降魔騒乱
その日は原稿を出版社――担当にデータを送り、なんとは無しにTVを点ける。偏向報道ばかりして不要とされて久しいオールドメディアのニュースがたまたま映った。
ゲーム筐体を造り、その筐体のスペックをフルに活かしたゲームが発売されたというニュース。
長い列。ゲーム『Connect Ubiquitous Future』を買った男性がにこやかに嬉しそうに語る。
筐体である【COCOON】は義父母が孫である双樹にマンションの部屋とともに高校の入学祝いに贈ってくれていた。
双樹はパルクール系のゲームや格闘ゲーム系をしていたから、娘から『祖父さまと祖母様から今日発売のゲーム貰ったんだけど、私、英霊たちと周回に忙しいんだけど……』
という内容のメールが来た。
「せっかくだから遊んでみたら? 話題になってるわよ」
話のきっかけになれば、と奨めてみた。
その日にあの様な事件を開発者が行うとは思いもせずに軽く奨めてしまった。
ゲームの本格的な始まりは夕方から、それまではアバターをメイクし、基本動作を覚えたり初期スキルを覚える時間と、公式サイトには掲載さされていた。
『今からダイブする』と淡々としたメッセージが届く。
『楽しんで』という返信に既読が付かないから、もうダイブをしたのだろう。
「興味なさ気だったのに……」
義理堅く優しい娘だ。深く関われば、関わってくれたら、と母親の私は思うけれど、どちらも知る前に無駄だと離れてしまう。
楽しみなさい、という私の願いは叶わなかった。
開発者自らイベントキャラクターになってデスゲームイベントを開催するなど誰も思いもよらない。
夕方のニュース番組を開発者たちはジャックした。
曰く――
初回ロッド分の購入者は10万人。その内の幾人かをデスゲームに参加させる為に開発者はゲーム内に閉じ込めた。
開発者たちは『Connect Ubiquitous Future』を5年以上かけて作り上げた。いや、その範囲で作り上げた。
それは去年1年かけ、全国規模で行われた悪魔のアンケートに間に合わせる為。
『一人居なくなれば面白いと思う人物は?』――という最後の質問。
その中から第一陣となるデスゲーム参加者が選ばれた。
選ばれたものはゲーム内で死ねば現実でも死ぬ。
現実で死ねばゲーム内で死ぬ。
足下が崩れ去ったかのように錯覚した。
私は着の身着のまま家を飛び出して車に乗り込み、双樹のマンションまで車を走らせた。ニュースでは開発者の用意した病院までの人数分の輸送車が用意されていた。だが、全員が使うことは叶わなかった。
何人かは親族知人の手によって【COCOON】の電源を切られてしまったからだ。
強制的に起こそうとした結果だった――と信じたい。
それでも死者が出た。
これを故意、事故による殺人のどちらとして見做すのか、照明出来るか議論となった。
これの判断遺憾によって、開発者の言うクリア条件である、開発者を殺す事が唯一無二のデスゲームの終わりだと告げた。
涼風――もう一人の娘に連絡をして事情を話す。
強化合宿中の娘に動揺させてしまうが、話さないわけにはいかない。
戻ると言うけど、断った。双樹なら戻るなって言う。
『あー……お姉なら言うね。怒るね。椅子取りゲーム中に何やってるんだって。チャンス無くなるよ。そこに居る誰かの進化の速さは思ってるより速いよ、くらい言うよね』
と、涼風は合宿に残留した。
その後だった。娘の身体が【COCOON】から消えたのは……。
――何故、何があったの。
ダイブスーツと各種セットギアだけが【COCOON】に残されていた。
状況は変わらない。
同僚が交代の警護に立つ。
翌日の夕方、ニュースが飛び込んできた。
開発者の一人である小比見 輝哉が『NAMELESS』によって斃されたと言う。
「開発者によって『NAMELESS』は『PHANTOM』と名付けられたわ」
ヒールを慣らして現れたのは私の上司。
姿無き者。
まさに今の私の娘の現状だ。
運営の一人を斃したプレイヤーが誰か特定できていないの?
「タイミングが悪いわね」
私が呟く。
「殺人の在り方を議論しているところだったものね」
「特定班やらが突きとめたくて動く……」
そうなれば拡散されてしまう。
「それらは私たちに任せない」
ズンッと突然、空気が身体に重く圧し掛かってくる。
外も内も騒がしい。
大気が激しく揺れ、空気の津波――衝撃波が私たちを襲う。
窓ガラスが割れる。窓枠が歪む。ドアが飛ぶ。
外は停車、走行中問わず車が吹き飛ばされたり、横転したり、ひしゃげたりした。
自転車、バイク、歩行者も同じ阿鼻叫喚の坩堝と化した。
様々な場所から異形――鬼が顕れた。
鬼は人に仇なす者の総称だ。
オーク、ゴブリン、ワーウルフ、オーガ、トロル、ガーゴイル、様々な名の種族の鬼が顕れた。
「鬼斬役千羽 真弓美に頭として命じる。禍ツ物を討て」
「了解しました」
窓枠に足を乗せ、外に身を躍らせる。
[月兎]
身体が重力から解き放たれる。地に足を着け、駆ける。
女児を喰らおうとするゴブリンの頭を――
[星環 ―巡―]
女児の身体を迫るゴブリンの魔手から抱き奪い、召喚した刀で、首を斬る。
「真弓美姉様! 救助者は此方に」
私は零音――胎違いの妹で女医の彼女に女児を託す。
「院内は?」
「こう言っては何だけど、双樹が居たお陰で院内は助けられてる。姉様気をつけて」
ええ、と応えて駆け出す。
携帯を片手で操る。
出て。出なさい!
