勝利の験を担ぎ2
私とアルシェさんは店の中を覗き見る。
中では双樹が夫婦に母が作ってくれた、故郷の味だと言って料理を注文し、夫妻に調理法を伝えている。
夫妻はテキパキと調理をしていく。
ふわりと風が揺らぐ。カチャリと扉が僅かに開き、複雑な香りに食欲が刺激された。
「匂いに腹が刺激されちまう。腹減ってきやがる」
「匂いだけで汗がでそうよ」
「此れは匂いだけで身体の内が熱くなりますね」
【シルヴァラ】の面子が感想を漏らす。
「香辛料をあれだけ使えば辛いのは想像に難くない。だが、不快ではなく、空腹、食欲を刺激する配合は中々に難しい……。貴族の見栄のふんだんに香辛料を使用しただけの料理、不味さを隠す為だけに使用される料理では、こうも食欲を刺激することは出来まい」
アルシェさんの興味をも刺激する。
確かにこんな内側から熱く滾るような料理なら勝利の験を担ぐというソウジュの言葉にも説得力がでる。
ん? いや、冗談じゃなく微弱な強化入って居ないかしら?
「あ、あのアルシェさん、微弱な身体強化入ってませんか?」
「なに? 確かに微弱だが……強化されているな。おい、お前たち、自身のポテンシアを確認しろ」
アルシェさんが有無を言わせず確認させる。
「ぉ、おう……コイツは……」
「まさか匂いだけで、強化されたの?」
「此れは微弱とは言え強化されてますね。少し、いえ、かなり拙いですね」
【シルヴァラ】の面子も微弱な強化が入っているようね。
『心配する必要は無いわ。アレは人を選ぶ加護よ。只人には身体が軽くなった程度、力仕事が楽になった程度にしか感じない。誤差の様なもの。冒険者への加護? 幸運はそう簡単に訪れるようなものかしら?』
エメラルディアが皮肉げな笑みを向けて来る。
「勝利を願って貰わなければ効果が無いのね」
『嫌った相手に無関心、静かな排除は、怒りはマユミゆずりね』
少なくとも私たちは嫌われてはいない、と。
「くぅ~……美味そうだぜ……あの揚げ肉にたっぷり付けてパンで挟む……齧り付きてぇぜ」
「匂いで食欲を唆られた状態で、目の前で食べられなんて、目に毒よね」
「まだ慌てる時間ではありません。ありませんがやはり空腹は待ってくれません」
しかし、まだ入店出来ない。
ソウジュが席を立ち、ミリアに話かけている。どうやら部屋へ案内してもらうようだ。
二人が2階へ上がるのを見て私たちが入店すると、ダンとユウリカ夫妻が会釈する。
私たちが席に着くと、先ほどの料理が出された。
間近で匂いを嗅ぐとより一層身体の内が燃え上がるような感覚になる。
複雑で濃厚な香辛料と具材の匂い。
私たちは祈り、匙で掬い口に運ぶ。
コクと旨味の後に爽やかな辛味が来る。
嫌な辛味でも痛みでもない。
汗が浮かぶ、カツを口に運ぶ。柔らかい肉、仄かな甘み、サクッとした衣。カレーがかかったところはサクサクッとした食感は薄れているけれど、カツがカレーの爽やかな辛さが加わって一層美味しくなった。
「複数の香辛料をこれほど味わい深い料理にしてしまうとは……」
アルシェさんはしみじみと呟く。
私は辛さの残る口の中をミルクを飲むことでまろやかにする。
「コイツはたまらねぇな、美味い美味すぎるせ!!」
「熱い、わね」
「もう少し辛くてもイケますよ」
【シルヴァラ】の面子は……無我夢中のまっしぐらね。
「俺はソウジュ嬢ちゃんがやってたのを真似るぜ」
ブランがパンに切れ込みをいれてカツを挟さみカレーを少量かけた所でミリアが降りてきた。
「あ、ブランさんカレーかつサンドにしてるーっ!!」
「お、ミリア嬢ちゃん。コイツはカレーかつサンドっつうのか?」
「うん。ソウジュさんが言ってました。『勝機を挟んで捕まえて掴んで離さない』勝運上昇の験担ぎの食べ物だって」
「そいつは重畳じゃねぇか。だったら必勝を確かにするために食わねぇとな」
ブランがかつカレーとパンをおかわりをする。
「だが、ミリアにご夫妻。それはあまり口にせぬことだな。験担ぎ、だが所詮は人の実力がモノを言うのが冒険者。これを鵜呑みにして散ってみろ。今の比ではないほどの非難が向く事になる。冒険者の中には郷を離れた者、孤児の者がいる。そういった者たちの無事を祈って送り出す料理、程度に留めて提供すべきだ。此れはソウジュの母親がそうやって送り出す為に作っていた料理なのだろうからな」
アルシェさんがミルクを飲み干して話を締めた。




