が伸びてくる。


 その前触れなのか雨を含む雪―― 霙が春の大地に降る。


 術式を解放する為に天へと伸ばした刀印を結ぶ右手を――


「終焉をもたらす零氷!!」


 ――リーゼは裂帛の気合いと共に降り下ろした。

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