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孤月の森入口に帰って来た。
ずっと森に沿って走行していたけど、こうして停まるとエクレール様たちも森が迫って来るような圧迫感と彼女たちより遥かに強い魔物の威圧感に圧倒されている。
「ソウジュ、本当に此処からがアルシェ様の館に一番近いのですか……?」
「そうですよ? 此処から入るのが一番安全なんです」
「で、ですが、凄まじいほどの重圧があるのですが……」
「右手側と左手側で縄張り、というか主が存在していて、此処は丁度境界線なんです。だから両者が睨み合っていて、それが重圧になって私たちを恐怖させているの」
次にガトーが尋ねてくる。
「で、では度胸がある者ならば紫闇の魔女の館に辿り着けるのですかな?」
「いえ、アールヴの迷いの森のようになっていますよ。防犯ですね」
「私たちで入ったら終わっていた……か」
ああ、隊長さんの心が生木骨折しちゃった。
若木骨折とも言う。完全には折れず、片側が折れたり罅が入る骨折。
剣を握っているというのがまだ護衛として騎士としての矜持がある、ということだから。
メイドさんもそうだ。普通なら逃げても仕方が無いというのに耐えている。
もしかしたら戦闘メイドかな?
「ソウジュ様、アールヴの秘境の道では魔物との遭遇は?」
「ありますよ。魔物も迷って出られない。探知、感知のスキルレベルを極めないと、真っ直ぐ向かうことが出来ないようになってます」
直感が優れている者や観察眼を持つ知恵ある者ならば手探りで迷いながらもゴール出来る様にはなっている。
「エクレール様。大丈夫です?」
「え、ええ。大丈夫よ……心の準備も出来たわ。向かってちょうだい」
「それじゃあ合図を決めましょう」
私は頷くとゆっくりとバイクを進める。
注意して慎重に……危険を見逃さない様に【索敵】で敵位置を把握して……。
敵が居れば迂回をする。
それでも避けられない敵も居る。
私は左手を横に出し、止まれのサイン。その手――人差し指だけを立てる。静かにという合図。
私はニオイなどを遮断する精霊魔法を使う。
ごッ、ごりゅッ、ぼり、み゛ぢゅ、ぶちぶちぃ、ぐちゅぐちゃぐちゃ……。
鷲獅子。
グリフォンがワニガメに似た魔物――クリスタルクロコダイア・タートゥルを貪っていた。
甲羅がクリスタル、鱗板がダイアモンドという剥製にすれば縁起物として、とんでもない値段になるぞ、と【看破】に書いてある。
そのワニガメの甲羅を砕き割り、生きたまま内臓を喰らっているグリフォン。
私は静かに精霊力を練る。
契約精霊がいない私は形の無い精霊たちの力を借りて魔法を使っている状態なのだとか。
精霊術とアルシェさんもリーゼも勘違いしていたのは、私が高出力――つまりはゴリ押し、脳筋プレイをしていたせいだ。
「ソウジュ、グリフォンを斃せますか」
「斃すよ。斃さないと進めないし、時間もない」
弓を引き絞る様に構える。
「吹けよ春の嵐、轟け春の雷――!!」
雷を纏い渦巻く暴風が鋭く奔り、グリフォンの身体を穿ち貫く。
横一線の旋回する嵐にの刃に斬られ、雷に焼かれる。
グリフォンの身体を紫電が奔る。グリフォンのライフポイントは消し飛んだ。
「完全体では無いけど希少価値の高いダイアが転がってますよ。どうします? ダイアモンドのカットが優れていれば、争いになるほどの価値になりますけど?」
「ショコラ」
「はい。かしこまりました」
メイドさんがワニガメの亡骸に近付いて、手で触れるとギュルルッと何もない空間に消えた。
「次元保管庫スキルの所有者なんだね」
「ええ。でも、良かったのですか? 希少な宝石ですよ?」
「私は国なんて背負っていないしね。私としては公女殿下との縁に勝るものは無いと思ってるよ。あ、言っとくけど何かを集るつもりは無いよ。あぁ言った希少価値の高い素材を姫様経由で処理して欲しいなぁ、って」
「どういう事でしょうか? ぼう、いえ、探索者ならば冒険者ギルドに持ち込めば良いのでは?」
「それじゃあ、ランクが上がるでしょう? ランクが上がったら有事の際や貴族の依頼は断れない。私が欲しいのは身分証明書としての登録証だから」
「貴女は権利だけを得て義務を放棄すると言うのですか?」
戻って来たショコラが私に咎めるように問うて来た。
「ガトーさんはあのグリフォンを斃すのにどれだけの人数と時間が掛かりますか? 負傷者、犠牲者は?」
「……ショコラ。ソウジュ殿は足手まとい、乱戦になっては障害物でしかない、と言いたいのだ」
「万夫不当なんて大言壮語だけど、私の技は集団向きじゃないから。少人数なら連携出来るんだけど……」
理解はした。それでも納得いかない表情のショコラ。
「貴女は称賛や名誉などは欲しくないのですか?」
「大勢の為になる事だけが正義じゃないでしよ」
ちょっと急ぐよっと私はバイクを走らせるスピードを少し上げる。ガトーさんが手綱を握る騎馬も遅れず付いてくる。




