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翌朝、早朝。
「はぁっ!! やっ!!」
私はリーゼが刀の型稽古をしているのを見学する。
大きく踏み込み、抜刀。それを繰り返す。
「どうかしら」
リーゼが刀を鞘に納めて汗を拭き、私に型は正しいか尋ねてくる。
「私が見る限りリーゼが行なってるのは星供なんだと思う。そもそも天剣流における抜刀は初見殺しや不意打ち、奇襲技なんだ」
私は木刀を手に持ち、型を行う。
一歩で接敵を崩し、二歩目で崩し、三歩目で左脚が地面に着くほど右脚を踏み込み、逆袈裟斬りで敵を討ち取る。
「これ、間合いが開いていても敵を斬れる。しかも左脚が後ろに残っているから、大きく後ろに避ける事も出来る。一撃離脱の斬り捨てなら走って滑り込んで抜刀する。見敵必殺の技」
常人で三歩破軍を例えるならジャブで一歩、二歩目でストレートで崩して、三歩目はボディーブローでKOすると言うイメージ。
リーゼが私が言った事を実践をする。
「何故、逆袈裟斬りなのかを意識して」
私はリーゼの前に立つ。
リーゼの抜刀の瞬間、防御の為に木刀を抜くが、逆袈裟斬りの為に防御がし難い。
そして私の胴はガラ空きだ。
「な、なるほど! 解ったわ!」
「それとリーゼ、左手で私の手を抑えて」
相手が巧みに防御したパターンも教える。
「ええ。こうかしら?」
リーゼが私と接近する。
「そのまま、刀を突き出す事で追撃になる。わざと袈裟斬りで崩して、三歩目を刺す攻撃で敵を斃す、と言う攻撃方法もあるよ」
勉強になるわ、とリーゼが頷く。
「リーゼ」
「なにかしら?」
「私が習ったのは剣じゃないけど、見てて」
私は一息に八回剣閃を奔らせ、最後に突き技を放つ。
凄技を見せて貰えるのかと期待していたリーゼは戸惑っている。
「基礎はどんな技にも通じるものでしょう。全は一、一は全。奥義だよ。天剣流の」
私はリーゼの耳元で囁いて通り過ぎて行き、家に入る。
浴室で汗を流し、防具、武器を装備しない状態で戦闘衣を着る、と言っても感応石に精霊力、魔力を込めるだけで、纏った状態になる。
変身ヒーロー少女になった気分だ。
「……リクエスト、だよね」
キッチンに来てエプロンを着けていると一枚のメモが目に留まる。
「……いや、まぁ、作れないことも無いんだけど、材料とか揃ってるのかな?」
アイテムボックスを漁る。
――看破が無ければ何が何だか判らなかったよね。
トライアイサモン:三つ目の鮭。高級魚。王族でも一生に一度口に出来るか出来ないかと言う幻の鮭。
アルフィドパン:硬いパン。魔導大国アークディーネ。その王都、アルフィードで作られているパンの製法の一つ。
タツターゲの卵:巨鶏。鋭い嘴で目にも留まらぬ刺突攻撃を繰り出してくる。避けないと風穴が空くぞ。その昔、コカトリスを調教し、品種改良し、毒も石化羽根も無効化され、養殖された。
勇者の「竜田揚げ」を仲間の一人が「タツターゲ」と聞き間違えたのが名付けの決め手になった。
ライデンシャフトマテ:ライデンシャフール地方で採れる情熱的な完熟トマト。
海藻紙:海苔。
ご飯:調子にのって炊きすぎたご飯。
「あとは昨日の出汁を取った昆布と白ワイン、油揚げを煮付けた煮汁」
昆布を細く切り、煮汁に白ワインを足し、汁気が無くなるまで混ぜながら煮る。白胡麻を振れば昆布の佃煮の出来上がりだ。
油を熱する。これ椿油だ。
次はトライアイサモン。有難いことに切り身になっているから助かる。
それも当然でアルシェさんかリーゼが切り身にしたものだからだ。
パンを粗く粉にして卵を解く、トライアイサモンに軽く塩、コショウを振り、小麦を纏わせ、パン粉を付けて油で揚げる。
アイテムボックスに保存。
トマトケチャップとマヨネーズをつくり、混ぜてオーロラソースを作る。
「本当なら磯辺揚げも欲しいところだけど……」
出汁巻き玉子を作る。
皿に盛り付ける。ご飯に昆布の佃煮を乗せ、海苔を被せる。白身魚フライでは無く鮭のフライ。出汁巻き玉子。
唐揚げもスパゲッティもポテトサラダも無いけど
急なリクエストの朝食としては良いんじゃない?
