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魔物を出来るだけ回避し、斃せる魔物は轢き殺し、迷霧の道を抜ける。
すると開けた場所に出る。
そこに柵に囲われた館が見える。
「着きました」
「此処が大精霊魔導師アルシェ様の御屋敷」
バイクの起動をOFFにして降りると、エクレール様に手を差し伸べる。
エクレール様は微笑み、私の手を取りバイクから優雅に降りる。
そのままアルシェさんの下までエスコートをする。
身長があれば絵になったのかな?
「アルシェさん。ソウジュです。ただいま戻りました。お客様をお連れ致しました」
扉の前で声をかけると、アルシェさんが出てくる。
「遅かったな。私に客? ……何用かな?」
アルシェさんに無断で連れてきた為、面倒だと言うのが声に表れているし、何を勝手に、と私を咎めているのが分かる。
「お初にお目にかかります。私、ヴァルトエァベーレ公国第一公女エクレール・アルストロメリアと申します」
「隣国の公女殿下が私に何用だ?」
「はい。喪失した歴史を探究なさっているアルシェ様に報せたき事が御座います」
スッとショコラが一冊の著書をエクレール様に手渡し、受け取った彼女はテーブルへ置く。
「ほう? また懐かしい物を。それで?」
「はい。ラング・ド・シャトーの地下に遺跡が発見されたのです。探索隊を結成し、入ったのですが――」
「濃いエーテルと魔精霊にでもやられたか」
「魔精霊!? アルシェ様……やはり精霊は存在しているのですねっ!」
「あんな醜いモノが精霊と言うなら、精霊は存在している。だが、あんなモノを精霊とは認められん」
「精霊が如何にしてあの様な醜悪な姿に成り果てたのか、アルシェ様はどの様にお考えなのでしょうか」
「それを探っている。だが、これに書いてある通り、私は勇者が討たれ、精霊が人の良き隣人であることを止めた後、だと考えている」
「〈青き清浄なる世界の理〉による世界同時多発攻撃。精霊を狂わせて、狂った精霊を自爆させた精霊爆弾」
「この本は焚書にされたがな」
私はそれを読ませて貰う。
誰もが精霊力を精霊魔法を使えるわけでは無かった。
精霊使い、精霊召喚士だけが強大な力を得て振るう事が出来た。それは精霊力を扱えない者たちにとって嫉妬を禁じ得ないものだった。見目麗しい精霊を侍らせて居るように、自慢されているように感じ、劣等感を抱いた。
『こんなのは……この世界は間違っている許せるわけがない……精霊という世界の穢れは浄化しなければならない……清浄な世界にしなければならない……」
恐らく政権の中にも居たのだこの思想が素晴らしいと感じ入った者が。
「この思想に何時から蝕まれていたんだろう。もし活動がもっと前だとすると、一人で強大な力を持つ始祖精霊を従えてた勇者は各国にとって脅威だった。勇者を殺す。これは精霊排除――根絶の嚆矢とされたんだ」
『新たな魔王となり得る人物。国を人――軍隊を持つ前に処す』
「まぁ、想像だけど」
「いや、奴らは勇者の名を冠するセンヴァーリアと勇者像を焼き落とそうと内外からしているからな。強ち間違ってはいないだろう」
「精霊種を亜人と貶めているのも清浄派ですし」
私の国は正常になろうとした。国を文化を伝統を誇りを失いたくなかったから。
それは一般人とその声を聞いた偉い人が答えてくれると信じたから。
でも山吹色のモナカが動いたり便宜とやらで売国を図ろうとする者、発言をする者たちも居る。
この世界の清浄化とはなんだろう。
それを謳っている人たちはどんな容姿だったんだろう。
「それで、遺跡内で此れを見つけたのです」
「スジ肉――」
他の材料もアルシェさんが読み上げていく。
「なんだ……精霊学院クラウディア 学食メニュー案!? 精霊学院クラウディアは天界にあった精霊術を学ぶ為のエリート学院ではないかっ!?」
「はい……天界が砕け落ちたその上にラング・ド・シャトーが建った言う事です」
「それを私に報せたのは、遺跡調査だな……それは構わない。助手であり弟子を連れてゆくが構わんな」
「構いません」
「ふむ……濃いエーテルと魔精が溢れては困るか、いや、すでに転化し始めたか?」
転化とは人が魔に成ることだと言う。
天界が在った。学院も在った事が分かった。貴重な資料だ。
だが、私は中途半端な空白が気になった。




