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6話

 ソレは生まれた。異形の姿で。

 ソレには力があった。同時期に生まれた存在より、既に在るものを圧倒するほどの力があった。

 だがソレは異端で異形。ソレが受け入れられることは無かった。

 

 弾かれたソレは身を潜めることにした。

 何もしていない。この力で傷付けてはいない。

 何故ナゼなぜ――


 異形。だが、ソレ以外も異なる姿形ではないか。

 ソレが知る限り同じ形のものなど居なかったのだ。

 ならば何故、己だけが弾き出されなければならぬのか、ソレは考える。


「お前が異形だからではないよ。お前が誰よりも醜い異形だからだ」


 考え悩むソレに声をかけるものが在った。


「見目麗しいと思うものどもは異形で醜いお前を嫌悪しているのだよ」


 ソレに話しかけるものも美しい。否、ソレが知る誰よりもも何よりも美しく馨しい。

 だが、ソレはその美しさに怖気が奔った。見目は美しいが中身が怖い。

 そのものを直視しているだけで深淵の闇に、混沌の闇に、虚無の闇に引き摺り込まれ囚われてしまいそうになる。


「美しさが無いなら他者から奪えば良い。力が有るのだから奪えば良い。力無きものは敗れ、奪われて当然だ。お前は弱さ故に居場所を奪われた。奪われたなら取り戻せ」


 深闇を纏うものは嗤ってソレを送り出した。


 ソレは美しいものを力でねじ伏せ、美しいものが誇る美しいものを喰らい簒奪していった。

 その感情は愉悦だった。美しいものが枯れ散って醜く見窄らしくなっていくのだから。


 やがてソレは精霊から畏れられるようになった。

 美しいものを手当たり次第吸収したソレはチグハグな姿と成り果てた。

 ソレは美しいものを手に入れ、美しい姿に成ったはず。しかし、皆がソレに向けるのは侮蔑、嫌悪、忌避、憐憫だった。それがソレには理解出来なかった。


 ある時、ソレが森を彷徨い歩いていると、森の空気がざわめき出した。

 空から光が降りた。

 

 ソレがそちらに向かうと、見目麗しい精霊種族――アールヴと呼ばれる者の娘が居た。


 だが、その娘の美は傷物だった。

 美しい衣は血に染まり、目は焼かれた痕があった。脚の腱は逃げぬ様にと刃物によって断たれていた。


 ソレは問うた。

 

『何故お前はその様姿に成ったのだ』


 アールヴの娘がビクリと身体を跳ねさせた。


『何故、お前の美は失われた?』


 アールヴの森都が魔物に襲われ、魔物はアールヴを喰らい、戦士たちが戦ったが敗れたと娘は語る。

 そこへ夢幻一角馬(聖精霊獣)の末裔が降臨し、斃してやろう、と話を持ちかけた。

 その前に、花娘で聖泉で禊をしていた妹が見初められ、妹と引き換えにアールヴをエルフェンリートを救ってやろうと。

 森都を焼かれた王女は、民と己が娘を天秤に掛けるまでもなく、娘を差し出した。

 花の顔の妹に地味な自分を付けて。

 女王には意図があった。だが勇者は面食いだった。

 自分は返された。

 返されたことが勇者の癇に障ったと恐れた小心者の王配――父親に命じられた騎士と術士に傷付けられた。

 そうして、アールヴイーターの贄とされた。アールヴイーターが贄である自分と供物を喰い散らかしている隙に勇者が討てるように、と話終えた。


『怨みは無いのか。憎しみは? 報復したくは無いか? それを為した者に、それを良しとした民に。これから生を謳歌する者が憎くは無いか?』


 怨嗟の霊力が噴き上がり、渦巻く。


『美しい。我が再び光を与えてやろう。俊健なる脚を与えてやろう。さぁ、我を受け入れよ』


 そうしてソレは美しさを手に入れた。

 娘の身体には禍々しい紋様が浮かんだが、それが妖しい美しさと成った。

 ソレは名を手に入れた。

 

