降魔騒乱2
「アーティル……キス……だとぉ……」
満身創痍の魔人が血を吐きながら私とアーティルキスを交互に見て、アーティルキスの真名を呼んでしまった。
「貴様に我の名を口にするのを許した覚えは無い。疾く死ぬが良い」
「わ、私を斃した所でもう遅い。私たちの実験は成功した。故に此度の此れは挨拶代わり。最早この流れは変えられぬ。き、貴様たち異世界の塵がかわり果てた世界で、い、如何にして足掻く、か、くく、れ、煉獄からみ、みている、ぞ」
魔人は塵になって消えた。
『マユミ。お前の娘は無事だ。あちらで暴れて私の封じを綻ばせた』
「……そう。無事で良かったわ。アーティ。貴女は囚われたままの……」
『残滓にすぎない――……依代があるな。気になる者が居るのだろう? 向かうがいい」
精霊刀にアーティルキスが宿る。
私は上司に断り娘の無事をこの目で確かめる為に合宿中の場所まで向かう。
街は酷い有様だった。
骨組みだけになった建物、まだ消火しきれていない火炎。人手は明らかに足りない。救助は間に合わない。
「アーティ。双樹は……」
「目覚めた。お前が歩んだ軌跡を仲間と辿るそうだ」
あまり危険な事をして欲しくは無いけれど……。
「……ソウジュは己の出生を知った」
「何故っ!?」
「アルシェというハーフアールヴが歴史探求家だ。友になったハイアールヴの姫がその弟子だからな。色々と誤魔化してはいた」
改竄された歴史の真実探求か。
私の日記でも見つけたのかしら?
日本語で書いてある為に双樹が読めてしまって、さらに誤魔化せなくなって、良心が痛んだということね。
[月兎]で駆けている間にも残党を斬り伏せていく。
唖然とする人の中、私を同業者と認めた者たちの中を駆ける。
突然、見えない幕に阻まれる。
「マユミ。歴史が変わるわ」
「歴史が変わる?」
「直に分かる。此れは止められない」
ぐにゃるっと世界がシャッフルされる。
立っている場所が崩れる。
そこに上も下もなく、前も後ろも、右も左も分からなくなった頃、私は――
「マユミッ! しっかり意識を自我を保てっ!!」
「っ!?」
今、一瞬自分が理解出来なくなっていた。
「娘たちの名を言ってみろ」
アーティに言われ、私は娘たちの名を口にする。
「双樹、涼風……解る。覚えているわ。忘れるわけがない」
世界のシャッフルが終わる、歪む空間から放り出される。
廃墟だ……都心が瓦礫の山と化した。交通、物流が止まった街。
『今日で空震災害――降魔騒乱事変から10年目を迎えます。―――』
「10年っ?!」
ラジオから聞こえたアナウンサーの声に驚く。
「10年のズレか。その程度で済んだのは幸いかも知れないな」
私はアーティが宿る精霊刀を見る。
「あの世界はな、時の権力者、富豪、犯罪組織によって歴史が目茶苦茶だ。何が変わって、何が元のままか、確かめなければならない」
でも……此れはどう言うこと? 子供ばかり……年長でも大学を卒業したくらいかしら?
「あ、あの、その刀……貴女は討滅者様ですか?」
「私かしら?」
「は、はい」
私が振り返ると――
「そ、外は、救助はまだ……でしょうか」
双樹と同い年くらいの女の子が獣耳を有する幼女を連れていた。
降魔騒乱事変で女の子は両親とはぐれてワーウルフに××されたという。
両親は未だに見当たらないでいると言う。
そして自分たちは救助をされないまま取り残されていると語る。
バリバリバリバリと空が鳴動し、衝撃波を発する。
『空震警報です。お近くの住民の皆様は――』
「さ、非難しなさい」
「は、はい」
魔は降りてこない?
空震は内に内に凝縮されていく。
そして弾けた。
その衝撃は訪れなかった。
その代わりに水面の様なものが目の前に出現した。
私は取り敢えず写真を撮って、上司――若杉 静馬にメッセージに添付して送る。
『空震で発生する異界門。中はダンジョンになっているわ。攻略をすることで無力化出来る。資源採取場になるわ。出来るなら攻略して欲しいのよ。地球上のレアメタル――レアアースよりも優れた非鉄金属が採れるのよ。難易度が高ければ高いほどね』
ズキリと頭痛に見舞われる。
――なるほど、此処は見捨てられた街で、降魔の、自分たちの仇の子を産んだから、置き去りにしたわけね。危険だと言う理由で……。
昔の私なら当然だと、割り切って切り捨てていたでしょうね。
『良いわ。攻略します。但し幾つか条件を付けさせて頂きますが』
携帯を仕舞うと異界門へと飛び込む。




