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 アルシェさんは帰宅して直ぐに私に部屋を与えると、センヴァーリアの町の事を調べると言って、アルシェさんは研究室に籠って、歴史書、調査書などを調べなおしている。

 

 私が勇者像が――正しくは神剣が何かを封じる為の物だと看破したからだ。


 以前に見つけた石板、壁画、書片、詩片等から得た情報の中にそれらしい情報(歴史)が記されていないか再確認するためだ。

 

 アルシェさんからは腹が減れば好きに食材も香辛料も使って良いと言われている。


 私は木製の香辛料棚を見る。

 すると、看破が香辛料の名前が、私にも理解しやすいように翻訳されて浮かび上がる。


 その香辛料棚にはメモが置いてあった。


 メモを手に取り読む。


「伝説の勇者が仲間に振る舞おうとしていた料理……ねぇ……」


 私はそれが本当かどうか訝しむ。


 何故なら16、7歳だった時の勇者は料理なんて出来なかったからだ。


 ――まあ……刃物の扱いと斬ることなら誰よりも巧かったとは思うけど、香辛料とか調味料には興味無かったはず……。


 それなのにメモには「振る舞おうとしていた」という記述がされている。

 

 ――アルシェさんたちが勇者の仲間の手記でも見つけたのかな? 


 メモを読み進めると、勇者の故郷の料理を、勇者から伝え聞いた仲間が再現しようとした、と書いてある。

 

「勇者と歴史研究者のアルシェさんとリーゼは食べた事のない料理を再現しようとしてるのか」


 ――でも何のために? そんな味も見た目も分からない料理を作ろうなんてしてるのかな?


 ページを捲る。

 

 勇者曰く――


 私はメモを元の位置に戻す。


 食材が入っている魔導具の扉を開ける。


「冷蔵庫、だね」


 使用されているのは氷の小さな魔石と風の魔石かな?


 メモに書かれていた食材を探す。


 なんと言うか異世界料理は面倒だ。

 何せ一から作らないといけない。

 顆粒のコンソメやかつおだしがあるわけじゃないし、うま味調味料も無い。

 なんちゃって料理、手抜き料理に必要な焼肉のタレや、すき焼きのタレがない。何より各種ルーもない。


 まぁ、出汁の取り方くらい教えられたけども……。


「この冷蔵庫もしかしてアイテムボックスでは? 食材が全然傷んでない」


 冷蔵庫ではなかった。ひんやりしていたのは偶然氷の魔石と風の魔石が入っていて反応していたからだった。


 私はお目当ての物を探り当てた。


 キッチンにある物を見ていく。

 

 魔導具:【フードプロセッサー】※私に解りやすいように翻訳されている。

 アルシェが購入させられた【削り器】


 先ずは見つけた食材の乾燥昆布をフライパンで炒って水分を飛ばす。

 後はフードプロセッサーで粉末にする。

 鰹節削り粉末にする。うま味調味料の出来上がりだ。

 米を炊く。 


 アルシェさんが手記を頼りに東方商人から購入した食材だ。


 料理をしたことが無かった――いや、する必要が無かった母さんは、まぁ割りと舌が肥えている。

 学校で習ったレベルの腕はあった筈だから、簡単なものなら振る舞えたのかな?


 湯を沸かす。

 食材を半分に切り、切り口を開く。

 湯にソレを入れて一、二分茹でる。


 商船が行き来出来るくらいには――と考えたが魔導具があるか。


 かなりチグハグさが目立つ。

 中世の街並み。馬車。軍馬。

 スキルや魔導具がある所為かな?

 強大な魔物を斃すには魔導兵器に使う素材が手に入り難いからかな? 後は技術だ。人材が育たないのかな?

 

 もしかして、設計図が親方――棟梁の頭の中にしか無くて、弟子は言われた通りにしか仕事が出来ず、技術を磨けないとか? 技術は見て盗め、タイプかも知れないね。


 閑話休題。


 湯から取り出したソレを冷ます。


 鍋に水を注ぎ、うま味調味料で出汁をつくる。味醂、醤油、砂糖を入れ、油抜きし、水を含んだソレから水を切り、鍋に入れて落とし蓋をして煮詰める。


 煮詰めれば色良い柴犬色――きつねになる。

 きつねより柴犬が好きなんだけど。

 ご飯が炊けたら、酢飯を作るんだけど、少量の出汁を使う。刻み生姜を出汁に入れ、風味を出す。

 白胡麻と黒胡麻をブレンドして、ご飯を切るように混ぜる。冷ます。生姜出汁酢飯をお揚げに詰める。


 ふっくらした……柴犬寿司じゃだめ? ……稲荷寿司の出来上がりだ。


 薄いお揚げの稲荷もあるけど、私はジューシーな肉付きの良い方が好きだ。

 

 出汁巻き玉子焼きも作る。


 私はご飯が食べられなかった。正しくは白いご飯だ。

 焼き飯、ピラフ、チキンライス、稲荷寿司、親子丼、煮込み肉団子丼――とにかく味付きじゃないと食べれなかった。

 それは今でも変わらない。とんかつを食べる時、ソースやケチャップを一度白飯につけて食べる。お好み焼きも、焼きそばも、ラーメンも一度ご飯につける。

 だからあまり外食はしない。人と食べないようにしてるんだ。


 人と食べる時はしないくらいの配慮はする。


 ん。酢飯の生姜の爽やかさとシャキとした歯ごたえに、胡麻の風味、優しい味の出汁がジュワッと染み込んだお揚げが美味しい。うん美味しく出来た。


 出汁巻き玉子焼きも美味しく出来た。

 兵庫県の“明石焼き”も美味しいんだよ。同じ県の姫路の“そば”も美味しかった。牛肉も美味しいよね。黒豆を茹でて栗も美味しかったんだよね。

 栗でマロンクリームを作ってエクレアやモンブランを作ったのは良い思い出だ。


 閑話休題。


「何やら腹が減る匂いがしたが、料理をしていたのか……」


 アルシェさんが研究室から出てきた。


「何を作った?」


 ふむ、とアルシェさんが調理台を見る。


「使い方を説明していなかった筈だが――なるほど看破のスキルか……看破のスキルがあればどの様に調理器具を使い、食材の調理の仕方も分かるのか?」


「この調理実験の材料を貯蔵庫から見付け出して――」


 私は【看破】で得た知識――そんな風に装って食材について語った。


「……【看破】とはそこまでのスキルか……」


「分かるのは何なのか、で味は私の好みだし、調理方法なんて煮る、焼く、蒸す、揚げる、炒める、茹でる、和えるに限定されるんだから、どれかは当たるよ」


「今回はそれが当たったと?」


「手記の研究メモがあったから、当たりを引けたかな」


「なるほど……コレが勇者センヴァーリア様が仲間に振る舞おうとした料理、か……。コレがセンヴァーリア様の故郷の味……」


 アルシェさんが俯いてしまう。

 その表情は、心の裡は窺い知れない。


「センヴァーリア様は異世界から、この世界に召喚されたのだ……センヴァーリア様は故郷へは帰れなかった……人の手によって討たれてしまった……新たな脅威だと、救った筈の人々に罠に嵌められてな……」


 ――……。


「そうか……これが……」


 チクチク、心に針が刺さる。

 

「アルシェさん、実――」

         「ただいま戻りました!!」


 本当の事を告げようとした私の言葉は、帰って来たリーゼによって吹き飛ばされた。

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