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勝利の験担ぎ

 私はシュリカに、ご両親が経営する宿兼食堂に案内される道すがら、どんなスープが出るのかを尋ねた。


「お野菜やレンズ豆、塩漬け肉を香草で味付してコトコト煮込んだポタージュですよ。でもやっぱり香辛料が使われた料理が流行っていて、父さんと母さんが香辛料を買って見たんですけど、元々の料理の味を変えてしまって……」


 新しい料理を作るにも香辛料の配合から考えなければならないし、無駄に消費出来ないというジレンマ。

 

 そうこうしている内に目前に店を建てられたと。


「私がその香辛料の配合というか使った料理を教えるって、大丈夫かな? 私が教わった料理なんだけど」


「先ほど言っていたのですよね?」


「そう。私が母さんから教わったレシピ」


「そんな大事なレシピを駄目ですよ。レシピは秘伝なんですから!」


「私の故郷だと大抵の人は基本的なレシピは知ってるんじゃないかな。それぞれの考えでレシピは変わってるけどさ。だから大丈夫だよ。さっきも言ったけど、勝負ごとの願掛け、言葉遊びなんだ。ソレでも私は負けたことがない。それは勝つように、って言うのは勿論だけど、無事に帰って来なさい、生還しなさいって言う願掛けでもあるんだから、冒険者にはぴったりでしょう」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクしてみせると、シュリカが、はいっ! と元気よく返事してくれた。

 

 冒険者ギルドのわりと近くに木骨レンガ造りのお洒落な店構えの建物、それがミリアのご両親が営む宿兼食堂だった。


 ミリアがいらっしゃいませ! と言って私を通してくれた。


「ミリア帰ったか……またギルドに行っていたのか」


「良かったわ。今はお祭りで呑まれている冒険者も居るから、お店の為だって分かっているけれど心配たもの」


「お父さん、お母さん、お客様だよ。それでお願いがあるの」


「お客様?」


 カウンター席に案内して貰った私はミリアのご両親にお願いする。


「私、法剣武闘大会に出場するんですが、泊まる宿が無くて、そんな時に彼女が呼び込みをしていたので、私には助かったんです。それで、お願いがありまして、武闘大会に出場するにあたって、私の母が勝負ごとの前に作ってくれた験担ぎの料理を作って頂きたいのです」


 教えるなんて上から目線なんてことはしない。


「事情は解ったりました、この店で作れる料理ならお伺いします」


 私は必要な物を伝える。


 ダンさんとユウリカさんがそれらをカウンターてーぶるに並べる。


 私はそれぞれの分量を伝え、二人が量を計って行く。


 そうしたらいよいよ調理開始だ。 


「クミン、ターメリック、チリペッパー、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、シナモン、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、を弱火で乾煎りして下さい。」


「ソ、ソウジュさん。こんなに香辛料使うのかい」


「お、お貴族様の料理かしら?」


「ここまで調和させていく香辛料料理は食べてないんじゃないです?」


 それが高貴だからって理由で競う様に何も考えず使ってそう。


「鍋にバターを入れて溶かして下さい。焦がさないように弱火で。……小麦粉を入れてじっくり時間をかけて混ぜます。トロトロになって来たら乾煎りした粉を入れて確り混ぜ合わせます。はちみつ、りんごジャムを入れて混ぜる。型に入れて一晩待つんですけど、はい、一晩寝かせたのがこちら! これがカレールウ。どうぞ」


 まぁあとは普通にカレーを作るだけ。

 あとはチキンカツ、とんかつを揚げるだけ。

 

 お肉に下処理をして、塩、コショウでお肉に下味を付け、バッター液に潜らせて余計な液を落とし、パン粉を付けて揚げる。

 

「豚野郎、チキン野郎や弱気な自分に華麗に勝つ。言葉遊びだけどね。験担ぎなんてそんなものでしょう。でも、勝負ごとや試験の日にはそうやって送り出してくれて、負けたことはないんだ」


 ダンさんとユウリカさん夫妻がカレーを作りカツを揚げているのを見守りながら語る。


「あのソウジュさんはセンヴァーリア様とはどの様なご関係なのですか?」


「センヴァーリアの血を引いてるって言ったら信じる?」


 カチャリと何かを落とした音がした。


 ダンさんとユウリカさんが木べらとトングを落として、私を信じられないものを見る目で見ている。


「まぁ、信じられないかも知れないけど、始祖精霊と契約していたんだ。精霊郷で死を逃れたって不思議じゃない。世界を救ったセンヴァーリアを裏切った人の世に始祖精霊が戻すはずがない。ソウジュ・センバ。それが私の真名だよ」


 狡いけれどこう言えば信じざるを得ないでしょう。


「外界に降りる前も作って貰ったんだけど――」


 私は新しいトングを手に揚がったカツを油から上げる。


「ダンさんカレー混ぜて混ぜて」


 ダンさんも慌てて新しい木べらを手にカレーを煮込む。


 ユウリカさんが拾った物を煮沸消毒する間、私がカツを揚げる。


 パチパチ爆ぜる油と揚げ色がカレーの匂いと合わさって食欲を誘う。


 くぅ、とお腹が鳴る。


「聞こえました……か?」


「期待してくれて、ありがとう。裏切らないよ」


 ミリアも食べる為に甘口だ。それでも初めての味かも知れない、刺激かも知れないからユウリカさんに牛乳が無いか聞くと、有るとのことでコップに注いで貰って、カツを切り皿に盛り、ダンさんにカレーをかけてもらったら出来上がりだ。


 と言ってもライスじゃなくてパンだけど。


 私の感覚では甘い。


 けれど三人には辛いようだ。


 複数のスパイスを調合した料理なんてあまり無いだろうしね。


 頭部、額、鼻頭、から汗が出ているけれど牛乳で辛さを流しながらも、カレーをパンに付けて食べる手は止まらない。


 私はパンにナイフで切れ目をいれ、カレーのかかったとんかつを挟むとカツカレードックにして食べる。


 それを見た三人も真似る。


「こいつは冒険者ギルドで出されたパンに似ているが、アレはヨウ・マネトル料理長が考えたものじゃあ無かったのか」


「違うんだって。アレもソウジュさんが作ったのを真似たんだって」


「私に権利があるわけでも、考えたわけでもないから別に真似ても良いんだけど、真似るなら食べられる物を提供しろとは思いますけど」


 私はダンさんとユウリカさんにカレーやカツの応用も伝えた私はミリアに滞在する部屋に案内してもらった。


 何せ、店の外にアルシェさんとリーゼが潜んで此方を伺っていたし、たぶんアルシェさんたちを見つけたクラン【シルヴァラ】と、私を気にしたであろうシュリカとギルマスの命令かな? フレイヤさんが待機していた。


 アルシェさんに入るのを停められたかな?

 

 アルシェさんとリーゼは本当のことを話たわけだけど。他の面子はどうかな? 今回の説明を信じただろうか。


 それが私の強さの一端と天剣流が使える理由なのだと納得して貰いたい。



正々堂々、正面からドンと勝つでカツ丼。

勝つ!と気合いを入れる、気を引きシメ(・・)めるかつ飯を双樹は伝えました。


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