プロローグ3
法剣武闘大会開催を宣言し終えて、ギルド職員専用出入り口から建物に入って、ギルマスが抱える気がかりなことを聞かされた。
それは職員が頻繁に利用する食堂の話だ。
職員が頻繁に利用するだけの食堂を何故ギルマスが気に掛ける?
宿屋兼食堂の料理人夫妻の旦那は元は騎士でガーリッツの嫁の故郷を襲ったスタンピードから避難させる為に一人、戦列から離れたらしい。
馬を使い潰すほど駆けさせて、王都を守る為の贄とされ切り捨てられた人々を避難させた。
それは守られた側からすれば英雄だが、作戦を台無しにされた側からすれば悪だ。
王都を危険に晒し、敵前逃亡した愚者。一族郎党処刑だろうな。
――だが、出来んだろうな。
魔導大国なんて大層な名があるが、魔法に頼らざるを得なくなっただけの話だ。
本来ならば精霊術、精霊召喚術、盟約を行える者が王位を継ぐ習わしだ。
だが、精霊界墜落から、精霊――とくに始祖精霊と契約出来る者は誕生していない。
――今、あの王家は揺らいでいるからな。民を切り捨てたなどと知られては市民も加わっての反乱なんて事になりかねんな。
王家は古い必要なしと考える勢力の行動に移す理由となる。
以前から勇者センヴァーリアに由来する物がないか、センヴァーリアの名を冠する町に由来する名物が無いのは情けない、何か分からないかと請われていた。
今回は離れる旨を伝えに来たはずだが、何故、法剣武闘大会に出場せねばならん。
まぁ、ギルマスはギルマスなりにソウジュに返したいものがあるんだろうが……。
ソウジュを迎えに行ったリーゼが戻って来た。
「いま、登録しているけれど、ちょっと心配ね」
下の階で少女が自身の親が経営する宿に冒険者を呼び込もうと必死に……。
男の冒険者に……?
マズイぞっ!!
「ガーリッツ、ソウジュを止めるぞっ!! さもなければ大会の選手が開始前に強制的に棄権させられるぞ!!」
私たちはギルマスの執務室を飛び出した。
受付、食堂はまるで死地同然の様相を呈していた。
ソウジュが冒険者たちに対して尋常では無い殺意を剥き出しにしていたからだ。
それでいて、冷笑を浮かべてへたり込む冒険者を煽る。
「遅かったか……」
顔を覆う。
ため息を吐いているとソウジュがとんでもない発言をした。
『だからミリアにはちゃんと教えるよ。勇者センヴァーリアが勝利の験を担ぐ時に食べたり作ったりする料理を』
「はは、良かったなガーリッツよ。大会は駄目かもしれんが、名物料理が出来るぞ。問題は解決したな。はは……」
「しとらんわ。辺境伯ご家族まで見に来るのだぞ」
ガーリッツが苦虫を噛み潰したような表情で冒険者どもを見る。
さて、ソウジュを追いかけるか。
■
顔を押さえたアルシェさんが悪辣な笑みを浮かべている。
ソウジュがミリアを救けると計算していた顔だ。
「アルシェさん、狙ってましたね。ソウジュならミリアの両親の経営する食堂で何かしら作るって」
「あぁ……ガーリッツの奴から頼まれていた件もあるがな。リーゼは気付いたか? あの姫が見せて来た遺跡から見付かった紙片をソウジュが見た時、あいつはこれなら作れるかな、という顔をしていたぞ。もし、あちらでソレを作ってみろ。センヴァーリアを冠する地の名折れだぞ」
私としてはどちらでも構わないのだけど、アルシェさんは存外、センヴァーリアの町を気に入っているようだ。
まぁ、ミリアは知らない仲ではないし。
私たちが二部屋貸し切っている状態でも経営状況は危ないし。
センヴァーリア様の料理は気になるしね。




