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 【索敵】に反応がある魔物や魔獣の位置を示す光点が、赤黒い円がとなって一つに点っている。

 そんなアクティブ状態の魔物たちが住まう鬱蒼とした森と平原の境界に目立たないように木杭の目標が在る。

 

 苔生してるし、それが孤月の森の入り口――アルシェさんの住まう場所への道標だなんて言われなければ分からない。


 鬱蒼とした森は威圧感を発していた。見ていると取り込まれてしまいそうな錯覚に陥ってくる。

 森が放つ威圧感だけでは無い。弱者を寄せ付けない生の生々しい威圧感もある。

 街道――馬や馬車、人が踏み固めて出来た道――森に近付くとアルシェさんは御者に馬車を止めさせ、徒歩で森の入り口まで来たわけだけど、先に述べたとおり威圧感で御者は逃げるように町へと馬車を走らせた。


「行くぞ。この程度の魔物、ソウジュならばどうということもなかろう?」


 そう言うが早いかアルシェさんは森に入っていった。


「ま、待ってよ」


 私は慌てて追いかける。怖いからじゃない。いや、見知らぬ土地の鬱蒼とした森は怖い。日は昇っているのに森は暗い。


 季節は夏が始まったばかりかな? 少し汗ばむ。とは言っても日ノ本の狂った暑さよりは――


「涼しいんだけどさ……。森の中は肌寒いのに生と死の熱さと冷たさが混ざり合って生温いというか……生臭い」


 それらが肌に纏わりつく。気持ち悪い。


 だって地面を見れば木の根かなって思ったら獣の骨だしさ……。


 獣の疾駆音――


「気は木。木は地を割り厳を断つに至る。気が枯れるは木枯れ、枯れた地は穢れる。我、生吹気いぶきを以て穢れを断つ――」


 天剣流 禄存


 草木をかき分けて疾駆してきた魔獣が飛び出して来た。


「文字通り飛び出してお腹見せるなんて馬鹿なの?」


 手刀を逆風――下から上へと振り抜く。


 胸部から頭が左右に裂ける。


 心臓は割ったし、脳も殺った。


 魔獣の血などが降り注ぐけれど、私の身体は汚れていない。


 反対の木陰というか茂みの向こうに落下する死体を蹴り飛ばす。


 するとギャウ、だかキャインだか鳴いて逃げていく。


 ――蹴った死体で何匹か死んで残りは逃げたな。


 一匹を囮に背後から数匹がかりで私を襲い喰い殺す策だったのだろうけど……。

 そんなの群れで狩りする獣の常套手段でしょうに。


「魔法?」


「正しくは精霊術――まぁ精霊の力を借りた魔法みたいなものだ――と言っても基本的な魔法だ。なにせ冒険者や探求者、学者なんてものは何日、何十日と何カ月とダンジョンに潜り、旅をし、研究する。その間、まともに水浴びすることも出来ん、衣服を洗うことも出来ん、排泄もそうだな。だから、こう言った魔法が生まれた」


 成る程。


「ソレはソレとして、やはりこの森のストラテジアルーポを単独かつ無傷で斃せたな」


 ストラテジ――戦略、策を講じる狼って意味だ。名前が長い。策狼さくろうで良いや。


 でもどう言う意味だろう? と首を傾げる。


「解っていないな。他の森の魔狼ならいざ知らずこの森に限って言えば狼は一匹で行動する。長争いに負けたからでは無い。強過ぎる故に番以外の群れを滅ぼしたからだ。だが、それには劣るがまだ強く若い雄のストラテジアルーポが率いる群れが在る」


「でもその雄だって群れを壊すんでしょう?」


「いや、それがそうでは無い。奴らは個での強さ――強くなることを捨て、群体として強くあろうと種を定めたのだ」


「でも、斃せた」


「馬鹿者。普通の――辺境伯最優のだとしても最初の一匹は対応出来るだろう。だが、その一匹に何人がかりになる? あの狼のポテンシアはレベルは200から300。それでもアレは偵察隊だ。この森では弱い内に入る。では辺境最優の冒険者のレベルは視たか?」


 私は首を振る。


「シルヴァラのブランでレベル58だ。そしてレベル60がただの人間が辿り着ける限界値だ。因みにだがな。ゴブリン討伐で冒険者たちが想定していたのは10から30。最優の冒険者に任せるのが40から70。たかが10と思うだろうが、人と魔物のレベル差は大きな隔たりがある。それが役付の魔物ならばなおさらだ。それが変異種だった。一撃で良かった。一撃で良かったのだ。逆境、窮地での一撃。それが限界を破るきっかけとなる」


 アルシェさんが両手を広げる。


 この森の魔物、魔獣は死闘の果てに生き残って回復して強くなって来た、とアルシェさんは言外に示す。


 そしてアルシェさんもこの森で生きている。


「冒険者ギルドが推す「生命を大事にゆとりを持って冒険しましょう」を否定するつもりは無いがな」


 アルシェさんの目が私を射抜く。


「して、ソウジュ。お前は何を相手にした? 流浪での経験値などで突破して至れるレベルなぞ90が良いところだ。だが、お前の強さは異常だ」


 やっぱり思い至るよね。


「魔神。気が付いたら丸腰で魔神の神殿に居て、魔神に背後から攻撃されて、風穴空けられた時に顎に一撃入れて……死んだはずがアールヴの世界樹の根本――真っ裸で泉に浸かってた」


 アルシェさんの目が点になっていた。


「ま、魔神だとっ?!」


「ゼノフロース。日焼けしたような褐色の肌に紋様があって黒髪、黒目――虚無、混沌を人の形にしたかのような女神」


 私は覚えている特徴を述べながら絵を描く。


「8枚羽の紋様に己の格を示す紋様を身体に刻んだ死と腐敗、虚無と混沌を司る魔神……古書に記された通りだ……だが、センヴァーリア様が斃したはずだ……」


 アルシェさんが私の絵を見ながら考えに没頭する。


 アルシェさんが強いと判るのか魔物たちは彼女に襲いかかっては来ない。ついでに近くに居る私も襲われない。


 因みに私が策狼に襲われたのはアルシェさんから離れていたから。あとは弱そうと捉えられたから。


 私が斃した策狼の死体は無い。血の痕跡も。魔石と毛皮が在った。

 毛皮には気配遮断、消音の効果がある。身体強化値は“すばやさ”と踏破力が15%向上する。


 この踏破力というのは曲者でコレが低いと低い段差でも越えられない、とか狭い溝も跳んで越える事が出来ない、とか低い山や丘も越えられない。常に迂回させられる。

 因みに勇者には【是非】というアクティブスキルがあって優柔不断な態度は取れないという。

 コレに【即断即決】なんていうアクティブスキルもあるのだから融通が利かない、というか自分だけが正義だなんて思考の持ち主でないと勇者には選ばれないのだろう。

 

 閑話休題。

 

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