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精霊界――それが何時、どの時代に存在したのか記録――歴史として残っていない。
普通ならその時代に起きたとされる事変や事件すら残っていない。
全てが戦火によって焼き払われてしまったのか、禁書、焚書となって闇に葬り去られてしまったのかは分からないが、その存在を全て消し去ることは出来ない―― 出来なかった。
その手掛かりは幾つも散見される。
私が見つけたセンヴァーリア辺境伯領都――あの町の地下に封じられたダンジョン。
この孤月の森、私が目覚めたアールヴの森と聖泉――分かりやすいのが世界樹だ。それらが精霊界の一部だとアルシェさんの記録書――研究書に記されていて、他所にも精霊界の断片が地上の一部となって在る、と記されているが、その上に街なり城――国が建てられていては発掘調査も歴史研究も容易ではない。
精霊も若い世代は知らない。どのくらい古い精霊を探し出せば知ることが出来るのかも判然としない。
唯一の手掛かりというか知っていそうなのはアルシェさんの契約精霊とリーゼの契約精霊だと分かっていても、その契約精霊は黙して語らず。知りたければ自分の足で目で真実を探し出せ、というスタンスだと言う。
あと一つ。この世界でセンヴァーリア天剣流とされている古流戦術。
アルシェさんとリーゼも修めている。
アルシェさんに教えたのは彼女の契約精霊で、リーゼに教えたのはアルシェさんとリーゼの契約精霊。
センヴァーリア天剣流には源流、破流、雅流が在る。
破流は衛士、冒険者たちが習っていて、雅流は王族、貴族、騎士が修めていなければならない。
源流は天剣流、破流は天煌覇流、雅流は天聖流として在る。
天煌覇剣流は出鱈目な強さに焦がれた勇者の仲間の戦士が開いた修練場が始まり。天聖流は同じ仲間で後に建国の王となった剣士がその流麗な技の閃きに魅了されて王侯貴族に修める事を義務付けた。
破流も雅流も勇者の戦技に魅せられた戦士と剣士の見様見真似の我流を昇華させた戦技なのだ。
源流は勇者の精霊が頑なに護った為に広まっていない。精霊が認め契約したものにしか伝えていない。
後は騙りだと言う。
そしてアルシェさんは森に入ってから私を戦わせて戦技を観察していた。
源流なのか破流なのか騙りなのかを。
私が精霊を使役する気配が無いから、勇者が契約していた精霊、または親しい精霊から学んだとは考えてはいないようだけど、それでも技が源流なのだと確信したはずだ。それはアルシェさんが契約している精霊が肯定していると思う。
「空に蜃気楼のように微かに見える島。島のように見えるのは大気に溶けるエーテルの濃さ故だ。エーテルが雲の様に幻島の全容を隠してしまうから、地上の人々には島として目に映る」
私は母さんの著書の【天穹戦記】第一巻のプロローグを諳んじる。
「その島は隣界という人々の世界と重なる様に存在する精霊界。色とりどりに煌めく精緻な紋様を描く羽を持つ見目麗しい精霊が住まう島。深い森にの中から聳え立つ精霊樹。その根元には精霊が産まれる泉が在る。そして精霊たちの祖。精霊女王とも女神とも云われる紅、白、黒、翠、蒼、紫、黄、金、銀、の女神が存在している」
ラノベでは髪色や目の色、衣装や展開された羽根がそれらの色をしているから。“紅の女神” “紅の女王”と呼ばれていた。
名前で呼べないのは、認められていないものが真名を呼ぶのは不敬で、その禁を破り呼べば怒りを買う。
ラノベの物語は本当なんだけれど……見つけたいよね。それが本当にあったことだって証拠を。
知らない世界。知らないこと。見たり調べたり探索するのが楽しみになってきた。
それ以上に大変で辛いことが待ち構えているんだろうけど……。
一つずつちょっとずつ乗り越えていこう。
アルシェさんと私はリーゼが戻り次第、この森の奥へ調査しにいくことになっている。