『おか……さん?」
「涼風っ! 無事なのね?!」
『い、一応……凄い振動のあと、ゲームやラノベの敵みたいなのが顕れて……』
「怪我は? してる、してない?』
娘との通話中にガーゴイルが飛び襲いかかってきた。刀をクルリとスピンさせて逆手に構え直すと、姿勢を低くして右足を大きく踏みこみ、飛び込んでくるガーゴイルをその左肩から抉りこむ様に切り裂く。
[明星]
血飛沫が降り注ぐ。
『してない、よ』
親子連れを襲うオーク。
[天雷]
オークの頭上まで飛び脳天に刀を突き刺す。オークの頭を蹴って刀を抜き、斃す。
「本当ね?」
『うん』
爆心地は都心の宙だ。
離れていて良かったわ。
「ほかの子に怪我は?」
「転んだ時に……でも、変なのには襲われたりしてない」
――あっちはあっちで鬼退治の専門家が在るし、対応が早かったのね。此方は……。
建物が崩れている。タワーも消し飛んだ。あちこちで煙、炎が上がっている。
「和風ファンタジーの衣装を着ている人が居たら指示に従いなさい」
「う、うん。今部屋で待機中」
「そう。それなら少しは安心かしら」
二言三言交わして通話を斬る。
「わらわらと鬱陶しい。」
――と、小さく唱え、歩みを進めて両足を揃える。
また一歩足を前へと進める。
天枢――
天璇――
天璣――
天権――
玉衝――
開陽――
揺光
「陰陽なる者 天地の道 積陽は天なり 積陰は地なり。清陽は天となり 濁陰は地となる」
地に刻んだ跡が仄かに光り、光りの点と点を結んでいく。
「地気は昇りて雲と成り 叢は天気より生じ 雨は地気より出で 天気は降りて雨と成る」
軌跡が白く輝き、やがて瑠璃色の閃光を放つ。
地に北斗七星が成された。
本来なら左輔と右弼の二星を加え、九星と成して歩を進ませなければならない。
目を閉じ強く念じる。大地、水、生と死、闇を司る龍神よ、お前を縛る呪いの鎖をこの言ノ刃で断ち切ろう。
「呪詛の縄、呪縛の鎖、その悉くを摧破し、この言ノ葉に応え――」
言魂を言ノ刃として解き放つ。
「出でよ――」
吹き荒れていた霊気が龍の姿となり、大地より立昇った苛烈な水気は神気を含んでいる。
こちらの神呪をアレンジしたものだが、強引に俺の霊気で召喚術と成す。
精霊刀で天地を指示し叫ぶ。
「アーティルキス――!!」
かつて盟約を交わした女神の神名を呼んだ瞬間、地中の奥深くから轟音が轟くと共に突き上げられたように大地が大きく揺れた。その全てがこの時この場所で一点に集約して爆裂した。その神気は魔精霊、魔モノに襲いかかる。
激烈な神気に呑み込まれた魔精霊の魔性を焼き消失させた。憑き物が落ちた様に精霊たちが、ふよふよと空中を漂っている。ほとんどが上級精霊で中には中級でも上位に在るもので、中の下、下級精霊は為す術もなく蒸発するように消滅した。
それは人々を取り囲んで埋め尽くしていた無数の魔精霊や魔モノたちをも瞬時に滅却させていた。
その影響は天で戦況を眺めていた魔人も例外ではない。身体は焼け爛れ、ドロドロと溶ける様に瘴気が血のように流れているが、計画を打ち砕かれたその眼は怨みをたぎらせている。
天へと飛翔した神気が一際輝く珠に集中していく。
その珠は所謂、如意宝珠と呼ばれるものだろうか。
徐々に人形ひとがたに成っていく漆黒の光。
漆黒の光の繭から羽化。射干玉の長い髪。白く輝く玉の肌。そして透き通る美しい漆黒の羽は燐光を散らしている。深いスリットの入った漆黒のドレスを生成して纏う。
『……』
此方を品定めするような目付き。
『フム。 我を牢獄から解き放つ程の霊力はやはり、汝か』
そのしなやかな指で煙管をクルリと回す。
『久しいな。マユミ』
『ええ。本当に』
精霊刀が漆黒に染まる。
私の書いた『必勝の聖眼の神殺しと戦女神』『天網恢恢、其は天剣を担い鬼を討つ者なり』『天剣の華』『Reincarnationー鬼斬りの少年、鬼の呪で現在はJK鬼斬りとして鬼の討伐していますー』から設定を持ってきています。