 『我はアーティ。怨獄のアーティ。エルフェンリートに呪いあれ、災禍あれ、衰退し、滅亡せよ。想い実を結べども、風雨に腐り堕ち、流れ、絶え果てる。同胞を喰らえ、アールヴを喰らえ、暗餌』


 その怨獄の霊力に炙られたアールヴイーターの魂に呪詛が織り込まれた。

 アールヴイーターが勇者に斃され、地に天に還る時、その呪詛はアールヴイーター種に引き継がれ代を重ねるごとに強くなっていった。


 そして呪詛はエルフェンリートにも刻まれたのだ。アールヴの嬰児の出生率が低下し始めた。


「森の神だか山の神だがに成った元王女の怒りを鎮める為に花娘の片割れは送り込まれる、と若さというか精霊力を奪われて、その様な姿にされた、と」


「そうさ……。人間の小娘。エルフェンリートの王族が恨まれていないと思うておるのか?」


「これ、この通りよ。魔導具は差し入れられる」


「花娘の真実を知った家族が支援してるんだね」


「その通り。魔導具に限らず、あの通りガキどももさ。花祭り、親も浮かれ、子守が疎かになる時があるのさ」


 アールヴイーターの雛はリーゼが殆ど片付けた。私はこうしてアールヴの森姥を捕らえて話を聞き出している。


「小娘。貴様が雛に何の肉を与えたかは知らぬ。知らぬがあの程度の肉で呪詛が解けるなどと思わぬことよ」


 ――解呪出来たんだけど、ショック死しかねないし、黙っとこ。


「捕縛、ありがとう」


 雛を殲滅したリーゼが私のもとへ来た。


「怯えているのか……であろう。お前たちは我々のことを畏れ噺として聞かされておるものなあ」


 森姥たちの邪視からリーゼを庇う様な位置を取り、目前に屈むと、三人に聞こえるような声量で語りかける。


「想い人が居た。それが罪? 同情はする。けれど貴女たちを罪人としたのは誰? 最終的に縛り上げて森神アーティに差し出したのは誰? 貴女たちの想いを裏切ったのは誰? 自分たちが助かりたかった、群れから弾き出されたくなかった貴女たちの親兄弟で想い人でしょう? 

 それで、後になって貴女たちに怨まれたく無かったから隠れて支援して、許されようと目論んだ。

 ふふ。裏切った想い人に甘く囁かれでもした? 馬鹿じゃない。美しさに異常なほど、気狂いなほどに誇りを持っているアールヴが醜女を愛でると思ってる? そんなわけ無いじゃない。

 今頃、若いアールヴと子作りしてる。貴女の両親だって貴女のことは普段は畏れ、頭の隅に追いやって、新しく産まれた弟妹を可愛がっているに決まってるじゃない

 隠れ里に行ってみた? 何も知らないの?」


 三者三様の地獄の淵から這い上がる亡者の様な汚濁のような呻き声を上げながらガクガクと震えはじめた。


 震える手を私の首へと伸ばして来たのをスルリと躱す。


「そ、ソウジュ、貴女何を言ったのよ? 怒りで震えているじゃない」


「子供を怖がらせたり、殴った報いに、ちょっと彼女たちに、真実であるかのようなことを吹き込んだんだよ」


「貴女、オーガね……」


 リーゼに引かれた。


 ルールに従いながらも手八丁口八丁で場を有利にする、支配するは古代メソポタミア文の王様の力を借りて闘争するJKが主人公の漫画で学んだからね。


 負けた闘争者は罰ゲームを受けるのだ。


 呪詛を吐き怨嗟を噴き上げた森姥が駆けていく。


「何処へっ!!」


「女の敵は女って言うでしょう!! リーゼ、彼奴ら追いかけるよ!!」


「テリヤは子供たちを調査隊にっ!!」


「ちょっ、えっ!!!? 姫様っ!! 姫様ぁぁああっ!!!!」

 

 付かず離れずの距離を保ち私たちは森姥を追走する。

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