アルシェさんが研究室から出て来て、リーゼが鍛錬を終えて身なりを整えて来て、テーブルに着く。
二人はこれが勇者が旅程で求めた料理か……と味を噛み締めて食べていた。
他に比べようが無いから、味が好みか、口に合わないかの評価になってしまうし、此方の似た料理と比較するとしても、二人は何が正しいか判らないから結局味の好みになるわけだ。
「各地には勇者が求めて作らせた元祖○○と言う食事処が多い……。だが、どれも酷いものだった。勇者の手料理で育ったソウジュの再現した料理ならば信じられる」
「中には酷いものもあったのよ。カーニスの港町で勇者が喜んで食べて讃えたっていうニードルオストリカの揚げ物を提供する店があるって聞いて行って見れば、町に賑わいは無いし、流行り病が町を襲っていたのよ」
「腹痛とか嘔吐、発熱じゃなかった?」
「正解よ」
「それ、熱が中まで入ってなかったからだよ。あと、母さんは牡蠣を食べれないから絶賛なんてする筈がない」
私も牡蠣を食べたことはない。
「あと、その時の母さんに食への関心は薄かったはずだから、各地で勇者が求めた、とか振る舞った、伝えたなんて言うのは嘘だよ」
「そうなのか?」
アルシェさんが一冊のノートを差し出してきた。
受け取り、開く。
食には興味は無いけど、好みはある。
栗、芋、水羊羹、練り菓子、カレーパン。のり弁、いなり寿司。
日本中あちこち回ったって言ってたから、のり弁は移動中に食べたりしたのかな。
あとの料理に関してはコミニュケーションの中で出した程度だ。
「そうなのか……残念だ」
アルシェさんとリーゼは改めて美味しかったと言ってくれた。
片付けはリーゼがやってくれると言うので、私はアルシェさんに感応力を学ぶ。
バケツに入った銀色の液体――精霊銀と感応鉱石を液体にして入れた物だ。
これを精霊力で混ぜる。
バケツの縁から溢れないように、バシャバシャと液体を荒らさず、飛沫を立てないように……。
これが思ったよりも難しい……。
ドバシャッと、液体が爆ぜた。爆ぜで降り注ぐ液体が集まってミスリルスライムになって襲ってきた。
【先駆け】のスキルで蹴り上げる。
いくら素早く動き逃げれても、蹴り上げられたら逃げようも無いはずだ。ミスリルスライムを追って私も跳ぶ。
「竜頭伏勢」
ズムっと空中でミスリルスライムを掴むと、地面へと向けてミサイルの如く勢い良く下降する。
竜の頭を地へと押さえつけ、屈伏させる調教技。強制的に土下座させるという技だ。
お尻を高く上げる形にされて、頭を地に伏せられる。竜からすれば恥辱極まりない。
瀕死にして、バケツに入れ、とどめを刺すと液体に戻る。
くるん、と縁を回り飛び出した液体が刃となって飛び、森の木々を切り倒し、潜む魔物も斬り殺す。
ドロップ品を無駄に出来んとアルシェさんは取りに行く。
その背を見送っていると死角からデフォルメされた偃月刀の刃の魔物が襲いかかってきた。
刀身を折り斃す。
そして、液体に戻し、今度こそ――
「さっきから何してるのよ」
と呆れた顔のリーゼが声をかけて来た。
液体柱が上がる。
人形に成る。その瞬間、私はリーゼに飛び付き、二人で地面を転がる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
女性型マネキンと言うか、アクションフィギュアの素体の様なミスリルドールがミスリルの日本刀を持って立っている。
「な、何よ、アレ」
「勇者センヴァーリアの戦闘人形……」
「はあっ!?」
イメージしてしまったのだ。
スッと静かに、戦闘人形が構える。八相の構えと酷似しているが、刀を担ぐように構え、左手は柄に軽く添えた構え。
「あ、死ぬわ」
「ええっ!? 冗談じゃないわよ!?」
「良い、リーゼ、私が出来るだけ粘るから、戦闘人形から技を盗んで」
私はリーゼに説明する。
破軍の構え。腕――肘から構えから刀身の形が天の剣――北斗七星の形に見え、その鋒、北斗七星の破軍星を背にする形となる。
破軍星に挑めば必ず敗れ、逆に背にして戦えば必勝が約束される。
リーゼが息を飲む。
「く――」
来る、と感じた瞬間には――
初撃を躱せた。そのまま地面に身体を投げ出して地面を転がって離れ、素早く起き上が――
股のしたを前転で潜り避ける。
鞘と刀で私の首を狩りに来た。【金烏玉兎】を前屈みになって避け、【天照】――掌底アッパーを放つ。
戦闘人形はスッと身体を仰け反らして躱すと、クルッと回り私の背中を横凪ぎに斬られた。しかも押し飛ばして来た。
「ぁ゛がっ!」
斬り吹き飛ばされた私は地に伏せる。
「ぁ、ぐ……」
私のイメージに過ぎない。だから弱い。弱い筈だけど――
私が母さんの闘う姿を見たのは一度だけ。
品良く煽り、格の違いを解らせていた時だ。静かに怒ってたからなぁ。
その時のイメージだ。
律儀にバケツへと戻り、液体に戻った。
「ソウジュ!!」
「ぃ、生きてる……。私のイメージだから本物より弱かったのが幸いしたよね。けど技のキレは本物だよ。私が見てきた技のキレだった。どうだった? ちょっとは役立った?」
「ちょっとどころじゃ無いわよ」
「アレが……勇者の剣術か。貴重な資料が撮れた」
アルシェさんが撮影魔導具だろうか―― を手にして、私に言ったのだもう一度作れ、と。




